自然の流れに身を任せよ、さすれば待てば海路の日和あり。
君が望む自然/2
些細なことが人を揺り動かすことがある。泰山鳴動すとも言うし、はなかなかそういったことを気にする性質だ。金壷眼をひくひくと神経質そうに蠢かすと、は鏡を見直した。美しくない、三十代後半の男がどんよりとした表情で映っている。そして、いつものであれば無造作に束ねられていたであろう赤毛は今や三つ編みに結い上げられ、の右側頭部に収まっていた。
「馬岱、右と左とどちらが良いと思う」
「うーん、左かなあ。あんまり変わらないと思うけど。一時間くらい迷ってるけど、多分どっちでも銀屏ちゃんは気にしないと思うよ」
「わかった、左だな。いな、左ですか、か」
慌てて言い方を丁寧なものに変えると、は大丈夫だろうかと覚えた台詞を反芻した。これからは関銀屏の元に謝りに行かねばならないのだ。大して悪いこともしていないのだが、怯えさせてしまったのは事実である。そして、はこう見えて紳士の心を持っていた。
「……本当に、銀屏殿はこれで私の印象を良くするんだろうな」
「するよ。その髪型に、服でしょ、話し方に気をつければもう完璧だね」
「わかった。馬岱の言うことだから、信頼する」
「そういう時に言う言葉があるんじゃない?」
「ああ、あるな。ありがとう」
「笑って!」
「こ、こうか?」
ぐ、と口角を上げれば馬岱は微妙な表情を見せた。おおかた似つかわしくないとでも思っているのだろう。自身もそう思う。笑うことになれていないし、を前にして笑ってくれる人も少なかったから参考にするものも少ない。馬岱は良く笑ってくれるが、には不思議で仕方なかった。こんなにも仏頂面でどうしようもない自分を前によく笑ってくれるものだ。多分、馬岱は本当に人が良いのだろう。こんな風に生まれれば自分も苦労しなかっただろうか、と考えては棄却した。馬岱が苦労に苦労を重ねた一生を送って来たことは流石に承知している。馬岱の笑顔は泥の中から顔を出す蓮の花のようなものだ。自分のように安穏と育って来た人間とは訳が違う。そんなの考えを他所に、馬岱は小首を傾げた。
「うーん、堅いねぇ。なんでこうなんだか」
「わからん。が、練習あるのみだ、です」
「そうだね。頑張ろう!」
ああ本当に良い人間だ、とは嘆息して服の端を摘んだ。これまでが慣れ親しんだ、古風な、何の特徴も無い服と異なり、ややぴったりとした服装で、布も薄い。要するに、の筋肉がどんな形状をしているのかが何となく解る程度の濃い緑の服であった。上半身はぴったりとしており、下半身は切れ目の大きく入った長い布があり、胡服を下に纏って居る。所謂長袍の端くれの様なものだ。飾りとして薄緑の網紐を腰にゆったりと纏わせ、白い石で細工した璧を下げる。同じものは少し短い両袖の下、手首にも巻き付いており、対になっていた。武器を利用するときには邪魔になるのではないか、と馬岱には抗議したのだが、平時だけの装いとすれば良いと一蹴されてしまった。
かくて、全身を通してみれば今のは少し華やかだったし、三十前半程度には若く見えた。元より髭も生やしていないつるりとした肌の持ち主ではある。もう少し若ければ女装でもいけたね、と馬岱は馬鹿なことを言って笑った。
「さ、銀屏ちゃんのところにいこっか。俺もついてく?」
「いや、良い。私一人で行こう。一人で行くことも出来ぬ者とは思われたくはない、です」
「うんうん。行ってらっしゃい」
「行って来ます」
丁寧にものを言うのは疲れることよ、と口中で呟くと、は重い腰を上げた。
今日は関銀屏は関家の邸に居るらしい。その情報を物珍しげにまじまじと見詰める女官達に伺うと、は自分の執務室を出て宮城を横切った。幸い、関家は劉備の信頼が厚い為に、宮城の側近くに門を構えている。確か、西側だった筈だ、と思い出しながらは長い廊下を歩いていた。道行く人々の視線が痛い。矢張りおかしいのだろうか、とは半ばどんよりとした、落ち着かない心地となった。が、視界の隅に見覚えのある影を見出して一挙に気分は花が開いたように明るくなった。
「――徐庶殿!」
「ああ、か。どうしたんだい、随分と珍しい格好をしているんだね」
徐庶であった。その名を叫ぶだけでこみ上げて来る喜びにおかしみを覚えながら、は上気する頬を恥ずかしく思った。
