DREAM NOVEL
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なにもないから、もとめないでくれ。


なにかをつくれ


 という男を形容する言葉は然程多くはない。だらしない、虚弱、老獪の三つだ。へし切長谷部はそこに淫乱とつけてやりたくてたまらないが、他の面々には黙っている。余人の知らぬままでいいのだ。知るのは長谷部だけでいい。無銘刀・”露払い”からどこかで付喪神として顕現し、ひょんなことから長谷部の住まう本丸に来たは、自分をその人間臭い名前で呼ぶようにと言う等、少々毛色が変わっていた。そしてつい先日知ったばかりだが、閨事のような人間臭い営みを心得てもいる。

半ば意地を張るようにして、長谷部はを抱いていた。あんたは上手だから、降参するからやめてくれ、と言うは正しい。だが、そんな彼を見るとつい次回にまで返事を持ち越し、結局返事をしないままに終わってしまっている。原因は薄々解っているが、今自分が彼に施していることでは足りていないのだ、と長谷部は考えていた。何が足りないのかは解らない。ただ足りないことは解っている。

 それの証左として、今日の不機嫌な催しがあった。長谷部ととの事故を重く受け取った審神者が、刀剣男士という世間離れした面々に性愛というものを教え、実践も兼ねての遊里への行軍を決定したのである。歓声の上がる中、長谷部はひどく不快だった。確かに、は散々女の子とやることも必要だし、おいおい好きな相手とできるのが一番良い、と言っていたのだが、いざとなればやる気が中々起きないのである。早めに全員仕事を切り上げて、幽界魔界どことも知れぬ、少なくとも人の世ではない場所へと審神者が導いて行く。どうやら審神者は審神者で行く場所があるらしく、男士を適当に店に振り分けてからどこぞへと去って行った。一方、で審神者に何事か囁かれ、列を抜けて別の場所へと去って行く。お兄さん、どの子にしますか、という店員の声を無視すると、長谷部は思いのままにを追いかけた。

「いらっしゃい、兄さん。良い身体してるねえ」
「……それはどうも」

先程まで目にしていた、女性が立ち並ぶ店から少し引っ込んだ店には入る。続けて入れば、むさ苦しいものからたおやかな女性のようなものまで様々な男が集っていた。要するに、ここは女ではなく男を相手にする男が遊びに来る場所なのである。何故男同士と思ったかと言えば、のような雰囲気がどことなく漂っていたからだった。長谷部の短い返答に気づいたのか、相手を選んでいたが振り向いてぎょっとする。男に抱かれるつもりでここに来たのだ、という実感がわくにつれて、長谷部はふつふつと苛立が沸き起こるのを感じていた。

「長谷部さん、どうしちゃったんだよ。あっちのお店で遊ぶんだろ?なんだってこっちに」
「お前が、どういう奴を選ぶのか気になった」

本心を言えば、の顔が真っ赤に染まる。皮膚が薄いからすぐに気分の上り下がりが解ってしまうのだ。厚ぼったい瞼を綺麗に開けて、の赤錆色の瞳が輝いている。こんな時にだけ開いてどうするのだ。店員に呼びかけられ、は黙ってそのまま奥へと去った。どうやら誰を選んだのかは解らない仕組みらしい。あとでどうにか聞き出してやろうと心に決めていると、水仙の花のように清純そうな、金髪碧眼の青年がすりりと寄って来た。猫のような仕草に怖気を震わせていると、青年は真っ赤な口を開けた。

「はは、すぐにとって喰いやしないよ。あっちのお兄さんが、僕に貴方をもてなすようにって、お代をくれたんだ。……ね、あのお兄さんがどんな風に抱かれるのか、興味はない?」
「ある」
「即答だね。面白そうだから、僕を抱く代わりに見せる方を売ってあげるよ。来ると良い」

