御吉兆!
鶉
篝火を焚き、野営を組んで数日後の戦闘に備えて万全の準備を行った。
一通り兵への指示も終え、凌統は疲れきった体を引き摺って自分の天幕へと向かっていた。
と、通りかかった天幕から奇妙な会話が聞こえてきたので思わず凌統はその足を止めた。
「な、しよ?」
「あー、でももう遅いしよ、」
「良いじゃんか。良いモノ持ってるんだろ?知ってるんだぜ?」
「どこから聞きつけたんだか…」
「良いだろ?なあ、興覇。しよう?」
何の話だ。凌統は騒然とした。
一人は天幕の主、甘寧であることは間違いないだろう。
そして今一人、どう考えても男性のそれは凌統の勘が正しければ間違いなく。
「チッ。しょうがねぇな。ほら、やるぞ」
「よっしゃ、興覇、愛してるぜ!」
「へいへいっと」
居てもたっても居られなくなった凌統はバッと天幕の入り口の垂れ布を捲ると勢い込んで入り込んだ。
「甘寧!貴様に何をするつもりだ!……って、ありゃ?」
「あ、公績」
「…また煩いのが来た…」
てっきりナニを行っているかと思いきや、凌統の予想を大きく外れて天幕の中の二人、と甘寧は小さな籠を二つ手に持って向かい合って座っていた。
それだけだった。
何をしているのだろう?
凌統は判断に苦しんだ。
「何してるんだ?お前ら」
「え、何って鶉合わせ」
説明しよう。
この鶉(うずら)合わせという典雅な競技は選りすぐりの鶉二羽を合わせ、その鳴き声の優劣を競うものである。
闘鶏とは違い、いたって穏和な代物だった。
「甘寧が良い鶉を飼ってるって小耳に挟んだからさ、居てもたっても居られなくて」
無理矢理お願いしたんだよな、とが甘寧に同意を求めた。
「そうだな」
凌統はここでそんな可愛らしいものを甘寧が飼っていたことに突っ込むべきか甘寧がそんな自分も知らないことを知っていたことに愕くべきか暫し迷った。
結局どう言ったらわからなくなって黙ってしまう。
「あ、凌統ももしかして飼ってるのか?鶉」
「いや俺は飼ってないけど」
「そっか」
見るからに残念そうなに凌統は飼っておけばよかったとどうでもいい後悔をした。
一方は籠の脇の蓋をちょいと開けて中身を確認していた。
「あ、悪い興覇。うちのやつさっきので失神しちゃったみたいだ」
「マジかよ…あ、うちのもだ」
同じように籠の蓋を開けて甘寧が自分の鶉を確認すると、ひくひくと足を動かすだけでさっぱりだった。
どうも凌統が急に大声を出したのがいけなかったらしい。
「公績のせいだぞ。折角興覇にうんって言ってもらったのに」
「いやあれはのことが心配だったから」
鶉のことなど思いも寄らない。
「心配?」
甘寧が不思議そうな顔で突っ込みを入れた。
チッと心の中で舌打ちをすると凌統は余計なことを言いやがって、というオーラを甘寧に向かって飛ばした。
「そういやそうだな。何を心配してたわけ?公績は」
「それは…」
まさかナニをしようとしてるように思えた、だなんて口が裂けても言えない。
はははは、と乾いた笑みを顔に張り付かせると、凌統はゆっくり後ろに後ずさりした。
「ま、今日はもう遅いから俺は寝ることにするよ…お邪魔したな!」
「待て、公績!」
の静止を振り切って凌統は一目散に天幕の外へと走り去っていったのだった。
「…なあ興覇」
「おう」
「あいつ、なんか妙ーなかん違いしてないか?俺達に」
「ぽいな」
「やっぱり?」
「賭けてもいいぜ」
「まあ俺は興覇のことを心から愛してるから勘違いされても別に困ることは…ぐはぁっ!」
「何かおっしゃいましたか?殿」
「陸遜…お前いつからそこに」
鋼鉄の肌を持つの腹に内臓がでんぐり返りそうになるほど双剣を力いっぱいぶち込んだ陸遜に甘寧が恐れをなした様子で尋ねた。
陸遜はいたって涼しい表情で、
「え?最初からに決まってるじゃないですか。嫌だなあ」
「このストーカーめ…」
「もう一発くらいたいですか?殿」
「いえ何でもありません陸遜君」
は世渡りの術を学び取ったような、そんな気が今更ながらしたという。
[終]
後書き>>
やっぱりオールものにすることにしました。
勘違いエロネタを使いたかっただけですはっはっは。
私の中での陸遜のポジショニングはどうも呉の最凶少年のようで。
呉の日常がこれからもばんばか書けたら良いなあと。希望的観測です。
最後まで読んでくださり、有難う御座いました!