「ああ。人に会うので、印象を変えようと思ったのだ、です。これならば前よりも幾分親しみやすいと、馬岱に見立ててもらいました」
「ふうん。似合っているね」
「ありがとうございます」
お仕着せの様な台詞を頑張って口にしたに対して、徐庶はひどく冷めた目でを見下ろした。徐庶の方がより背が高いので当たり前といえば当たり前なのだが、は少し威圧感を感じた。が知る限り、徐庶は何時だって柔和で物腰は柔らか、丁寧で謙虚な人物なのだが、これではまるで――敵にでも遭遇したかの様な態度では無いだろうか。少し緊張するを他所に、徐庶はなんのてらいもなくの編んだ髪を掴んだ。
「そういえばは馬岱殿と仲が良いんだったね。――これも、馬岱殿が?」
「あ、いや、これくらいは自分が」
「そっか。器用だね」
「あ、ありがとう」
矢張り徐庶は自分のことをよく褒めてくれる。一言一言がの胸にしみ込み、脳髄を溶かし込むようであった。不安の風邪が吹きすさんでいた冬の様な大地にまるで春の芽が芽吹いたかのようである。
「で、印象を変えてまで会いにいく人って誰なんだい。もしかして、俺かな」
「いや」
違う、と答えては礼を失しただろうかと徐庶を見上げた。が、徐庶は相変わらず冷めた目をしたままで、それ以上の変化は無かった。
「貴方ならば、良かったかもしれないですが。関銀屏殿です」
「何故?」
言いながら徐庶は苛々しているようだった。矢張り礼を失したろうか。再び不安の影がの心に落ちた。徐庶の前では不確定要素が多すぎて事態が読めない。否、思い返せば大概のことは予測不能のように思われた。何故今まで自分は物事を言い切ることができたのだろうか。不確実なことが嫌いで、ただ切り落として来ただけではないだろうか。たどたどしくならないように気をつけると、はどうしてこんなことになったのかを手短に語った。
「なるほどね。うん、確かに馬岱殿の見立ては良いかもしれない。それならば、きっと銀屏殿は貴方を気に入るよ」
「本当、ですか。それは良かった」
思わず口がほころぶ。途端、驚いたように徐庶の目が開かれた。矢張り自分に笑顔は似合わないのだろう。落胆していると、徐庶がにこやかに口を開いた。もう目は冷えていない。
「驚いたな。貴方でも笑うことがあるんだね。ちょっと、よくわかりにくいけど」
「変ではないのか?あの、その、自分には不釣り合いのように思います」
「そんなことはないよ。さ、行っておいでよ。引き止めて悪かったね」
「ああ。行ってきます」
変ではなかった。その一事に胸がざわめき、ひどく苦しくなった。矢張りこれは一種の呪術に違いない。そうでなければ何だというのだろう。徐庶は恋と名付け、自分は相手に出来ないと冷酷に告げた。まだ、二人の間にあるのは友情だけだ。あるいはこれからもずっとそうかもしれない。寂しさが影を射すよりも早く、は首を振ってその場を辞した。
全くもって苛立たしい。小走りに去って行くを見送りながら、徐庶は笑顔の下ではらわたが煮えくり返るものを覚えていた。怒りの対象はではなく、馬岱である。折角徐庶が良い玩具を見つけたというのに、あたかも最初から所有物であるかの様な顔をして弄くったのだ。ついでに言えば関興にも怒りは波及している。あの妹に目がない兄はどうしようもならない。客観的に見ればは悪くはないのだ。
印象を変えるべくしたの表面上の努力はなかなか悪くないものだった。素材自体は金壷眼を除けば悪くはないのだろう。何より、艶やかな赤髪が美しい。多分、の美点をあげるならば素直さと髪の美しさをあげていい。
「面白く無さそうですね」
「孔明。また折よく現れるものだな。観察でもしていたのか?」
「まさか。偶然に過ぎませんよ」
ふわりと香の匂いを漂わせて現れたのは、諸葛亮孔明その人である。遠く小さくなったを見遣ると、諸葛亮は解ったように、ああ、と嘆息した。
「自分の知らない所で変化したことへの苛立ですか。確か、は馬岱殿と懇意にしていますからね。……相談するにはうってつけの相手です」
「かく言う俺もの友達ではあるんだけどね。年季の差かな」
苛立を隠して言えば、長年来の友人はそれすら見透かす笑いで返した。自分はこんなにも短気だっただろうか、と思いながら徐庶は自分が段々とに興味を抱き始めていることに気付いた。
「そうでしょうね。私は、貴方よりも彼の方がに良い影響を与えると、確信していますよ」