悪趣味な話だった。この店は客を売り物にもしているということで、がそれを了承しているのだとしたら腹立たしくて仕方がない。あの男はどこまでだらしがないのだろう。青年が迷路のような解り難い店内を奥へ、奥へと案内した先の部屋は、ごくごく普通の寝室のようだった。ただ、片方の壁がガラスのような光沢を放っている。さては騙したか、と舌打ちした瞬間、青年がどこかのスイッチをかちりと押しーー壁が透明になった。

「ほうら、よく見える。音も聞きたいなら、そこのヘッドホンをするといいよ。面白いでしょ?終わったら、ベルを鳴らしてね。迎えに来るから」
「わかった」

返す言葉はすっかり掠れてしまっていた。何しろ、壁一面に透けて見えているのは隣室、と商売男が睦み合っている現場なのである。甘えるようにしてが積極的に男に口付け、口付け返されていた。立ったままで口付けている、それだけなのに卑猥でぞくぞくとする。相手の男は浅黒い、筋肉質の綺麗な男で、優しそうな目元が印象的だった。ああいう男が良いのか。道理で自分では足りない筈だ、と思うとひどくがっかりとする。相手の男は口付けながらの身体を撫で回し、離れてくたんとなってしまったを笑った。すぐさま長谷部は椅子に座り、横にあるヘッドホンを耳に装着した。素早さが馬並と呼ばれるのは伊達ではない。幸いなことに台詞は全部耳に届いた。

『あんた、可愛いね。俺に抱かれたくてたまらないんだな』
『そのために来たんだから当然だよ。ね、早くしてくれないか。綺麗にしておいたからさ』

どこをだ。想像を巡らせて、長谷部は顔を真っ赤にした。まさか、あの男は入れられる準備をしたのではないだろうか?長谷部とする時は絶対にしていないし(予告をしていないのだから当然と言えば当然だ)、準備含めて全てが一連の行為に含まれていたものだから、長谷部は欲しがるに例えようもなく傷ついた。それも、恐らく初めて出会っただろう男に対して、である。男は嬉しそうに頷いてを抱え上げ、ベッドに転がして再度口付けた。今度は口付けながら服を脱がせあっている。が珍しくきっちりと洋装を着込んでいたというのに、全て台無しだ。手慣れた手つきで性急に脱がしてしまうと、男はの首筋を舐め、噛み付く。吸い上げて痕がついたことは一目で分かった。痕を残す事は、ためらいがあってまだしていなかったものだから、長谷部は先に処女地を征服された事に憤りを覚えた。感情が行ったり来たりして落ち着かない。

 快感を得ているだろうの喘ぎ声が聞こえる。本丸では我慢して聞かせてくれなかった声で、もっとと言いながら男を抱きしめる。あんたは甘えん坊なんだな、という男の声は優しさに満ちていて、長谷部は舌打ちした。あの手は甘えようとしていたのか。行為の最中、は何度か長谷部を抱きしめようとする。動き辛くて敵わないので、そう不平を零す度にはぎこちなく笑って解放していた。あれは、確かに長谷部を求める手だったのだ。今更気づいた所で遅い。

『良いぜ、また来たくなるくらい優しくしてやるよ』
『……有り難い話だな。そうしてくれると助かる』

男の手がの胸を這い回り、撫でられる度に溜め息が漏れ、の陰茎がぶるぶると震えた。慣れた手つきで男が胸を揉むと、柔らかく解ける。長谷部が最近になって漸く覚えた勘所だ。何度か揉んで乳首を引っ張り、ぷっくりと赤く腫れ上がったそこを直接摘む。あ、あ、と甲高い声をあげながら、は腰を男に擦り付けていた。男の陰茎(口惜しいが長谷部よりも大きいようで、グロテスクだった、見るに耐えない)がの頼りない陰茎と擦れ合う。はそれも気持ちがよくて仕方がないらしい。

