DREAM NOVEL
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付いて回ってどこまでも、
可愛がってね貴方の影を


誰そ彼に侍らん


 へし切長谷部には主が居る。長らくお飾りとされて来て、主不在の寂しい状況であったが、唐突に現れた洋人に攫われ主を得るに至った。おまけに、本来ならば刀剣として切ったはったの道具に使用されるところ、付喪神なるものへと化生を許され、人のようなものになっている。
 
形というのは、単なる見てくれではない。形から入るという言葉がある通り、形が本質を作る場合もあるのだ。故に、長谷部はかつてどうであったかは解らぬが、主君に対して不可思議な気持ちを抱いていた。忠誠を抱くのはもちろんの事だが、どちらかと言えば、この人間という生き物を一つ観察してみよう、どんな反応をするだろう、という興味本位の方が強いように思う。不遜な事ではあるが、少なくとも長谷部が知る限り、主の邸に住まう刀剣達は皆、切り口は違うものの同じ想いを抱いているらしかった。

そんな事であるから、主の近侍を勤めるという栄誉は争奪戦である。和泉守兼定の提言により、輪番で、と決まったものの、では誰から始めるか、どの順番で勤めるかは激しい争いがあった。幸いにして、長谷部はその栄誉を第一位に獲得するに至ったのだが、それはもう血のにじみ出るような努力と、他の刀剣達の涙を礎なくしてはならないものである。

「本日、主の近侍を勤めさせていただきます。何なりとお命じください」
「やだわ、畏まっちゃって。寛いで頂戴」

けらけらと笑うのは、長谷部の主にして審神者であるである。見てくれは洋装の中年紳士なのだが、接するが毎に学ぶ限り、どうやら心は乙女、なる不可思議な人間であるらしかった。元より刀剣であるため、長谷部達には性別という概念がない。人間にそれがあるのは理解しているが、だからといって差別には値しなかった。

 人という形であるが故に必要な、生活の仕方というものは全てが教えてくれた。礼儀作法、食事のとりかた、風呂の入り方、寝方、洗濯・掃除の仕方、戦い方以外の体の動かし方等である。歌仙兼定以外は、これという趣味もなかったから、は様々な娯楽を用意して、好きになったものを何かすれば良いと世話してくれた。まるで母親のような甲斐甲斐しさである。

「よく見ると、貴方って素敵な服を着てるわね。最初の主が洋物が好きだったからかしらね。趣味が合いそうだわ」
「織田信長ですか?彼は――人でなしですよ」
「ふうん」

気のない返事をすると、は長谷部に再度席に座るよう勧め、自分は作業台のようなものに向かって行った。この、主の部屋というのは他のどの部屋とも異なる装飾で出来ている。以前に伺ったところ、十八世紀英国の王侯貴族風に造ったのだ、と言う事だった。わざわざ見せてくれた図録のものを、実に忠実に再現しているように思う。

 自身の衣装もそうだ。隙のない衣装の着こなしは見事で、まるで皮膚のようである。だらしなさは何処にもない。振る舞いも綺麗で、歌仙が随分と褒めそやしていた。そんな主は、どうやら自分に茶を淹れようとしているらしい。気付いた長谷部が慌てて立ち上がるも、は目で制した。
 
「はい、どうぞ。私特製のアッサムティーよ。たんと味わいなさいな」
「有り難き幸せ」
「クッキーもあるからね」

丁度おやつ時だものねえ、とは実にのほほんとしている。見慣れぬ茶器に戸惑っていると、が目の前で飲み方を見せてくれた。この、相手に恥をかかせないさりげなさは実に見事であるように思う。寧ろ自分よりも従者に向いているのではないか、と考え、長谷部は首を振った。容易に想像される事だが、緊張して仕方が無いに違いない。

初めて飲んだ、赤茶色の液体は、先日飲んだ煎茶や抹茶とは異なる味わいだった。同じ茶葉から出来ているのだ、とは説明したが、一つのものでこれほどに異なるとは実に興味深い。同じ鉄からできても、刀にもなるし鋏にもなるでしょう、というの言は納得のいくものだった。

「この、くっきいというものは美味しゅうございます」
「あらそう?良かった。私が焼いたのよ。勇夫に自慢しなきゃね」

勇夫、というのはの同輩である唐梨勇夫という審神者である。時たま、すくりいんというものに絵姿が現れてと会話する様を見かけるが、一見すれば女性のように思われるにも関わらず、同様に男性であるとの事だった。実に世は奥深い。

