この道は初めて見る道なのだ、
故に恐いし心細い。
美しき獣
大倶利伽羅は困っていた。人間の身体を得てしまったという不可思議な感覚もそうだが、合わせて集団生活というよく解らないものに投入されてしまったのである。道具に集団生活も何もない。生活自体が無いのだ。せいぜいがところ、主に可愛がられ修理されるくらいで、後は人やら何やらを斬ってばかりだ。勘弁してくれ、と言いたくなってしまう。
「くりちゃん、もしかして後悔してるでしょ」
「その呼び方はやめろ、光忠」
屋根の上で沈思黙考していると、布団干しをしていた燭台切光忠が声をかけて来た。彼とは所有者が共通だった事もあり、知らぬ仲ではない。互いに存在は意識している。とはいえ、口をきくのは初めてだから、こんなにも軽妙洒脱な性格をしているとは思っても居なかった。世の中不可思議な事は多いものである。
「……このところね、がとっても寂しそうな顔をしているんだよ」
「あれでか?」
とは、大倶利伽羅にこの姿形を与えた審神者であり主である。中年男性だが女性の心を持っているとかで、口調や身振りは完全に女性のそれだ。ついで、甲斐甲斐しく自分に人間としての生活はどのようなものかを教えてくれている。悪い人間ではない。そう、だからこそ大倶利伽羅は今、もやもやとしたものを胸の中に感じているのだった。
「そうだよ。君、最初に来た時に何か言ったんじゃないの?君が来てからだよ、あんな顔するの。それに、君ももやもやしてるよね」
「『なれ合うつもりはない』」
「……ああ」
自分は太刀であって人ではない。付喪神だの使命だの言うが、自分はあくまでも道具だ。故に、他の仲間が居るだの、主と仲良くするだのは意味が解らなかったし困惑する事でしかない。そういった意味で、自分に色々と説明をしてくれたに告げたのだ。
「君がそう言ったら、はなんて答えたの」
「解った、と。俺にとって心地のいい場所を探すから、何もしなくていいと、言っていた。あと、謝ってたな」
「あの人らしいね」
そう、は謝ってきたのだ。喚び出してごめんなさいね、私は貴方の主に相応しくないわ。主に相応しくないも何も、自分を手に入れた人間が主だろう。少なくとも、大倶利伽羅はを主だとは思っている。にも関わらず放たれた言葉に、更に目を白黒させた。ついでに言うならば、はあの日以降、極力自分とは接触しないでいる。戦にも出さない、内番も家事もさせなかった。近侍もさせていない。要するに、大倶利伽羅は何もしていなかった。唯一、や他の刀剣が、どのようにこれから生きて行くのかを教えてくれているくらいだ。
自分は道具だから、使われない事は落ち着かない。ましてや主に見向きもされないというのは、寒さを覚えてしまう。その事を素直に燭台切に伝えれば、それは寂しいというのだ、と教えてくれた。
「あのね、君は何を思って言ったのかは何となく解るけど、きっとには伝わってないよ」
「伝わる必要があるのか?」
「言い方を変えようか。僕は伝えて欲しいな。……今日、近侍は僕だけど、交代してみよっか」
「勝手にしても良いのか?」
「神様だからね」
たまには良いでしょ、という訳の分からない燭台切の台詞に、気圧されるようにして大倶利伽羅は頷いた。そんな事でこの胸の内が解消されるというのであれば、御易い御用だった。
は突然現れた近侍に驚いていた。まるで反抗期を迎えたばかりのような大倶利伽羅が、燭台切が忙しいというので交代したと申し出て来たのである。お陰で間抜けに、そうなの、としか返せなかった。今日は事務仕事をしようと思っていたので、手持ち無沙汰だろうと思いながらは自室に引き下がり、大倶利伽羅に座るよう勧めた。
「本でも読んでる?文字も大分読めるようになったでしょう。漫画でも良いけれど」
「不要だ。……それよりも、何かする事は無いのか?」
「ごめんなさいね、何もないの」