『それ、それすごくきもちいい、っ』
『痛いのも?』
『いたいのも、すき』

破廉恥な台詞に合わせて男がぎゅうぎゅうと乳首を捻る。のけぞって見えた顎の下に男は噛み付き、今度は乳首を吸い上げた。弄る事は覚えたが、舐めて吸うことは頭になかった長谷部にとって青天の霹靂である。いいよぉ、と唾液を垂らしながらが強請り、弛緩した脚で果てたことが解る。陰茎に触れずとも、たったそれだけでは極まることができるのだ。何から何までが知らないことづくしで、長谷部は悲しみと怒りと同時にひどく興奮もしていた。下半身がむずむずとし、勃起し始めていることが解る。部屋の設備を巡らせると、どうやら自慰の後始末をするものは十分にあるらしい。後でお世話になろう、と長谷部は人ごとのように眼前の絶景を眺めた。

『胸だけでいけたなあ。商売女でも中々できないぜ?』
『最初の持ち主がお稚児さんだったからかもな。なあ、早くあんたのそれを入れてくれよ。でかくて具合が良さそうだ』
『持ち主ゆずり、ってか。良いぜ、たんとくれてやるよ』

男の揶揄に、は自ら大きく脚を開き、突き出した尻孔に指を這わせて広げてみせた。長谷部からはよく見えないが、きっと秘肉は紅く色づき、ひくひくと淫らに男を誘ったろう。長谷部にはああして強請ったことはない。いよいよ痛い程に勃起した長谷部は、前を寛げて手袋を外した。今すぐにでもこれをあの中に入れて動かしたかった。男も同じ事を思ったのだろう、反り返った陰茎をぐぷぐぷと押し込めている。全て入って大きく息を吐くは明らかに笑っていた。

『やっぱりあんたの、良いな』
『お兄さんのも中々良いぜ。動いても良いか?』
『ちょっとだけ、こうしててくれ』

ぎゅう、とが四肢全部を男に絡めて抱きついた。男もそれに応え、の頭を撫でてやったりする。甘えている、そうしてたまらなく嬉しく思っているに、長谷部は噛み締めていた歯茎が痛んだ。もっと自分に求めてくれれば、口で教えてくれれば応えるつもりは十分にあった。否、自分は気づくべきだったのだ。聞こえないくらいに小さい声でが男に囁いてーーきっと淫らに強請ったのだーー律動が開始される。その間も口付けや抱擁は止まない。文字通り睦み合いで、辛くなった長谷部は自分がに入れているのだと必死で思い込んだ。自らの陰茎を握る手を滑らせ、あの柔らかな肉の感触を思い出す。早く入れたい。自分がする時よりもずっと幸せそうにするが許せない。教えてくれと言ったのに、全てを教えてくれと言ったのに、はけして教えてくれなかった。

 多分、は先にいったのだろう。今出ているからやめて、というのに男は笑って行為を続けた。あられもなく声をあげるに、きっと自分もそうしたろうと長谷部は笑った。あんな風にされたい。長谷部の陰茎から白濁がどぷりと放たれた頃、男も出したらしくて動きを止めていた。息を吐くは名残惜しそうだが、少し待て、という男の台詞に頷いて一人になることを許した。と、背後で扉がノックされる音が響き、長谷部はくるりと後ろを振り返った。見れば、自分を案内した青年が立っている。時間はまだ十分残っている筈だが、と険しくしていると、真新しいタオルをこちらに放り投げて青年が口を開けた。

「お兄さんが可哀想だからさ、願いを叶えてあげるよ。あのお兄さんとしたいんだろ?」
「……あいつはそれを承知しているのか?」
「誰と、かは知らないけど、違う男とも遊ぶことは注文の内だね」
「好き者が」
「そういう奴だから、ここの客になるんじゃないかな。お兄さんだって同じでしょ。さ、準備した」
「ああ」

