あるーひ、もりのなーか
そうだ、大熊猫、見に行こう。
熊狩りに行こう、と誘われて勿論、と答えたのはだった。
誘ったのは孫堅と黄蓋。それに太史慈と孫策、呂蒙が同行する。
周泰も誘われたのだが孫権が行かないならば、ということで断ってしまった。
反対に、熊狩りに行きたい、と駄々をこねて駄目、と答えられたのは凌統だった。
甘寧、陸遜も行きたいと言ったが呂蒙にめっ、としかられてしまった。
「俺も行く!」
「駄目だ、公績。言っただろう?これは厳密に選ばれているんだ」
「…甘寧と陸遜殿と一くくりにしただろう、絶対」
「さて、どうかな?」
はぐらかすように笑うと、はお土産を持ってくるから、と適当にごまかして去ってしまった。
「〜〜〜絶対ついてく!」
廊下に凌統の叫び声がこだました。
全員馬に乗り、お付のものは全く居ない。
そう、これは熊狩りと題した大人の慰安旅行なのである。
孫策は長男だということで年齢が丁度ボーダーと見られたにも関わらずついてきて良いことになったのだ。
「熊ー、熊ー」
「おう、随分楽しそうだな」
「孫策様!ええ、勿論ですよ。だってあの可愛い大熊猫を見られるのかと思うと、嬉しくって!」
「あれは和みますからなぁ」
「ですよね、黄蓋将軍!」
言いながらは、従兄弟の公覇こと元昊が一緒に来られなかったことを残念に思っていた。
そう。
大人の慰安旅行、それははるか山奥にパンダを観に行くことだった。
何故喜びそうな女性や子供をつれてこなかったといえば、一つは静かに癒されたかったのと、秘密が欲しかったからである。
パンダそれ自体が余り刺激を与えてはいけない代物だということもあるのだけれども。
「大熊猫(パンダ)ですって?何ですか、もう。ついてきて正解ですね」
たちの大分後方から遠眼鏡を見ながら近づく三騎があった。
当然のように陸遜、甘寧、凌統の三人である。
「早く見てぇなー」
「くそう、め。可愛い過ぎるぜ畜生!」
「…何か言いましたか、凌統殿」
「いえ、何でも無いです」
すかさずとりだされた陸遜の双剣に慄くとしゅん、と凌統が押し黙った。
陸遜の突っ込みは呉随一とも言われる勘の良さとインパクトを持っていた。
「ともかく!全軍、目的地に近づき次第突撃します!良いですね!」
「はいよ」
「へいへいっと」
すっかりいつもの軍師気取りの陸遜であった。
それから三時間ほど経っただろうか。途中で休憩もしていた上に全体的にゆっくりの行軍のため、進軍は緩やかである。
並走ばかりしている一行に陸遜が歯噛みをし始めた頃、漸く目的地に着いた様だった。
「今です!全軍、突撃!」
「おらおらおらおらぁーっ!」
「ぼちぼち行きかすかねっと」
一方愕いたのはほんわかした気分でパンダを眺めていたたち一行である。
「不味い、このままじゃ大熊猫に刺激がっ」
「殿、それじゃ俺が行ってきますね」
「む、すまんな、。頼んだぞ」
「御意」
ほんわかしていた気分を邪魔されて苛立ちながらも、は棍を手にしてそのまま駈け始めた。
勿論馬には乗らない。蹄の音に愕いて逃げられてしまえば一巻の終りだ。
三十メートル、五十メートル…パンダたちから見る間にが離れていく。
流星のような素早さで、あっという間に陸遜たちの前に来ていた。
「止まれッ!」
「うわっ」
「わっ」
「!」
棍をピンと伸ばして真横に構えただけで馬が止まった。
どうも気合でそうしたようだが傍から見れば妖術である。
「殿!何故止めるのです!」
「そうだぜ。俺達だって大熊猫を見ても良いだろ?」
「と大熊猫が見たいんだ。…駄目か?」
「キモイことを言わないでください、そこ!」
ビシッと陸遜の教育的指導が凌統に入った。
「あのなぁ…付いてきちまったもんは仕方がないからな。良い。けど、静かに来る様に」
「何故です?」
「陸遜、考えても見ろ。大熊猫はとても繊細な生き物だ」
「寝てるだけのようにも見えるんだがな」
「うるさいぞ公績。…刺激を与えると面倒だし、逃げるかもしれない。だから静かに来いと言ってるんだ」
「わかりました。甘寧殿、鈴!」
「うっせーな。鈴くらい良いだろうがよ……外します外します」
ぬううん、と睨まれて流石の甘寧も大人しくなった。
「さ、それじゃあ行こうか」
「はい!」
何だか幼稚園の遠足に来ているようだった。
は横にぶら下がる三人(一人は忌々しいことに背中からだ)をずるずる引き摺りながら歩き始めた。
と。
「おう、!今丁度大熊猫が帰ったとこだずぇ!」
「な、何ですってぇぇぇぇぇぇっ!」
「やはり、気配に気付いたようなんだ」
孫策と孫堅の言にはがっくりと膝を折れた。
「そんな、俺はほんの少ししか見てなかったのに…」
「ま、また今度!今度がありますよ、殿!」
「そうだぜ、あんまり気を落すなよ!」
「何だったらこれから追いかけても良いんだぜ?」
慌てて慰めにかかる三人に、暗い表情ではぐるん、と顔を向いた。ほぼ180度廻っている。
「お前らぁぁぁぁぁ。ぜっ た い に、許さん!」
「わ、お待ちください、殿!」
「ぐおっ」
「後で飯奢ってやるから!」
一撃でまず甘寧が吹っ飛んだ。落ちた甘寧はピクリともしない。
「良いのう、若いもんは」
「良いのだろうか…」
「流石だずぇ、!」
黄蓋、太史慈、孫策が見守る中、第ニ撃が襲った。
「俺の癒しの時間を…返せぇぇぇぇっ!」
「ぎゃああっ」
「待て、、待て!」
続いて陸遜が舞う。燕のように衣装がひらひらとしたが残念なことに陸遜に空を飛ばせてはくれなかった。
あえなく落ちた陸遜を面白半分に呂蒙がつついていたがやはりびくともしなかった。
「死んで償え!」
「うおおっ」
だーん、と頭から空をくるくると廻って凌統が墜落した。
「うむ、その感じを忘れるな!」
「はい、殿!」
ぼけた孫堅の台詞が虚しく凌統の耳を打った。
「そこは…違う台詞でしょう…殿…」
合掌。
[終]