DREAM NOVEL
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棚から牡丹餅って言うじゃあありませんか、ねえ

駒と据え膳

 蜀の将軍の一人、は男色家だ。とは言え開けっぴろげにそれを周りに知らしめることはないので、隠された性癖と言って良い。それも、三十八というそこそこ脂の乗った年齢の人間が、同じ男にのしかかられることが好きだ等誰にも言えやしないのだった。好みの男性は中肉中背よりもやや筋肉が乗った青年で、見目は北方の彫りの深い顔立ちを持ち、勿論を好いていてくれれば言うことも無いという体だ。

これでが綺羅星の如く美しいか、その手の男に好かれる様な漢であればそれなりに楽しめただろうが、重たい瞼と削げた頬がそれを邪魔していた。別段親を恨むことはないが、どことなく負い目を感じてしまうのには疲れている。将軍としては中堅として一目置かれているし、家柄も中程度、女官達ならば滑り止めに候補としてあげてくれるだろう。だが、どんな女官であってもを楽しませはしないのだった。

そんな男であって男ではないような特殊な性癖を持つの悩みは尽きることはない。なぜならば、同じ将軍職にある男達の中に、秀麗な人物が多すぎるのだ。朝議の度に、調練の度に、がどれ程胸の高鳴りを抑えたか知れない。の気も知らずに男同士の悪ふざけ等された日には卒倒するかと思った。特にあの男は油断ならない。

「いやほう、。今日も真面目な顔しちゃってるねえ」
「そういうお前はちゃらんぽらんとでも言うのかよ、馬岱ちゃん」

馬岱だ。の執務室にひょこりと顔を覗かせた馬岱に、は手にしていた筆を握りしめたまま笑顔を見せた。そう、馬岱はの好みのど真ん中を突いているのだった。勿論そんな素振りはおくびにも出さないが、執務室が隣のせいか、頻繁に尋ねて来る馬岱にいつ化けの皮を剥がされてしまうのかと気が気ではない。今日も今日はで高鳴る胸に平常心を貼付けると、は何用か、と穏やかに尋ねた。

「何って、昨日さ、すっごいものを見つけちゃったんだよう。君に見せたくて持って来たんだ、ほら」
「何なに……、ぶ、ば、馬鹿、こんな昼間から出すんじゃないっ」

ひらり、と馬岱が拡げたのは春画だった。それもかなりどぎついものである。線の細い果敢なげな女を縛り上げて男が楽しむという図で、にしてみれば面白くもなんともない。しいて言うならば少し相手の男が好みの顔立ちと言えなくもなかった。一応たしなみ程度に女を知っているの目からしても出来は悪くなく、なかなか肉迫した筆致ではある。問題はそれよりも馬岱が面白がってに見せてやりたいと持って来たことだった。

「焦っちゃって可愛いじゃない。いやさ、こんなに綺麗に描いてあるのなんてなかなかないでしょ。なんなら、今から使ってみるかい」
「阿呆か。昼間だぞ」
「昼間じゃなかったらするの」
「揚げ足を取るな。第一、俺の好みじゃない」
「ふうん」

面白げに目を細める馬岱に、はしまった、と顔を顰めた。これは良くない兆候だ。何か面白い――にとっては面白くも何ともない、寧ろ被害を被る様なことを考えついたに決まっている。思わず逃げの姿勢を取ると、馬岱ががっしとの手を掴んだ。

「そういえば、今まで話したことなかったよねえ。の好みとか、さ」
「知っても仕方ないだろう」
「俺は知りたいけどね」

きゅ、と手指を絡められ、は思わず背中を粟立てた。心臓が早鐘を打つ。普通、こういったことは男同士ではしないのだろうが、騎馬民族の習慣なのか、馬岱は時折こうしてに触れてくる。その度に、がどれ程苦しい思いをしたか知れない。

「教えてよう。ね」
「……知って何がしたいんだ」
「何って、ほら、今度はもっと好みのやつを持って来て上げるとか、良い娘を紹介して上げるとかできるじゃない。無駄にはならないよう」