渡りに船とはこのことで、怪しくはあるものの長谷部は承知した。それほどまでにを抱きたくて仕方が無いのだ。そういう意味では余程この金髪の青年の方が相応しいだろうに、思うのはばかりである。あのだらしない男を優しく溶かして、自分なしではいられないようにしてやりたい。その感情を何と呼ぶかは知らないが、意地を張っているだけではないことは解っていた。廊下に出れば、の相手を務めた男が綺麗に身なりをと整えて立っている。どことなく自分に似ているとも言えなくもない、と長谷部は勝手にうぬぼれた。

「目隠しして、手も縛ってあるからやりやすいよ。あのお兄さんにばれたくなかったら、声を出さないことだな。終わったらベルを鳴らして出て行くと良い。お兄さんの後始末はしておくよ」
「わかった」

一体何処までこの男達は読んでいるのだろう。は何を知っているのだろう。だが、据え膳は据え膳だ。部屋に入れば、力の入らない様子のが言われた通りに目隠しをされ、両手を一括りに縛られていた。こういう趣味もあるのだろうか。また知らないことだ、と苛ついたものの、長谷部は装束を脱いだ。




 露払いを頼みたい、と主君は申し付けた。無名の可愛がった刀工に打たせた無銘の刀を、これまた可愛がった稚児に渡したのである。揉めない筈はない。閨ではそれを見ていた。の持ち主は、結局を露払いに使うことなどできなかった。あれほど欲しいと言って狂おしく求めた主君は、慕っているとひたむきに言い続けた愛人を疑い、露払いを使って持ち主の血の露を払った。だから、の最初の仕事は自分の持ち主を殺す事だった。悪いとも良いとも思わないが、本来の使われ方ではなかったので不本意に思う。そうして、愛人を思い出すからと古道具屋に引き渡された。

 古道具屋はが無銘であるが故に、その華美な装飾やら鞘やらを全部剥いで売っぱらった。よりも、装飾の方が高く売れるのである。本体にはどうでもいいようなものを備え付けられ、はそれから色んな持ち主の手に渡った。盗人や人殺し、山賊やら博打打ちといった、世の掃き溜めと呼ばれるような人々に使われた。たくさん人を殺したし、乱暴に扱われた。だから、身体にはたくさんの傷がある。今では審神者によって癒されてきているが、中途半端に手入れされたが故に錆まで浮いていた。幸い、命長らえて付喪神になったが心もとない。しかし最初の持ち主は忘れられなかったし、色濃くその性質を受け継いでいた。頼りたい、という思いは抱かれたいという思いと同義であり、身体は実に貪婪だーー見場は持ち主ではなく、刀工ゆずりなのだが。面白いことに、主君の好みは幅広かったらしい。

 そうして、今に至る。長谷部は乱暴に自分を扱ったが、頼るには難しく、結局は頼りも求めもしなかった。本丸は居心地が良い。もめ事は御免だし、長谷部は本丸にとって大事な人物である。人を殺す度に持ち主の末期を思い出して震えるとは大違いだ。は戦場に立てない。それでも頼りたいという気持ちは残っていたから、これ幸いと遊びに来た。どうして長谷部が自分を追いかけるかはよく解らないが、今はどうでもいい。運のいいことに、買った男は優しく求めに応じてくれた。二戦目は変わった趣向で、別の男と寝る事になっているが、まあ多分大丈夫だろう。視界を遮られ、両手の自由を奪われたが、は至って暢気に構えていた。

 扉が開き、相手が入って来たことが解る。声をかけられるかと思ったのだが無言だ。服を脱いだらしい男の体温が迫っても尚、相手は無言だった。舐めるような視線を感じる。目が見えないことで感覚が鋭くなっているのかもしれない。男が自分に柔らかく口付けて来て、は少し不思議に思った。このやり口を自分は知っている。だが何かはよく解らない。いつまでも浅い口付けに焦れて、は口を開けて相手の口内に攻め入った。怯える相手の舌を弄び、歯列をなぞる。まだ商売を仕立ての男なのか、妙に初心な反応だ。両手が使えないので不自由だが、慣れた男が返してくれたことで事足りた。心地が良い。口付けは大好きだ。