「し、して主!これでは俺の仕事がないではありませんか。何かお命じください」
「何かと言われても……私、自分の身の回りの事は自分で出来るしねえ。寧ろ貴方のお世話をしている方が楽しいのだけど」
「滅相もありませんっ」
「駄目なの?一日主ごっことかしない?面白そうだけど」
「駄目です!」

何と言うか、その誘いに乗ってしまったが最後、彼の近侍は勤まらないような気がして、長谷部は慌てて首を振った。




 人を使うことは難しい。道具は使い方が決まっているが、人はまずその性質を見極めなければならないからだ。それが終われば道具同様に使う事は可能だが、如何せん心というものがあるので、使うだけではいけない。疲れてしまう面もあるが、心がある故に何倍にも素晴らしい成果を納める事も可能である。
 
は、人に使われるために産まれた者である。この時代にはなんら珍しくはないが、とりわけ労働者のように自らの体を利用した職務は従事者が少ないが故に、そのためだけに人を生産する必要があった。所謂試験管ベイビーというものである。は農業従事者として産み落とされ、幼少期から勉学と共に仕込まれ生きていた。高等学校では土木工学も学び、将来は地域を支える、地味ながらも重要な任務を全うする予定であった。

 その予定が大幅に軌道修正されたのは、正にその高等学校を卒業する年の事であった。どこからともなく現れた、柄の悪い中年男性が、宮中からの勅命であると宣い、を審神者の道へと誘ったのである。どうやら、こうした神事仏事を司る人間は、人工的には生み出せないとの事で、常に託宣を基に候補者を見つけ出し、門下に入れるという方法で補充しているらしかった。
 
 以来、は審神者として生きている。使役する対象は居らず、これまでずっと使役される人生であった。の主は宮中の居並ぶ重役達であり、師であり、そして彼の神である。使うものはない。だが、今どういう訳だか大量の部下を得るに至って、困ってしまっているというのが実情だった。
 
「あー、気持ち良い。そうそう、もっと強めで良いからねえ。そこそこ、上手上手」
「はっ」

情けない事に、こうして近侍だのなんだのと買って出てくれた部下に、はマッサージを請求するくらいしかして欲しいと思う事も、仕事も見繕えないのである。マッサージをしやすいように、普段の紳士服をパジャマに変えてベッドに寝転び、上から覆い被さるようにして長谷部が背やら腰やらを揉んでいた。もしこれが人間相手であれば、は戸惑ったのだが、相手は付喪神、と言い聞かせてどうにかやり過ごしている。苦手な秀麗な顔も、こうしてうつぶせになってしまえば関係ない。

「んん、でももう一歩かしらね。長谷部君」

身振りで離れるように指示すると、はできるだけその顔を間近で見ないよう努力してクローゼットに向かった。

「何でしょう」
「やり方が解り難いみたいだから、一遍私がやってあげるわ。横になんなさい。あ、その服だと皺になっちゃうから……私のだとちょっと小さいけど、これ着て頂戴」
「なっ、な、」
「え、この柄じゃ嫌?ブルーのストライプが似合うと思ったんだけど」
「違います!」

顔を真っ赤にして長谷部がわななく。一体何をそう興奮する事があるだろうか?塩分の取り過ぎかもしれない。彼らの食事については大概燭台切に任せているが(何せ彼が一番才能があったのだ)、一度確認しておく必要があるだろう。確か、織田信長は八丁味噌の発祥の地で産まれたし、塩分過多であの苛烈な性格が産まれたのではないかと言われていた筈だった。

「どうしたのよ、長谷部君。言ってくれないと、私には解らないわ」
「……主、部下は俺です」
「ええ。貴方が部下ね」
「だから、その、俺にまっさあじをする等と仰らないでください!」
「ひらがなの発音がえらい可愛いわね」
「主!」

腹に据えかねたように叫ぶ長谷部に、流石にやり過ぎたかとは額に手を当てた。これではいけない。彼が望むように、心地良く働かせてやらねば、他の刀剣達の士気にも影響するだろう。自分には荷が重い事だ、と溜め息をつくと、はパジャマを長谷部に渡し、ころりとベッドの上に転がった。