それのどれもが嬉しくはないんだとは叫びたかったが、ぐっと堪えて絡まる手指の感触から気を逸らした。この分では、なかなか離してはくれないだろう。とは言え言う訳にもいかず、は心底困っていた。黙り込んでいると、馬岱は益々目を光らせて机に身を乗り出した。

「そんなに言えないなんて、いけない趣味でも持ってるのかな」
「持ってない」
「うーん、嘘だね」

ずばりと切り捨てると、馬岱はもう片方の手での顎を捕らえた。本当に馬岱は男色家ではないのだろうか、と思わず疑いたくなる様な所作である。自然、は馬岱の顔を真正面から見ざるを得ない。まるで睦言を交わすような距離感に焦りを覚えていると、馬岱はにやりと笑った。

「いいよ、今言えないなら今夜聞くから。久しぶりに呑みにいこうよ」
「嫌だと言ったら?」
「その時はまた明日聞くかな」
「しつこいんだな」

苦笑すると、はわかった、と絡まる手指を乱暴に剥がした。

「呑みに行こう。たまには良いさ」
「そうこなくっちゃ。あー、今から楽しみだなあ」
「仕事はちゃんとしろよ」
「するする」

あっさりと顎から手を離すと、馬岱は身をひいてそのまま自室へと引き下がっていった。その背に向かって苦虫をかみつぶした様な顔をすると、はどっと汗をかいた額を拭った。

「……あ、危なかった」

もう少しで口付けしてしまいそうだった。ああ、なんて思わせぶりなのだろうか。きっと何も考えていないに違いないが、にしてみれば一大事である。ここに丁度良い理解者でもいれば間違いなく報告して共感してもらっただろうが、には居ない。心底悔やまれる、と下唇を噛むと、は再び平常心を胸に貼付けて仕事に向き直った。少し、冷静になる必要があった。




 暮れの銅鑼が鳴らされる頃には恐ろしい程に順調に仕事が終わっていた。それは隣も同じであったらしく、逃がさじとばかりに馬岱が再び顔を覗かせる。仕方なしに腰を上げると、は馬岱の後をついて、暮れなずむ街に繰り出した。

「で、今日はどこに行くつもりなんだ」
「内緒。面白いところだよ」
「そ、そうか」

そんな風に言われる時はきまって罠がある時だ。が、逃げる訳にもいかず、は冷や汗をかきながら冷静になるんだ、と自分に言い聞かせた。用意しておいた答えを暗唱すると、暫し目を閉じて周囲を観察する。どうやら面白くないことに、馬岱は何処かの妓楼にでも上がり込むつこりらしかった。格子の向こう側から、楽を奏でたり、化粧をしたりと美しい女達が男を誘うように笑っている。

 が最初に抱いた女は確か妓楼の女だった。少し男勝りで、女を抱いたというよりもまるで抱かれたような感覚を抱いたことは今でも覚えている。あれから付き合いで数回女を抱いたが、どれも折れてしまいそうなか細い女ばかりで物足りなかった。こうなれば腹をくくるしか無い、とはどの女にすべきかと思いめぐらせていたが、馬岱の足は一向に止まらない。妓楼の並びの更に奥へと向かい、高級娼妓の居る並びも通り過ぎる。少し閑静な通りに入り込むと、馬岱はここだよ、と小さな門を潜った。

「いらっしゃいませ、馬岱様」
「やあ鳳仙花、久しぶりだね。今日は友達も連れて来たよ」
「あら、これは気付きませんで。失礼致しました」
「初めまして。だ。馬岱の同僚でね。今日は世話になるよ」
「ふふ」

思わせぶりに笑う鳳仙花は美しかった。ただ、何の変哲も無い娼妓である。何が特別な趣向なのだろう、とが首を傾げていると、勝手知ったる様子で馬岱はどんどんとを誘って奥へ奥へと歩を進めた。湯屋があり、得体の知れない数字が書かれた看板が部屋にでかでかと飾られていたりと少々変わっているものの、極普通の妓楼のように思われた。時折、北方民族だろうか、胡服を纏った女が歩いている。さては異民族を抱けるというところが変わった趣向なのだろう。一人納得すると、は案内された奥の部屋に入り込んだ。