「あくまで俺のやることには反対、と」
「ええ。決めました、私は馬岱殿を応援しましょう」
「……孔明。多分、馬岱殿はに対して友情以上のものは持っていないと思うんだが」
「勿論そうですよ。単純に、の教育係としての資質を見込んだまでです。見て御覧なさい、そのうちは貴方のことを忘れますよ」
「まさか」
あれ程切々とした恋心を初めて、そう人生で初めて抱いたという男がそう易々と他人に乗り換えたりする筈は無いではないか。非難がましい目を向けると、諸葛亮はばっと羽扇を泳がせた。
「人の心は移ろいやすいものです。そして、は人の好意に慣れていません。貴方のことを想ったのは、ひょっとしなくとも、単純に好意を寄せられることが少なかったからに過ぎないでしょう。良いですか、元直。貴方が思う程貴方は想われてないのですよ」
「孔明。俺も、人に想われることに慣れていない訳ではないから言わせてもらうけどね、はそう簡単に俺のことを忘れないよ……忘れさせない」
「ほう」
これは思い切ったことを言う、と諸葛亮の目が大きく広がる。普段糸目に近い彼の目が開くのは面白かった。そうだ、簡単なことだと徐庶は感心した。大事な玩具を自分のものにするのは簡単だ。誰が持ち主であるのかを刷り込むしかない。馬岱が元々の持ち主であろうが何であろうが関係ないではないか。
それには何が必要だろう、と徐庶は久々にわくわくとした思いで考えを巡らせた。好意に慣れてないというならば、まずは餌で釣って甘やかしてみるのはどうだろう。先程の微かだが、ようやく解る程度のの笑みを思い出して徐庶は確信した。自分ならばできる。そう、馬岱には数年来の付き合いがあるかもしれないが、徐庶にはその彼が与えきれなかったものがある筈なのだ。そうでなければ自分に惚れるなどという馬鹿馬鹿しいことが発生する筈もない。
考えに没頭し始めると周囲が目に入らなくなるのは徐庶の悪い癖であったが、この時も徐庶は何も気付いていなかった。臥竜孔明が目を細めて見守っていた。
関家の邸は間違い用もない程に門から出てすぐの場所にあったものだから、は過たずに目的地にたどり着くことができた。片手には布に包まれた蒸篭、もう片方の手には花束を携えたは、その神経質そうな顔がなければ結婚の申し込みをしにきたかのようである。とは言え、は単純に緊張しているだけのことであった。ただでさえ女性と必要以上のことを話すことは苦手だというのに、謝りなだめすかせるとなれば至難の態となる。馬岱と何度か練習したので台詞は覚えているものの、ものにできているかどうかが怪しかった。
「……よ、よろしくお願いします!が参りました、とお伝えください」
「承知しました。将軍、ですね。どなたをお訪ねですか」
「え、あ、そうか、言わないといけないんだったな。関興殿と関銀屏殿です」
「生憎、お嬢様しか居りませんが。よろしいでしょうか」
「勿論」
構いません、とは緊張の面持ちのままに頷いた。心なし門番は怯んだようだが、の顔は覚えていたらしく、特段問題なく取り次ぎに向かった。すぐさま家令が現れてを先導し、途中から関銀屏付きの女官に役目が代わって先導される。関羽の心を現しているかの様な、質実剛健を絵に描いた様な邸だった。
一方家は商家であるため、武張ったところは一つもなく、どちらかといえば家主の道楽をちりばめた様な造りであった。父親である公の趣味は書画の収集であるため、飾れる所にはどこにでも書画がある。面白いのは値千金のような良いものばかりではなく、子供が初めて描いた様なものも混じっている所だ。曰く、父が気に入ったものだけを、好きな所に飾るのが夢だったのだ、という。おおらかなことだと思いつつ、は自分が家督を継ぐ様なことがあったら剥がそうと心に決めていた。
さて、関家である。ただの廊下に見せかけた罠を女官の先導で駆け足でくぐり抜け、時には頭上の梁を掴んで床を踏まぬように移動し、匍匐前進をしで進んでいった。手に持っていた土産は別の経路で運びます、と家令が言って運んでいったが、そんな経路があるならば自分も案内して欲しかったとは冷や汗をかいていた。辛い。きっと関銀屏に結婚を申し込もうとする男への試練はこのようなものではすまないだろう。きっと軍神・関羽を倒すくらいのことはしないといけないだろうな、とは飛んで来る矢を避けた。