「じゃ、これなら良いでしょ。添い寝なさいな。あ、でも反対側向いてて頂戴ね。貴方の綺麗な顔を見てたら心臓が保たないわ」
「添い寝」
「これも駄目?」

見上げれば、う、ともあ、ともつかぬ声を上げて長谷部が首を振る。どうやら良いらしい。服が皺になるから着てね、とパジャマを示せば、今度は素直に頷かれた。ただ、流石は付喪神、恥じらいという概念はないらしい。いきなり目の前で脱ぎだす長谷部に、はあわててそっぽを向いた。

「主?どうなさったのです。お加減でも悪いのですか」
「……イケメンに耐性がないだけよ。なんでもないわ」
「はあ」

曖昧な返事を返すと、長谷部が素直にの横に並んで寝転ぶ。掛け布団を引っ張り上げると、は長谷部の背に頭を当ててみた。びくりと長谷部が身じろぎするのを他所に、改めてその体温を確かめるように掌で背を撫でる。刀剣から生まれでたので、てっきり冷たかろうと思うのだが、いつも誰であっても人のように暖かい。面白いものよと触れていると、気分が悪かったのか、長谷部が唸って反転した。

「っ、ごめんなさい、セクハラしちゃったわね」
「せくはら、というのですか」

ひどく真面目な表情で長谷部が返す。怒ってしまったのだろうか。戦場で見せる怒りの様子とは異なるだけに、は近づく端正な顔が怖かった。ぶたれても文句は言えないが、この距離ではぶつ方が難しい。どうするつもりなのか、と固唾を飲んで見守っていると、長谷部がの背に手を回し――ゆっくりと撫でた。

「では、これもせくはら、ですね」
「いやどうかな、はは」

どう対処すべきか迷い、は笑って誤摩化した。長谷部の目が少しも笑っていない。の返事に薄く笑うと、長谷部は更に体を密着させた。背に回された手はそのままするりと背を撫で、腰に這わされる。そうした行為についてはきちんと教えた事等ないから、何も及ばないというのは解っていても緊張する瞬間だった。

「教えてください、主。どうすれば俺は上手く出来ますか?」
「……もうしないから許して」
「遠慮なさらないでください」

だって、貴方は嬉しそうじゃないですか、と長谷部が謳うように笑う。どこをどう捉えて言っているのかよくは解らないが、甚だ誤解だ――そうでなくてはいけない。自分は彼らに、否他人に劣情等抱く事は無いのだ。長谷部の顔を直視できずに瞳を瞑ると、は何もかもを閉め出した。




 追いつめてしまった。すこんと生気が抜けてしまったかのようになった主を目の当たりにし、長谷部は小さく舌打ちした。少々手痛く揶揄うつもりが、大火傷を負わせてしまったようである。反応のない頬を撫でるが、矢張り身じろぎもしない。寝ているのか、とも思うがそうではないようだ。かろうじて呼吸はしているのだが、体が強張ってしまっている。
 
ひとまず、自分の無い知識を総動員して、長谷部は主の体を解すように撫で、揉んだ。次第に体が温まり、弛緩してゆくのが解って心底安堵する。時折、反魂しているのか確かめるように頬を撫で、普段面と向かってはけしてできない、主の名を呼ぶが矢張り反応はないままだ。

様、起きてください」

初めて出会った時のように、掌に口付けを落としてみるも一向に効果は見られない。このままずっと、主が瞳を閉じたままであったならばどうしよう?使命も何も、主が居なければ何も始まらないではないか。は常々、この使命が終わったならば、否そうでなくとも自分の下に居る事に倦んでしまったならば勤め口はどことなりとも、と言うが、今のところ誰もそれを望んでは居ない。寧ろ第二の親とも言えるから離れる等、考えられない事であった。

 人は、いつか死ぬものだ。物も壊れてしまえば終わりである。理屈として長谷部もそれはよく解っているし、自分自身も折れてしまう事が何より恐ろしい。だが、そうであっても主にはずっと傍に居て欲しかった。そのためにならば何だってしたいし、何もかも引き換えに差し出す覚悟ではある。はきっと、その必要はないだろうと笑うだろうが。

 織田信長は、正直なところ胸のすく人物ではなかった。傑物であるというのは解る。少々力量は劣るが、その次に主と成った豊臣秀吉もまた偉大であったろう。こちらも余り好人物とは言い難かったが、同年代の刀と比べれば、比較的運が良かったと言えるだろう。