 大きな寝台が真ん中にあり、その横にこれまた広々とした卓子が置かれている。掛けられた絵は極彩色で贅沢さを表していた。卓子の上には既に酒とつまみが置かれており、それ以上でもそれ以下でもなかった。要するに、二人で入るのがおかしいだけで、後は酒楼とも変わらない様相だったのである。小首を傾げながら腰掛けると、は何が変わっているのだ、と馬岱に尋ねた。

「いけない趣味の人でも楽しめるところだよ。気付かなかった?」
「何がだ。北方民族の女性のことか?」
「あはは、気付いてなかったんだ。あれは男だよ」
「な」
「ここは男も女も居るんだ。鳳仙花は確かに女だけどね、さっきすれ違ったのは男だよ。ま、俺は女しか選んだことがないけどね」
「……お前は俺が男を選ぶとでも思ってるのか」
「違う?」

嫌な笑みを浮かべると、馬岱はの手首を捕まえた。途端、一挙に熱が集まったかの様な錯覚を覚える。それでも表面上は平常心を取り繕っていると、馬岱は手札を見せた。

「脈拍が凄く早くなってるよ、。俺、何かしたかなあ」
「してないし、早くもないさ。元々だろう」
「ふうん。そういうことにしても良いけど。ほら、お酒呑んで、呑んで」
「んぐっ」

無理矢理杯を唇に押し付けられ、は思わず咽せた。こいつ、殺す気なんじゃあないだろうか。顎からだらりと流れた酒に、衣服も濡れてしまっているだろうとは嫌な気持ちになった。の家令はなかなか小姑のように煩い。

 馬岱の手を振りほどくと、布巾で顎を拭う。矢張り衣服も濡れており、申し訳程度にこれも拭うと、は恨みがましげに馬岱を睨んだ。

「どういうつもりだよ。呑むなら普通に呑もうぜ」
「ごめんごめん、ちょっと面白くしたかったからさ。ね、昼間の続きを教えてよ。前に普通の春画を見せても反応しなかったし、今日のも反応なし。あんな可愛い男の子にも興味がない、とするとどんないけない趣味を持ってるんだい」
「だから、いけない趣味だと決めつけるなよ。俺はね、そういったことにあんまり興味がないだけなんだよ。普通に恋愛して、それで十分だろう」
「純粋だねえ。……で、本当のところはどうなのさ」
「しつこい」

帰るぞ、と言うと馬岱がごめん、と笑っての杯に酒を注いだ。強い酒にも関わらず、水のように馬岱は呑む。まともに付き合っていると潰れるだけなので、は舐めるように呑んだ。矢張り強い。瞼の裏がちかちかする。仕方なしにえさでも与えよう、とはかつて抱いた女の話を披露した。何も知らない訳ではないし、極普通の趣味であることを証明してみせようと言う訳だ。

「普通だね」
「普通だろう。まあ、まだ恋愛はしていないから、思った通りにはいっていないがな」

男にしたって行きずりのような流れしかないから、全てはの願望に過ぎない。もし目の前の男が男色もたしなんでいたら、と考えては頭を振った。あり得ない話だ。

「じゃあさ、ちょっといけないことでもしてみない」
「何が『じゃあさ』だ。しないぞ、俺は」
「男同士の付き合いだって大事だよ?おいでよ」

何を考えているのか訳が解らず、酒の酔いも相俟っては大人しく馬岱に手を引かれた。転がされた先は先程の巨大な寝台で、馬岱もに向き合うようにして横になると、囁くように告げた。

「ね、、ここでしてみせてよ」
「面白くないだろ、それ。気持ち悪いだけだぞ」
「気持ち悪くなんかないよ。それとも、今までやったことないの?」
「だから、何でそういう流れなんだよ。俺がどうしようと勝手だろ」
「俺は見たいよ。面白いじゃない。それに、きっと見られるともっと気持ち良いと思うよ」