 男の手が腹を何度も撫で、染みを数えるようになぞる。傷口を抉られるような痛みと、背筋を震わせるような快楽が交互に訪れて、は目をちかちかさせた。先程の男に触れられた時にはここまで感じなかった。首筋に痕をつけられ、先程の男の上書きと、更にたくさんの痕をつけられる。これでは当面、他人と風呂には入れないだろう。場合によっては審神者に専用の風呂を借りねばなるまい。男の手は腹から離れ、脇腹をくすぐり、胸に至る。揉んだり舐められたりするのだが、先程弄られて敏感になった乳首には触れようともしない。態となのか、知らないのかが解らずには混乱した。強請るように両脚を相手に絡めるが、優しく太ももを撫でられるだけである。自分から言わねばならないのだろうか。何度も逡巡し、震える陰茎どころか下肢にも触れない相手に焦れ、は漸く口を開いた。

「いじわるしないで、乳首、触って捻ってくれよお。吸うとき、噛んでもいいから、ぁあんっ」

一瞬、相手は息を飲んだようだが、すぐさま期待に応えてくれた。恥ずかしい台詞を言わされたことに頬が熱くてたまらない。だが、むしゃぶりつく男の技巧にはすっかり陥落していた。このままではまた胸だけでいってしまう。そうなると楽しめる回数は自然と減る訳で、さして体力のない自分にはきつい。堪えようにも両手は自由ではないし、と思っていると、悟ったのか解らないが、男はの陰茎の根元を強く握った。痛みに頭が真っ白になる。その癖気持ち良さが広がって止まない。これは地獄だ。否、天国か。息がかかるだけでも感じる程、胸を鋭敏にされたところで、漸く胸への愛撫は止んだ。腹に触れる相手の陰茎はすっかり硬い。我慢しているくせに、とは相手が可愛くなった。

 後ろはすっかり綻んでいるから、いつだって嬲っても構わない。だが、男はの腕の戒めを解いて確りと抱きついて来た。欲しいのは確かにこの安心感だったので、も応えて抱きしめ返す。男の身体から漂う良い香りに、はまさかと不穏な思考を脳裏に瞬かせた。勿論気のせいだ。相手があのへし切長谷部であるなど、ありうる筈もない。確かめても良いのだが、恐ろしくて目隠しをとれなかった。代わりに早く終わらせるべきだ、と判じては相手の耳元で強請った。入れて欲しい、かき回して我を忘れさせて欲しい、と。相変わらず黙ったままの男は一度掌に口付けると大人しく従った。内部に押し入るものには矢張り覚えがある。嘘だろう、とは震えた。

「はせべさん?」
「漸く気づいたか、この淫乱が」
「だってさっきまで違う奴が、」
「知っている。全部見ていたからな」
「うそ」

目隠しをとれば、声と同じく確かに長谷部がそこに居た。全部見ていた、とはどういうことだ。流石にそんなことを許した覚えはない。宥めるように口付けられ、撫でられる感覚は心地良く、はぎゅうと抱きついた。常と異なり、振り払われることはない。寧ろ抱きしめ返されて、は目を丸くした。細かく長谷部が身体を揺すって来る。小波のような快感がたまらない。これは初めてだ。

「ぁ、どこで、ぅっ、こおいうことぉ」
「お前を抱いたまま動くにはどうすれば良いか、俺なりに考えただけだ。こうされたかったんだろう?」
「ん、すき」
!」

もっとしてほしい、そんな気持ちで素直に甘えた瞬間、腹の中で爆発が起こった。暖かさがじわじわと広がり、腹に浮いた染みが少しだけ薄くなる。長谷部が達したのだ、と気づいては目をぱちくりと開閉させた。長谷部が乱暴にこちらに噛み付いて来るので噛み付き返す。食べられてしまいそうで怖かった。