対するは凡人である。審神者という神がかった能力があるとはいえ、小人は小人だ。だがそのためか、妙な庇護欲というか、愛着のようなものは湧いている。何より、仮にこうして人型を取ってこれまでの主の前に現れたとしても、揶揄う等気安くはできなかったろうが、には何故か気安くできてしまう。物理的に可能になったという事だけが理由ではない。

「なーにやってんだよ、長谷部。……っと、同衾するにはまだ日が高いぜ」
「和泉守か」

恐らく、ずっと閉じこもってばかりの二人をいぶかしんだのだろう、和泉守兼定が戸口に立っていた。この男は少々明け透けな物言いをするので長谷部の癇に障る事が数数ある。今は正にそうした時なのだが、この状況下では助けを求めるよりほかなかった。

「ただの添い寝だ。それよりも、主が動かなくなってしまったんだ、手を貸してくれ」
「そう言う事は早く言えよ!」

慌てて駆け寄ると、和泉守はが生きているのかをまず確認した。脈を取り、瞼をこじ開けて動きを見る。医者のように正確な手さばきで、聞けば自分の主は邏卒をしていたものだから、死体の検分も見て来たのだと言った。

「気ぃ失ってるだけみたいだな。気道を確保しておく必要があるから、横にさせておこう。確か、気付があった筈だから、そいつを使えばなんとかなるさ。……そんな死にそうな顔をするなよ。死にそうなのはだぜ?第一、お前何をしたらこんな事になるんだ」
「それは、その」

言いよどむと、和泉守は一瞬だけ嫌そうな表情を浮かべた。何を想像したのかは解らないが、不快な事のように思われる。だが、身の潔白を、と思っても実際邪な事をしたのだから何とも反論し難い。悩んだ末に、長谷部はせめて正直に事実を告白する事にした。

「その、主がせくはら、というものをされたので、俺も真似してみたのだが……刺激が強すぎたようだ」
「せくはら?」
「多分、性的な意味で触れる事ではないかと思うが」
「かーっ!何やってるんだよ?がそういう事に弱いって知ってるだろ?くそっ、長谷部だと思って油断してたぜ……挙げ句の果てにくっつき過ぎだろ。山姥切あたりが気付いたら闇討ちされるぜ?」
「加州ではなく、あの大人しい山姥切がか?意外だな」
「人は見かけに依らないってやつさ」

山姥切国広は、少々陰鬱な男で、常に布を被っているところしか見た事がない。主への執着心も、比較的薄いように思われた。寧ろ明らかに他の刀剣に闘争心を燃やしているのは、紅が鮮やかな加州清光である。加州は艶めいた、それこそ男色家に好まれそうな容姿をしているのだが、からは矢張りいけめんの部類に入ってしまうためか、さして近寄られる事もなかった。加州当人はその事をいたく遺憾に思っているようだが、こればかりはどうにもならないだろう。

「ともかく、俺は気付を取って来る。その間、取って食うんじゃないぞ」
「主は食べ物ではないからな。そんな事はしない」
「頭が固いねえ」

これだから困る、とぶつくさ言いながらも、和泉守は快く気付を取りに立って行った。気配が完全に消えるのを待つと、長谷部は再び主を見下ろした。見れば、顔が真っ赤に染まっている。すわ熱でも出たのか、と額に触れると、主の手が伸びて防いだ。どうやら無事現世に戻って来たらしい。

「良かった、お戻りになられて」
「……近い」
「何でしょう」

ゆるゆると瞳を開くと、は両手を突っぱねて長谷部を遠ざけようと動いた。先程の事もあるが、長谷部はどこかで解っていながらその手を掴んでからめとった。

「添い寝をせよ、と仰ったのは主でしたが」
「顔は向こう向いて、ってお願いしたでしょ。嫌いな訳じゃないのよ。ただ、私に耐性がないってだけで、」
「それは、」
「持って来たぞ!……っておい、結局襲ってるじゃないかよ、長谷部!手ぇ離しな。ったく、油断も隙もない」