変態めいた台詞を吐くなり、馬岱はの漢服に手を掛けた。忌々しいことにこの服は割合に脱がせやすい。おまけには酒のせいで思うようには動けないでいる。あれよあれよという間に剥かれてしまうと、は寒さにぶるりと震えた。

「ほら、やってみせてよ。ちゃんと見てあげるから」
「やだ」

じろじろと見られるのが恥ずかしく、は思わず身を縮こまらせた。が、馬岱の攻勢は揺るぎなく、あっさりと阻まれてしまう。おまけに確かめられるように下半身を探られて、は今度こそ顔を赤らめた。これで男色でない等と言われるのだからたまったものではない。慌てて馬岱の手を遮ると、は自分でやるから、と泣きそうな声で言った。

「ふふ、見せて」
「この酔っぱらいが」

上体を起こすと、は徐に足を拡げた。そうすると成人男性としては並程度の一物が顔を覗かせる。少し躊躇いながら掴むと、は馬岱の目に耐えられなくて瞳を閉じた。目の前の男に弄られることを想像する背徳感に背筋がぞくぞくする。ゆっくりと上下に擦り上げると、は少しいけないことをしてみせてやろうと下唇を舐めた。空いた片手をするりと上体に滑らせると、ぶつかった突起を摘む。瞬間、馬岱がはっと息を呑むのが解った。ぴりりとした刺激に下半身に熱が集まり、は落ち着かせるように今度は先端に指を押し当てた。濡れている。目を開けると、だらしなく垂れたそれをゆっくりと竿に塗り込めた。滑りが良くなってより一層気持ちが良い。本当は更に奥まで弄られるならばもっと快感を拾えるのだが、そこまでいけないことが出来ることを見せるつもりはなかった。

「ん、ぁ……たのしい、の、かよっ」
「うん」

凄く楽しい、とのたまうと馬岱が上体を起こした。何をするのだろう、とぼんやり思っていると、いきなり伸ばされた指が弄くっている方とは反対側の乳暈を摘まみ上げた。

「ふぁっ」
「これがいけないこと、なんだねえ。誰に教えてもらったの」
「っ……べつに、誰にも」

絶頂が近い。こりこりと弄られては舌を出して喘いだ。どうせなら全部馬岱に任せてしまいたかったが、自分の性癖を曝け出すつもりはないので止した。にちゃにちゃと水音がして、自分で自分を犯しているかのような錯覚を覚える。こんな男の自慰を見て、一体馬岱は何が楽しいと思っているのだろう。

「ほら、手がお留守になってるよ」
「ゃあっ」

笑い声が近くに聞こえた、かと思うと馬岱の手がの手に重なって性器を擦り上げていた。ここまでしているというのにただの悪ふざけの延長線かと思うと悲しくなって来る。そんなの思いとは裏腹にしゅっしゅとしごかれた末に弾け、白い飛沫がの腹と、馬岱の衣服を汚した。

「……言っとくが、俺は謝らないぞ。お前が手を出して来たせいで汚れたんだからな」
「そうだね」

物わかりよく頷くと、馬岱は汚れた衣服も意に介さずといった様子での汚れた腹を撫でた。ただ撫でられているだけだというのに気持ちがよくて、はぞくりとする感覚に思わず震える。

「おい、もう悪ふざけも十分だろう。酒でも呑んで帰ろうぜ」
「やだなあ。折角なんだから、もっといけないこともしようよ」
「気持ち悪いな。何をする気だ、何を」
「んー、なんかさ、俺、に挿れたくなって来ちゃったんだよね」
「はあ?」

君が凄くいやらしいから、と言う馬岱は実に真剣で、思わず見蕩れてしまいそうだったがは首を振って抑えた。確かに据え膳としか言いようの無い、前代未聞の出来事ではある。だが、肝心の愛はないし、明らかに馬岱に酒の勢いで弄ばれたというとんでもない事態に陥るのは目に見えていた。運が悪ければ自分の性癖も暴かれてしまうだろう。それだけは避けたかった。