お茶でも飲んでいて、と粗茶を勧めるとはパソコンに向かった。今日は大分進んでいた、刀剣達の就職先を確定する作業が必要である。大倶利伽羅の分は、見知った燭台切とセットにしようと決めていた。行く先は英霊・伊達政宗公である。武振彦命という名で青葉神社に祀られているため、然程苦労はしない。あちら側も人では欲しいと好感触であった。
「良いのよ、見てなくても」
じっと見つめられている事に堪えきれず、タッチパネルから顔を上げると、大倶利伽羅は真っすぐこちらの目を射抜いた。思わず緊張してしまい、は心の中で舌打ちした。どうにも彼には対処しづらい。
「何をしているんだ?」
「ああ。皆の就職先を決めてるの」
「就職先?」
「うん。ここに居る事が嫌になったり、使命が終わったりしたら、行く先が必要でしょう?」
「……あんたは、俺達の”主”で”嫁”じゃないのか?」
「貴方はどう思ってるの?」
少し話をずらすと、は胸の痛みを覚えた。そう、刀剣男士達は揃いも揃ってとずっと居たいとしがみつき、神の嫁に迎えれば良いのだ、等と強硬手段に訴え出ているのだった。まだその返事は出していないが、彼らはすっかりその気である。寝屋の事もそろそろ、と先日陸奥守吉行に嬉しそうに切り出され、固まったのは記憶に新しい。へし切長谷部に、秘密を打ち明けるようにそっと口付けされた時は死ぬかと思ったものだ。何せファーストキスだったのだ!
「俺は、そういうものならそうだと思ってる。別に、あんたと居るのが嫌な訳じゃない」
「ありがとう。……別に、そうだと決まっている訳じゃないわ。貴方は貴方のしたいようにして良いのよ。貴方はもう道具じゃないんだから」
自分で選びなさい、と言いながらは自分の狡さを思った。右も左も解らない人間に丸投げをするのは卑怯だ。選ぼうにも選択肢を知らないのだ、と考えて、は手を差し出した。
「貴方は、ここから出て元々の主の所に行く事も出来るし、世の中を知るために旅に出る事も出来るの。まだ会った事はないだろうけど、女の子に会う事も出来るし、お嫁さんだって、主だって自由に選べるのよ。私だけだ、って決めつける必要はないわ」
「あんたは、俺がここに居ない方が良いのか?」
「え?」
「あんたが言っている事は、まるであんたの傍に選ぶのは悪い事だって言っているように聞こえる」
違うのか、と真摯に大倶利伽羅がこちらを見つめる。純粋な質問だけだ、というのは解っているが、自分の深層心理を糾弾されたようで胸を突かれた思いだった。刀剣だから、深く斬りつけるという事か、と苦笑すると、はそうだなあと指先で自分の額を撫でた。
「悪い事だ、とまでは言わないけれども、他の選択肢を知らないで決めるのは良いとは思えないわね」
「あんたは選んで欲しくないのか?」
「どうかな」
誰かに選ばれる、というのは理解できない感覚だった。今回の任務のように何かを押し付けられる事はままある。だが、選ばれる、優先される等という事は産まれてこの方ない。選ばれたら、どんな心地がするだろう。嬉しいのだろうか?ぽん、と大倶利伽羅の手が頭に乗り、ぐりぐりとなで回される。嫌な心地はしない。だが、不思議と泣きたくなってしまって困った。大将とは、常に率いる者に相応しくなければならない。弱みを見せてはいけないのだ。
「なんで、撫でるの」
「ずっと解らなかったが……寂しいんだな、あんたは」
燭台切が言っていた、と大真面目に言うと、大倶利伽羅は態々移動して後ろからを抱きしめた。加減が解らないのか少々痛いが、は好きにさせておいた。なるほど、燭台切の入れ知恵というのであれば納得がいく。彼は妙に人心に聡いところがあった。
寂しいのか、と問われれば諾とも否とも答えようがない。よく解らないのだ。元々家族は居ないし、特殊な環境下で育ったものだから、友人知人も余り居ない。こんなにも身近に大勢の人間が日々共に暮らしているというのは初めてなのだ。