それはつまるところどういう意味なのだ、と主に尋ねようとした矢先、折悪しく和泉守が戻って来た。油断も隙もない、というのはこちらの台詞だろう。どうしようかとぼんやりしていると、和泉守が問答無用で引きはがし、大丈夫か、等と言いながら主の頭を撫でていた。どさくさに紛れて都合良く主に触っているのは和泉守のようにも思うが、立場が悪いというのもまた事実なので、結局長谷部は黙って奥にとどめた。

「大丈夫よ、和泉守君。貴方も綺麗な顔してるんだから、あんまり不用意に顔を近づけないでね」
「惚れても良い、っていっつも言ってるだろ。安心しなよ、面倒はきっちり見てやるよ」
「そうねえ老後は介護にお金がかかるもの……って、まだそういう年じゃないわよ!」

きゃいきゃいと騒ぐ二人を尻目に、長谷部はちょうどいい、とそのまま自分の服を掴んで自室に戻った。要するに主の服を拝借した事になるのだが、これくらいは駄賃としても良いように思えたのだった。




 近侍、というものの意味は今ひとつ解らない。混乱のただ中に落とし込まれた昼寝を終え、おやつと刀剣達への生活の知恵講義をし、夕餉を食べて風呂に入る。その全てにおいて長谷部はまるで昔から側に居た影であるかのように佇んでいた。結局、は何をお願いするべきかは解らない駄目主人のままである。
 
「本当は、お背中もお流ししたかったのですが」
「どこで覚えて来たのよそんな事。良いのよ、勘弁して頂戴」
「陸奥守がぐうぐる、という方に教わったそうです」
「あの子、新しいもの覚えるの早いものね……私に度胸がついたらにして。今は無理」
「はあ」

そんな会話をして漸く風呂に入った次第である。風呂から出れば、奪われるようにしてドライヤーで髪の毛を乾かされた。の髪は然程長くないので、扱いにも困らない。サイド等はツーブロックにしているので、さっと拭けば良い程だ。だが、長谷部はまるで和泉守のような美しい髪であるかのように至極丁寧に取り扱うのでくすぐったくて仕方がなかった。

大事にされる、というのは今ひとつ解らないし収まりが悪い。誰かを大事にするのは解るし、誰かを優先順位一位とする事もよく解る。自分を主体としない事で、様々な決断や責任から逃げているだけに過ぎないと指摘されれば、はその通りだと頷くだろう。リスクを取りたくないのだ。元々政府に用意された農業従事者としての人生しか描いていなかったためか、どうにも自分だけの自由に描く事の出来る人生、というものは得体が知れず、また定める事もできないでいる。

 だから、ある意味この刀剣達を従えて、大仰にも歴史を沙汰するというのは丁度良いのかもしれなかった。おまけとして、彼らを良いように管轄しなければならないという負担はあるが、悪い生活ではない。長谷部が会得したマッサージを受けて、暖かいベッドに入る。横には当たり前のように長谷部が滑り込んで来たが、それに異論はなかった。勿論顔は反対を向いている。今度は背中合わせにしたから、間違いも起きないだろう。

「主」
「ん」

少し寝に入る、という頃に声がかかる。長谷部の声は深く、どこか耳に残るので好きだ。だが眠気が勝ってしまって、おざなりな返事のみに止め、は深く眠りに沈む事にした。

様」

自分だろうか。呼ばれたような、暖かなものに包まれたような、そんな心地がしたが何も感じないし覚えていない。気づきもしない。海鳴りがする。否、このざあざあとうねる音は火山の噴火だ。血脈が浮き出し、流れ、巡り行く。あれは、

あれは  だろうか




 近侍第一番が番を終えた翌日、刀剣達の間で密かに反省会が行われた。議題は、近侍はどこまで何をして良いのか、主に快適に過ごさせるには何をすべきか、というものである。
 
 その際、行き過ぎた行為をしたとして、今朝方主に悲鳴をあげさせた長谷部が吊るし上げられたが、ひどく満足気な表情にその場の全員をいらだたせた、というのは後々まで根に持たれる話であった。
 
〆.

あとがき>>
 なんとなく長谷部。近侍って何をするんだろう、この時代の審神者って、流石に家事とか一通り全部こなしてそうだよな……何を……と考えた末がKONOZAMA。武家は寝る際に右手側に刀を置いておくので、そのノリならこの子達は平気で横に寝そべりそうです。あと、長谷部にひらがな発音をさせたかった。可愛い。(確信)
 
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!