「嫌だよ、そんなの嫌にきまってるだろ。ほれ、確りしろよ酔っぱらい」
「これくらいじゃ酔わないってぇ。知ってるでしょ、俺強いのよ」
「だとしても俺を抱きたくなるなんておかしいだろ」
「挿れたくなっちゃったものは仕方ないよぉ。ほらほら、もっとこっち来て」
「嫌だ」

慌てて漢服を掴むと、はじりじりと後退した。流石に裸のまま、しかも情事を思わせる格好のままこの部屋を飛び出す訳にはいかない。嫌な笑みを浮かべた馬岱は悠然とした様子でにじり寄って来る。どう考えてもの分が悪い。それでも諦めたくはなくて、は必死に口を蠢かせた。

「落ち着けよ、男を抱いたことが無いんだろう。だったら、ここのもっと良い子でも呼べよ。何も俺じゃなくたってもっと良い思いができると思うぜ?」
「それもそうだとは思うんだけどねぇ。でも今は、というか、初めてはとりあえずでも良いかな」
「失礼な言い方をするなっ。でもって何だ、でもって。大体、俺はお前じゃ嫌だね」
「へえ」

すうっと目を細めると、一挙に馬岱が動いた。あ、と思う間もなく組み伏せられ、はさっと顔を青ざめさせた。これが武将としての格の違いというものだろうか。ぎりりと肩を押さえつけられ、は微動だにできなくなっていた。

「俺じゃなかったら誰なら良いのさ?ねえ、答えてよ」
「わかった訂正する。誰でも嫌だね」
「はい嘘つき。の嘘はすぐわかるんだよぉ。ここに皺が寄るからね」

とんとん、と眉間をつつかれ、は自分の眉間に皺が寄っていることに気付いた。何とも間抜けな話である。自分の癖を他人に指摘される日が来ようとは思っても居なかった。

「俺じゃだめってところは本当みたいだねえ。じゃあ、誰なら良いのかな」

なんだか苛々して来ちゃった、と物騒なことを言うと馬岱はそのまま片手を枕元に伸ばした。

「兵卒達も偶にそんなことを言ってるけどさ……当ててあげても良いんだけど」
「んひゃっ」

ぬるりとした感触が下腹部に広がった、と思って見遣れば馬岱が片手で器用に香油らしきものを振りかけた後だった。どうやら、男同士でどう楽しめば良いかの初歩は知っているらしい。

「俺、よく人でなしって言われるけれども、無理矢理言わせるのが好きなんだよね。あ、これ俺のいけない癖ね」
「いぁ……っふぅ……」

内緒だよぉ、と言うなり馬岱は細く丸みのある物体をそのままの中へと遠慮会釈無くねじり込んだ。ぬるぬるとした液体を纏ったそれはどうやら液体を収めていた容器らしい。久しぶりとは言え、堅くなりきっていなかったことには安堵すると、馬岱が気付いたろうかと冷や汗をかいた。馬岱の唇が綺麗な弧を描く。

「やっぱり。ってば、抱かれたことがあるんだねぇ。人は見た目によらないよ」
「なんで、」

わかったのだろう。痼りを擦った瞬間、息を殺しては馬岱とのやり取りを思い返した。探りを入れられる様なことはなかったはずだし、問いかけも無かった。何故ばれたのだろうか。

「じゃあ、もう一つ俺の秘密を教えてあげようか。俺はね、。最初から君を抱いてみたかったんだよね」
「興味本位かよ」
「そうだよ」

残酷なことを言うと、馬岱は適当な所で容器を抜き出した。思わずその先を想像しての腰が震える。馬岱の低い笑い声が降って来た。

「最初見た時から、抱けると思ってた」
「傲慢だな。俺の意思は無視かよ」
「だって君、俺のこと大好きでしょ」
「好きだよ」

友達としてな、と付け加えてやると、馬岱は嘘つきだ、と繰り返して口付けを迫って来る。かろうじて避けると、心底意外そうに馬岱は眉根を寄せた。百歩譲って性癖がばれていることも抱かれることも甘んじて受け入れることにしようとは最早諦めの境地に達してはいた。だが、口付けだけは別物だ。別段、乙女であるという訳でもなんでもないのだが、好かれても居ないというのに口付けすることは論外だった。