「いつ、つくの、ですかっ」
「もうすぐですわ」
華麗に矢を跳ね返すと、女官は顔色一つ変えずに団扇を側近くの扉を示した。確かに近い。最後の矢をくぐり抜けると、は漸く土産物との再会を果たした。
「……すまない、少し身だしなみを整えさせてくれないか、いや、くれませんか」
「良いですわ。お待ちください」
「え、」
驚いていると、両手が埋まっているうちに女官がはたはたと身なりを整えてくれる。家はこう見えてもできることは全部しましょう、という家柄なので自宅でもこんな風に世話になることはない。慌てているうちに全ては終わり、ゆるりと扉が開いて主が顔を出した。
「あ、、将軍っ!本日は、ようこそいらっしゃいました」
「ああ。お邪魔します……銀屏殿。その、この場で言うのもなんなのだが、昨日は申し訳ない。物言いには気をつけるので、許してくれませんか」
これは土産なのだ、と言って渡すと、関銀屏は見る間に顔をほころばせた。
「わあ。これを、将軍が?……ありがとうございます。すみません、私の方こそ。将軍は私を注意してくださっただけですのに」
「いや、私の言い方が問題だったのですから、仕方がありません」
もう一度頭を下げると、恐縮して関銀屏は部屋の中へと通した。応接間とは言え、女性の部屋の中に入るのは初めてである。緊張のままに入ると、は勧められるままに陶器の椅子に腰掛けた。
「今日はお召し物も普段と異なるんですね。なんというか……将軍が、良い人であることがにじみ出てますもの」
「そ、そうです、か」
「それに、話し方も。今日はやけに丁寧なんですね」
「そうだな。今、私は努力しているから」
笑う関銀屏に、はよくやった自分、と快哉をあげた。ありがとう馬岱、ありがとう徐庶。感無量のは、関銀屏がやけに側近くににじり寄ったことに気付かなかった。するり、と胸元に這った感触にぞくりとして見遣れば、関銀屏の白い怪力を秘めた手がぴたりと貼り付いている。これはどういうことだろうか。投げ飛ばされるのだろうか。関銀屏の怪力を前にしては、の力など紙のように薄っぺらだ。受け身を取らねば、と身構えるを前に、関銀屏は意外な一言を漏らした。
「本当に、今まで気付きませんでしたけど、将軍の筋肉は綺麗ですね。お着物からもよくわかります。その、差し出がましいようなのですけれども、謝りついでにお願いを聞いてはくれませんか」
「ん、ああ。勿論だとも」
「脱いでくださいませんか?」
「は?」
何を言っているのだろうか。全く意味が解らない。空耳だろう、きっとそうに違いない。こんなうら若き女性が自分なぞにけったいなことを言う道理はどこにもないのだ、とは念じた。が、関銀屏は本気らしく、駄目ですか、と畳み掛けて来る。もしが徐庶に未練を持っていなければ勇んで応えたかもしれないが、時と場合もあるし、第一関銀屏とまともに会話するのはこれが初めてだ。色々順番が可笑しくはないだろうか。軍神も教育までは行き届いていないということだろうか、とどうでも良いことを考えていると、救いの神は後方から現れた。
「銀屏。そう客人を困らせるものではない。悪い癖が出たな」
「兄上!」
関銀屏の声の向かう先を見れば、関興が戸口に立っていた。いかにも疲れた、という様相である。彼もあの試練をくぐり抜けたのだろうか、とは不可思議に思った。関興の服の端が射抜かれたようになっている。
「殿。今度はこちらが申し訳ないことをしてしまった。見ての通り、妹は筋肉が好きでな。筋肉で人を判断している、と言っても良い」
「だって、筋肉に裏打ちされた努力は嘘をつきませんから。現にほら、将軍も素敵な筋肉をお持ちなんですよ」
「ひぁっ」
ぞわぞわとする感触に奇声をあげると、は恥ずかしさに下唇を噛んだ。女性に弄ばれることなど生まれてこのかたないことである。本当に、この数日間は人生で初めてのことが起こりすぎていた。
「だったら、その、止めてはくれないか。関興殿。私はそろそろおいとました方が良さそう、です」
「否」
きらり、と目を輝かせると、関興はひどく人の悪い笑みを浮かべた。は馬岱で学んでいる。人がこういった表情を見せる時はどうしようもなく自分に害が及ぶ時である。
「謝罪も兼ねて、脱いでいただきましょう。ああ、勿論上半身だけで結構です。脱げないというならば、手伝いますが」