もし、彼らが今一斉に居なくなったとしたらどうだろう、とは想像した。多分、使命が終われば実際そうなるだろう。彼らが結婚だのなんだのと言っている事はいったん無視をする。はいさようならと笑顔で別れて見送り、彼らが無事に次の勤め口にたどり着いた事を確認して、この家を出る。出た後に何をするかは解らないが、まだ元気で居ればただの審神者として方々の使いっ走りをして過ごすだろう。毎日、毎日が元通りだ。時々師匠が来るし、唐梨勇夫とも遊ぶだろう。
世話をする者も居ない、甘えて来る者も居ない、ぐうたらしていると怒る者も居ない、誰も居ない。一人で誰も返事のない言葉を発して過ごすのだ。途端、それは寂しいと猛烈な思いが沸き起こった。
「寂しいわね」
「うん」
「……貴方達が居なくなったら、きっと、とっても寂しい」
「仕方ないから、側に居てやるよ」
「同情だけじゃなくて、ちゃんと他にやりたい事が出来たら教えてね」
「どうかな」
ぶっきらぼうな物言いだったが、妙に暖かみを帯びているようで、は笑って目を閉じた。なんというか情けない話なのだが、泣いてしまうような、そんな気がしていた。
近侍になった日以降、ようやっと大倶利伽羅はと主従らしい交誼を結ぶ事が出来た。何方かと言えば、の方から話しかけて来る事が多かったのだが、どうにもこちらから声をかけにくいのだから仕方がない。今も、が他の審神者から来た使いの猫を縁側で可愛がっているのだが、佇む事十分は経っている事だろう。その間中ずっとが猫を撫で繰り回しているという事なのだが、どうしたものかと悶々としていた。
正直な所、猫は可愛い。(この可愛いという気持ちも燭台切が教えてくれた、彼はこうして少しずつ感情の表現というものを教えてくれる)ついでに言えば、撫でたい。同時に、それを撫でるを撫でたいとも思う。彼は猫と同じような反応を返すのだろうか?人型相手に行った事は無いので解らない。ならば長谷部にでも何にでもやれば良いだろうと言われるだろうが、欠片もそんな気は起きなかった。
「はあ、井伊様の御猫様は可愛いわねえ。私の事好きかしら?ふふ、私も好きよ」
「っ」
どちらを触りに行こう、と悶々としている最中に響いた台詞に、大倶利伽羅は、はっと夢から覚めた思いがした。好きか?そんな台詞はこれまで一度も投げかけられた事がない。ましてや好きだ、等と肯定的な言葉を得た事もない。懸命に思い返してみた所、矢張り一度もなかった。
「」
「ん、どうしたの、大倶利伽羅君」
傍に近寄れば、が破顔して頭を撫でてくれる。近頃ではこうしたじゃれ合いのような事もするようになった。横に座ると、は猫を渡した。そっと触れてみれば、柔らかく暖かな毛玉が甘えた声を上げる。実に可愛らしい。思わず無心で撫でてしまう。ふふふ、という声に顔を向ければ、が小型端末で写真を撮っている所だった。
「おい!」
「嫌よう。だって可愛いんだもの。待ち受けにしても良いでしょ?」
「……別に良いが。今は何を待ち受けにしてるんだ?」
「なーいしょ……ぁっ」
「見せろ」
隠そうとするのを素早く捕まえると、大倶利伽羅は小型端末を開いてホーム画面にたどり着いた。この辺りの機器の手ほどきは全て陸奥守に受けたので折り紙付きである。はああだのううだのわめいているが、大倶利伽羅の方が身長が高いため、手を伸ばした状態では届きようがない。立ち上がるのを阻止するために猫を押し付けると、開いたホーム画面には顔の濃い中年男性の晴れ姿が映っていた。
「……誰だ、こいつは」
「楊陽明お兄様よ!全世界の審神者の憧れなんだから。お願いだから返してよ、ね」
「駄目だ」
今度は端末を操作して写真フォルダを開くと、自分と猫が戯れている、なんとも照れくさく恥ずかしい写真を引き当てる。どんな表情でこれを撮影していたのか気になるが、迷う事なく待ち受け画面に設定した。きちんと変更された事を確認すると、大倶利伽羅は漸く端末をに返した。