「お前こそ、どこでそういう手管を学んだんだ……いってしまっただろうが」
「気持ち良いから気持ち良いって言っただけだよ。何でそんなに狼狽えるかね」
「お前に好きと言われたからだ」
「うん」

抱かれるのは好きだ、間違いない。現に今は足りなくて下腹部がむずむずする。物足りなさに中を締めると、長谷部が硬さを取り戻した。舌打ちと共に長谷部が揺する。先程よりも強引で激しい。求められているようだ。確かに今は求められている。頼りたくて縋りたくて、同時に与えたくっては確りとしがみついた。長谷部が受け入れてくれるとは思わないが、そうであったならば嬉しい。これでは最初の持ち主と同じだ、とは自嘲した。

「長谷部殿、お慕い申し上げる」
「愛していると言え」
「え?」
「現代ではそう言うのだ。俺はお前を愛している、と思う」

だからお前の全部を寄越せ、と傲岸不遜な男は宣う。瓢箪から駒で、は思わずぎゅうと締め付け過ぎた。瞬間、達しかけたらしい長谷部が舌打ちする。腰使いと共に胸も攻められて、は全面降伏した。これはたまらない。応えてもらえるのだ、現代の言葉で言う等どうということもない。

「長谷部、愛してる」
「ふ、それでいい」

言わなくたって暴き立てる、という台詞は腹にぐっとくる。ふわふわとした幸福感から、は長谷部に自ら口付けた。思えばこれが初めてだった。




 他所に向かう筈が、結局だけで終始してしまった。初めての衣装をに着付けながら、長谷部は上機嫌に鼻歌を歌う。戦場にこそ立たないが、は男士として今日、独り立ちするのだ。別段何かが変わる訳ではないし、長谷部が傍にいる事はきっと永劫変わらない。ただは更新された、そういうことだった。腹はもうすべすべとしていて傷一つない。そこに軽く口付けると、が頭を叩いて来る。揶揄うつもりでシャツの中に手を入れると、裸の脚が、誘惑するように跪く長谷部をくすぐった。全く、これだから油断は出来ない。

「止せ、。服を着ろ」
「先に手を出したのはお前のくせに。この服、着辛いんだよ」
「俺の揃いだからな。直慣れる。慣れなければ俺が着せてやる」
「『服を着せるのは脱がせるためだ』って、言うらしいな」

完全に服を着付けると、長谷部と揃いで色違いの衣装が翻る。に合わせた、青鈍色の装束だ。の台詞は尤もで、着せた端から長谷部は脱がせることを想像していた。禁欲的な、折り目正しい衣装が乱れるところはたまらないだろう。自分と同じ衣装にも関わらず、これ程までに興奮できるというのは不思議だった。

「ああ。夜が待ち遠しい」
「お前が手加減できるなら、夜じゃなくても良いんだがなあ。なんでそう際限がないかね」
「さあな。お前相手だからだろう」
「ありがとう」

素直に返すを、長谷部はつくづく愛しく思う。他のどの男士よりも早くこの感情を得て、相手までも手に入れたことは密かな誇りだった。勿論、他の男士はやっかんだりなんだりと色々あったのだが、具合がいいのだから仕方がない。を他所にやることは言語道断だし、自分が他所を試すつもりもない。この男に銘を刻むのは自分だけなのだ。

「あいっかわらずべったりだなあ、二人とも。いい加減来てくれよな。主も待ちくたびれてるぜ」
「悪い、加州。今行く」

遠慮会釈なく扉を開けたのは加州清光で、どうやら態々呼びに来たらしい。悪戯をしているうちに時間を過ごしたようだ。主命に逆らう気持ちはないものだから、長谷部は慌てて身支度をした。その様を、面白そうに加州が目を細めて見遣る。