「いやいやいやいやいやおかしい!いくら何でも、ほら、銀屏殿。冗談だと言ってくれ、言ってください」
「冗談抜きです!さ、見せてください」
「ないっ、絶対におかしいぃぃぃぃ」
の叫び声が谺し、あれよあれよと服は脱がされ……は羞恥の地獄を見た。
「と、いうわけだ。私の身は汚されてしまったのだ!」
だん、と机を叩くと、は乱れた様相のままに馬岱に詰め寄った。場所は関家から移動すること数百歩の宮城は馬岱の執務室である。あの羞恥の時間を三刻過ぎて、漸くは解放されたのだった。
「思った通りだねえ」
「何だと!知っていたのか、あの恐ろしい兄妹のことを」
「うん」
あっさりと頷くと、馬岱は落ち着いてよ、との衣服をただし、髪の毛の結び目を解いた。途端、邪魔っ気な前髪が全部下りてしまっての前が盲くなる。慌てるを他所に、馬岱はふんふんと鼻歌まじりに結い直した。
「あのね、普通に印象を変えたぐらいじゃあ、泣いた女の子は治まらないよ。でもね、。端的に言えば銀屏ちゃんはちょっと変わった女の子だし、の筋肉は彼女好みなんだよ」
「……関興殿にも同じことを言われた。ついでに、関興殿にも大分触られた」
「あの子が!?ちょっとそれは意外だったかなあ。まあ、それほど綺麗ってことなんじゃない。自信持ちなよ、」
「うるさい。まあ、その、うまくいったのはお前のお陰なんですが……ありがとう」
「うん。うまくいって、俺も嬉しいよ、」
「で、だな。張苞殿にも見せなくてはいけなくなったんだが、どうしたら良いと思う、馬岱」
「え?」
「聞いてなかったのか。関興殿も俺の筋肉とやらが気に入ったらしくてな。張苞殿にも見せなくてはならないと息巻いたのだ。最悪だ。私は露出狂にならなければならないとでも言うのか?あんなにも良い笑顔を浮かべられると断るにも断れなくて、正直私はめいっているのだ」
「そりゃあまあ、吃驚するね。あの子、そんなに何かに熱中することってなさそうだけど。ああ、俺様っぽくないけどちょっとに中身は似てるね」
「ふうん、そういうものか?ともかく、私はこのまま裸を見せれば良いのか?訳が解らないんだが」
「そうだねえ。その時は、俺も一緒にいってあげるよ。そうすれば、あんまり触らないだろうし」
馬岱は不可思議だ、と関興の行動をいぶかしんでいた。あの関興が家族と義兄弟以外に関心を持ち、剰え弄るなど考えようもない。の恋心といい、近頃は思いも寄らぬことがこの宮城で起ころうとしているらしかった。
「あと、一応徐庶殿にも相談して御覧よ。何せ軍師殿だもの、何か戦略があると思うよ。話すきっかけにもなるでしょ?」
「おお!」
きらきらと目を輝かせると(と言っても矢張り馬岱にしか理解できない程に僅かな変化だったが)、は有り難うと馬岱を抱きしめた。
「それにね、少し触られたくらいじゃあ汚れたうちに入らないよ。大丈夫、仮令徐庶殿と一緒になることができたとしても、あの人それくらい気にしないよ」
相手を殺すくらいはありそうだけど、と心の中で付け加えると馬岱はをなだめた。ちょっと触られたくらいで汚されたなどという辺り、の育ちの良さが伺い知れるというものだ。多分この分では本当に女性すら相手にしたことがないに違いない。関銀屏は、多分そのあたりを知らず知らずのうちに楽しんだのだろう。自分もその場に居たかった、と思うと馬岱は苦笑した。人の不幸は実に密の味だ。
「じゃあ、このことを徐庶殿に相談してくる。有り難う、馬岱」
「うん、行っておいで」
ぽんぽん、とその背を促すとは喜んで執務室を出て行く。軽やかな足取りに、馬岱は無事になだめられたのだとほっとして首の骨をこきこきと鳴らした。まずは第一歩だ。次はまだ直りきっていない話し方だろうか。
「ん〜、先がある楽しみって良いねえ」
多分、徐庶がに振り向くことはないだろうが、彼には良い転機になるに違いなかった。親友として、ただそれだけを願うと、馬岱は再び執務に戻った。
〆.
後書き>>
ちょっと時間がかかってしまいましたが、2です。銀屏の筋肉マニアっぷりを書けて幸せです。関家の邸はMGSも吃驚の造りになっていたら嬉しいなあと思って書きました。筋肉万歳。次あたりは徐庶にもうちょっと絡んでもらいたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!