「あら、待ち受け画面変更してくれたの?ありがとう。可愛いわね」
「どっちがだ?」
「両方」
さりげなく問えば、間髪入れずに回答され、大倶利伽羅は目を丸くした。ついで、は猫を自分の顔のあたりまで持ち上げると、ちょいちょい、と猫の腕を取って踊ってみせる。
「大倶利伽羅君は、私の事好きかにゃ?」
「な、」
「私は大好きにゃあ……なーんてね。あら、顔真っ赤」
「……うるさい」
突然の不意打ちに対処しきれず、大倶利伽羅は思わず床に突っ伏した。これは狡い。狡いと言わずして何と言おう。少しも恥ずかしそうではないが憎たらしい。猫を取り上げると、大倶利伽羅はそっと帰るように促した。どうやら用事は無事に終わっていたらしく、頭を下げて猫が帰ってゆく。残念そうな声をあげるを睨むと、大倶利伽羅はの顔を両手で包んで額と額とを当てた。
「猫とあんたと、どっちが言ってるんだ、それ」
「大倶利伽羅君、顔近い」
「返答によっては承知しないからな」
「……何するつもりよ」
「さあ」
はぐらかすように答えたが、実際何をするのかは大倶利伽羅には解らなかった。燭台切に聞けば良い答えが聞けるだろう。見る間にの頬が染まってゆく。これで相子だ、と笑っていると、くるりとの目がこちらを向いた。
「猫も、私も、貴方の事が大好きよ。……大倶利伽羅君は?」
「好きじゃなければ、こんな事する訳ないだろ」
「嬉しい」
こういうのって、嬉しいわね、というは本当に初々しくて、それなりの年を経た人間とは思われなかった。思わず惚けていると、とんとん、と肩を叩かれる。仕方なしにから額を離すと、修羅の形相をした加州清光が立っていた。
「なーにやってんのかなあ……様、大倶利伽羅ばっかりずるいって!俺の事も可愛がってよ」
「加州君は甘えん坊さんねえ。良いわよ、いらっしゃい」
がおいで、と手招きすれば、加州の表情がころりと変わる。全く持って現金な奴だ、と鼻を鳴らすと、大倶利伽羅はそっとその場を離れた。どんなにじゃれつこうとも、大好き、等と言われたのは多分自分だけだし、何よりも、あの小型端末の待ち受け画面は自分なのだ!これ以上の事はないだろう。
「くりちゃん、良かったねえ。鼻の下、伸びてるよ」
「……見ていたのか、光忠。趣味の悪い」
ひょい、と廊下に顔を覗かせた燭台切に、大倶利伽羅は顔を顰めた。どうやら見物客は多かったらしい。
「加州君程じゃないけどさあ、僕が見逃すのは今回だけだからね?」
抜け駆けは許さないよ、と笑顔のままで燭台切が淡々と告げる。加州の修羅の顔よりも恐ろしかった。何を言っているのだろう?
「はね、皆のお嫁さんだから。独り占めしちゃ駄目だよ」
「別にしてない」
「そう?だったら良いけど」
僕も本気を出すときは出すんだよ、とさらりと吐かれた台詞の冷たさに背筋を震わせながら、大倶利伽羅は気圧されたように頷いた。ふふ、と燭台切が笑う。ざわついた気配に、大倶利伽羅は、ああ、そういえば以外は皆刀剣なのだ、と思い出した。
「お前がそのつもりなら、俺も全力を出すまでだ、光忠」
「ふふ、楽しみだね」
全く以て楽しくなさそうな声音だった。
暖かい。大きな背中に頬を寄せながら、は目を細めた。まるで大きな猫のようだ。と、背中がぐるりとこちらを向き、背中の主が睨みつけて来る。今日の近侍である大倶利伽羅だ。笑って誤摩化そうとすると、両頬を摘まれた。
「悪戯するな。大人しく寝ろ」
「けち」
「……俺は絶対に悪戯しないからな」
「そんな事考えてないわよ」
予想外の切り返しに戸惑いつつも、は大人しく身体を反転させて目を閉じた。と、背後から気配が忍び寄ってぴたりとくっつく。そこまでは可愛いものだと放置できるのだが、ぐりぐりと顎を肩口に埋められた辺での背筋が続々とし始めた。このところ、接触過多な刀剣達のお陰でか、こうした触れ合いにも綺麗な見目の青年達にも慣れたのだが、ここまでの接触はまずない。流石に大倶利伽羅の事だから、何か考えている事はないのだろうがーーす、と鼻先で首筋をなぞられ、は悲鳴をあげた。が、その音が外に漏れる事はなかった。大倶利伽羅がその大きな掌で口を覆ったのだ。これはまずい。