「へえ。そうやってきっちり着てると、も中々良いね」
「本当か?洒落ものの加州に言われると悪い気はしないな」
「……加州。悪いがこれは俺のものだぞ」
「解ってるよ。嫉妬深い男は嫌われるぜ」

知っている。だが、それでも釘を刺す事を止められない。何故ならが何れ程淫らで、乱れた様は多くの人間を惹き付けるのだと長谷部は知っているからだ。ただこの本丸の人間は知らないだけで、故に手を出さないだけである。は違うと笑ったが、好奇心は侮れない。この披露だって、が自分のものだと見せつけるためのものでもあるのだ。そうでなければ揃いの衣装などにはしない。兄弟でも親戚でもない、それも無銘のに揃いの衣装を与えるとは縁戚に迎えることと、即ち人のいうところの婚姻にも等しい。

 揃いの衣装を誂える時、審神者に確かめられたし、には本意を告げておいた。それを喜んで受け入れたのはだ。只一言、捨てないでくれ、とだけ頼まれた。勿論である。捨てないどころか、長谷部は心密かに決めていることがあった。もし、自分が戦いで傷つき折れそうになったならば、きっとの元へ戻ろう。そうしてを折ってから、自分も折れるのだ。捨てないという約束を守るのだから、その程度の覚悟はしてほしかった。多分に受け入れられるだろう。審神者にだけは許しを請うたが、何故か顔を引きつらせるばかりだった。

「お前は相当執念深いんだな」
「不快ですが、持ち主だった男に似たようです」

織田信長が脳裏にちらつく。がいつぞや打ち明けてくれた、彼の初めての持ち主のように、織田信長は多大な影響を長谷部に残していた。今でも時折思い出す。交流があったわけでもなしに嫌悪を、羨望を、恐怖を抱く。欲しいものは奪い尽くすという理念はするりと飲み込めた。それに、は与えてくれるし、欲しがられることを求めているのだから釣り合いがとれている。自分達は似合いなのだ。まるきり反対であるが故の対だ、と長谷部はしみじみ思う。は相変わらずだらしがない。だが、それでいい。そうでなければ付け入る隙がなくなってしまう。

「長谷部。行こうぜ」
「ああ」

するりと、当たり前のようにが長谷部の腕に手を絡めて来る。当たり前のように腰に手を回すと、共に歩き始めた。加州が舌打ちをするが、どうということもない。見せつけてやれば良いのだ。

「……やはり、夜まで待つのは厳しいな。お披露目が終わり次第、脱がせてやりたい」
「がっつくなよ、坊ちゃん」

笑うの頬が赤い。何をされるか想像したのだろう、腰を撫でればぶるりと震える。彼を発情させるのは簡単だ。同時に、自分を制することは難しい。午後には二人とも内番があるものだから、支障が出るのは不味い。どうしたものかと考えあぐねていると、は何かを思いついたような目で長谷部に小声で囁いた。

「あとでその、口でしてやるから我慢してくれ」
「お前はそれでいいのか?」
「がまん、する」

むうと引き結んだ唇がおかしい。どうせ我慢等できないくせに、そんな妥協案を持ちかけて来る。誰に内番を代わってもらおうかと長谷部は舌なめずりして考えた。喧噪が近い。長谷部のものを見せつける時が、自分の愛でる宝物を見せる時が今、来たのだ。

「露払い、もとい、だ。改めて宜しく申し上げまする」

赤錆色の瞳が開く。それはまるで曙光のようだった。



〆.

あとがき>>
 一気に完結分まで書きました!が、頑張った自分……!割れ鍋に綴じ蓋的な二人の終わりです。長谷部はヤンデレ成分を含んだ超弩級のサドだという変換が頭の中でされてしまいました。モブを挟みましたが、壁一枚隔てた向こうを思って何事かする、という背徳的なシチュエーションは好きです。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!