「なんで拒むのさ。嬉しくないの?ああ、俺には抱かれたくないんだっけ。難しいなあ。さ、その嫌な俺が抱いちゃうよぉ」
「勝手にしろ」
「うん、そうする」

あっさり頷くと馬岱はを解放して一物を取り出した。心の準備のためにがちら見た所、並よりもやや大きいと言った所か。割けずにはすみそうだ、と事務的なことを考えるとは溜め息をついた。災難もいいところだった。

「隙有り」
「んっ」

馬岱が入って来るのだ、と身構えた瞬間、襲ったのは下腹部の鈍痛ではなく唇への軽やかな挨拶だった。思わず目を開けば、綺麗な馬岱の澄んだ瞳にぶつかって気まずい思いをする。逃げようとすれば後頭部を押さえられ、舌をねじ込まれた。噛んでやろうか、と思うも噛まない辺り、自分は相当に慈悲深いとは思った。命取りにさえなりかねない。

 愛が伴わないくせに、技巧的には並外れて優れた攻防戦はの肉体を屈服させていた。甘えた様な鼻声が漏れると、今度こそ馬岱が入り込んで来る。馬岱の方こそ、初めてだのここでは男を選んだことはないと言うものの、他所で抱いたことはあるらしい、実に手慣れた動きだった。多分、馬岱は男色家ではなく漁色家なのだろう。気付かなかった自分は馬鹿だ、とは途方に暮れた。見た目だけで、――いや、多分中身も含めて惹かれていたのだが――惹かれていた自分はそこらに居る女官と少しも変わりない。百戦錬磨の武将が大笑いも良い所だった。

馬岱がの良い所を狙って攻めるが、は大人しい溜め息しか漏らさなかった。密やかな抵抗のつもりだった。が、馬岱には逆効果だったらしい。何故だか俄然やる気を出し始め、誰に抱かれたいか告白するまで抱き続ける等と訳の解らぬことを口走った。呆れたはそれでも萎えない自身にも呆れつつ、注入された白濁に顔を顰めて返した。

「じゃあ教えてやるよ、俺はお前が好きだった」
「そうだよねぇ。あ、言い忘れたけど、君の中って思った以上に良いよ。俺も嘘ついたけど、今まで抱いた男の中で一番かな。あ、女の子も含めても一、二を争うね。ふふ」
「それはどうも。……俺はお前に抱かれたかったよ」
「抱かれたくなかったって言ってたじゃない」
「俺はお前に好かれたかった」

だがもう終わった話だ。馬岱は意味が良くわからなかったのだろう、だが嘘ではないことだけは解ったらしく、戸惑ったように動きを止めていた。は真っ直ぐに馬岱を見詰めた。

「安心しろよ、今はもう思ってない」
「でも、」
「まあ、安心しろと言っても安心できないか。お察しの通り、俺は男色家だしな」

抜いてくれないか、とは頼んだが馬岱は抜かなかった。舌打ちすると、は態と自分をおとしめるように続けた。

「お前のいけない癖は十分満足できたかよ。無理矢理言わせるのが好きなんだろう。良いさ、俺のことを吹聴すれば良い。事実だからな」

明日からの処遇を思って嘆きつつ、は怒りをこらえてもう一度抜いてくれと頼んだ。馬岱は動かない。まるで時間が止まってしまったかのようだった。だがこればかりは体勢上、一人ではどうにもできそうにもない。

「おい、抜けよ。俺はさっさと帰って忘れたいんだ」
「ちょい待ち」
「んぁっ」

がつん、と再び掴まれると、今度はひと際大きく馬岱が内部を抉っては目を白黒させた。驚いたことに馬岱は少しも萎えていなかったのだ。否、寧ろ元気づけられてしまっていると言って良い。これはもしかしなくとも、馬岱のいけない癖を刺激してしまったのではないだろうか。これ以上このくだらない時間を過ごすことに堪え難いものを感じ始めていたはぞっとして馬岱の澄んだ瞳を見返した。