「猫と人は随分と勝手が違うな」
「当たり前でしょ!」
「騒ぐな。他の奴が来るだろう」
来た方がましなような気がするが、その答えは返さない方が良いと直感で判じては唸った。がっちりと固められてしまっているので身動きが取れない。元々、大倶利伽羅の方が体つきが良いのだ。顎の下に手を這わされ、くすぐられる。思わず笑い声を小さく上げると、大倶利伽羅からも笑い声のようなものが溢れた。彼が笑っているのは余りお目にかかれない。だからこそ、先日奇跡的にとらえた猫と戯れる瞬間を小型端末の待ち受けにしているのだ。見たい、ともがくも、より一層強く羽交い締めにされただけだった。
「こーら。そう言う事は猫にでもしてあげなさいよ。私じゃくすぐったいだけだわ」
「……やり方が違うのか?」
「どういう意味?」
素直に問えば、大倶利伽羅は舌打ちし、小声で光忠め、と吐き捨てた。どうやら燭台切と一悶着あったらしい。
「どうしたのよ。教えてあげられる事なら、私が教えてあげるわ。何をしたかったの?」
「……たかった」
「ごめんなさい、良く聞こえないわ」
「可愛がりたかった、と言ったんだ」
そっと耳元で囁かれ、はびくびくと身体を震わせた。何と言う事を言うのだろう!勿論妙な意味ではないが、と深呼吸をすると、はえい、っと気合いを入れて大倶利伽羅を引きはがした。
「うーん、どういう風にしたいのかはよくわからないけど、私なりに大倶利伽羅君を可愛がるから、今度はそれを真似してみたらどうかしら?ちょっと待っててね」
「……その通りにやったら、あんたは喜ぶのか?」
「私を喜ばせたいの?」
灯りをつけて袖机から耳かきを取り出すと、はむすっとした表情の大倶利伽羅を見遣った。大分機嫌が悪いらしい。座ると、は傍にティッシュを一枚拡げ、太ももの上に頭を載せるよう命じた。ぶすくれたままだが、大人しく大倶利伽羅が頭を預ける。ゆっくりと耳かきをしながら、は本当に子供だなあと目を細めた。刀剣達はどうにも皆愛らしい。
「嬉しいわね。何もしなくても、居てくれるだけで嬉しいわよ。……健康で、無傷で、笑って楽しく毎日過ごしていてくれれば、嬉しいわ」
「善処する……他にはないのか」
「何かしらねえ」
好きで居てくれるだけでも嬉しいし、何より傍に居る事がこんなにも楽しいとは知らなかったのだ。それだけで十分ではないだろうか?
「貴方が、貴方のやりたい事を見つけて、私に教えてくれて、私がその手助けを出来たらもっと嬉しいかもね」
「……わからん」
「良いのよ。でも、よく覚えておいてね。私は貴方が、私を喜ばせたい、って思ってくれた時点でもう喜んでるのよ」
ぷうと膨らんだ大倶利伽羅の頬を突くと、は耳かきを続行した。本当の所、自分が他に何で喜ぶかは知らないのだ。それに、意外なものであればある程嬉しいものではないだろうか?それに、何よりも、この子供達を可愛がる事自体が喜びなのだ、という事は、きっと彼らには解らないだろう。
「おやすみなさいね」
耳かきが心地良かったのか、いつの間にか寝息を立て始めた大倶利伽羅の頭を撫でると、もあくびを一つした。もう大分遅い時間だった。
あとがき>>
実際のプレイでは、流れで大倶利伽羅をずっと近侍にしている事もあり、思い入れがあるので書きました。大倶利伽羅はこう、なんというか愛でたいタイプなんだと思う。大きい動物のような。彪とか似合うんじゃなかろうか。気付いたら甘い感じになってました。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!