「今、俺の胸がきゅんってしたよ。良いね、今の凄く良いよ」
「どこがだ。離せ」
「嫌だよ。ね、俺君を好きになるよ」
「おあいにく様。俺はもう好きだった、だ。過去形だよ」
「んんん、だから余計に良いんだよねぇ」

がつがつと容赦なく攻めながら、馬岱は益々好きになりそう、と謳うように言った。追いかけるのが好きなのだ、と、不憫そうな人間が好きなのだ、と頭がおかしいのではないかというような台詞を織り交ぜながら。はつくづく自分を不憫に感じた。確かに馬岱に幻滅しているというのに、身体が確りと熱くなっているのだ。それもこれも認めたくはないが馬岱の見た目に、このどうしようもない人でなしの内面に惹かれているに他ならなかった。

 は泣きたくて仕方なかった。こんなにも屈辱的な交合は初めてで、最後にしたいのだが恐らく最後ではないだろう。馬岱は君は俺だけのものだよ、と甘い台詞を耳に流し込んでくるのがいけないのだ。滅多に聞くことの無い台詞は耳に毒だ。は頬を真っ赤に染めて目を潤ませた。我ながら馬鹿だと思った。




 呆れる程に交合し続けた結果は、古傷が疼いたかの様な腰痛と呻き声をに齎した。一方、馬岱の方はと言えば全く堪えていないらしく、口笛でも吹きそうな様子で呻くの髪の毛を梳いていた。

「その分だと、君は今日の会議には出られそうにないねぇ。かと言って、このまま家に帰しちゃうと、二度と会えそうにないから困るな」
「四の五の言わず、医者を呼んでくれ。痛み止めを飲んで膏薬でも塗れば大丈夫だ」
「いやだよ。治ったら君、逃げちゃうじゃない」

困る、と言うなり馬岱はちゅうとの首筋を吸った。かなり強く吸われたから、きっと痕になっているだろうとは溜め息をついた。朝の光に自分の齢を重ねた皮膚に染み付いた鬱血の痕が点々と浮かんでいる。悔しいことに、最後には喘ぎ声を漏らさざるを得なかった程に気持ちがよかった。好きだと叫ばれたことがこれほどまでに自分に影響を及ぼしているとは思わず、は意外な思いだった。

 そのまま、馬岱は自身の身支度すらせずの背中を舐めたり食んだりして過ごしていた。行為の最中に解って来たことだが、馬岱は相手に自身の痕跡を残すことが好きらしい。勿論の下半身にはしっかり痕跡が残されており、それを片付けることもにとっては重い課題だった。

「足か腕でも折って俺の家に囲おうかな。ね、名案だと思わない?」
「お も わ な い」
「冗談だよ」

全く笑わずに馬岱はを後ろから抱きしめた。男らしい香りに包まれ、はむさ苦しい絵面に一人顔を顰めた。こんなことを言っては馬岱を喜ばせるばかりだろうが、全くもって自分と馬岱は不釣り合いだった。

「……逃げたら、捕まえれば良いさ。お前なら捕まえられるだろう」
「それ、遠回しに俺のこと好きって言ってる?」
「かもな」

くるりと反転すると、は初めて自分から馬岱に口付けた。

「捕まえてみせろよ、馬岱ちゃん」

まずは医者からだ。馬岱を甘やかす様な素振りをしながら、は恋人と呼ぶべきか迷う男を誘導し始めた。

〆.

後書き>>
 ともかく人でなしな馬岱を書こうと思って書いたので悔いは無いです。(どーん)エロいのは途中までで何故か本番からはエロくなく、寧ろ下品とかいう。それもこれも馬岱が人でなしだからですともええ。いや、次こそは健全な馬岱ちゃんを書きたいと思います。

そんなこんなで。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!