DREAM NOVEL
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貴方がいなけりゃ私はなかった、
貴方がいなけりゃ、

こんな、こんな思いをすることもなかっただろう


君が音を聞く


 さあっ、と心地良い風が吹き抜ける。さながらにして邪気を祓い清めるかのごとくで、人々に心地良さを齎していた。新緑はまさに美しい盛りで、静謐な空気の中に、ただ川の流れる瀟々とした水音と、鳥の囀りが聞こえるのみである。風雅な人物であれば誰しも目を細めて歩みを止める事であろう。

この、西暦を迎えて2000年も遥かに過ぎ去った現代において、人が住まうとはおおよそ思われない、手付かずの場所というのは大変貴重である。一体何千年の昔からこの姿をとどめていたのかは、現代の人間には凡そ与り知れぬ事だった。勿論、このように放逐されているのには理由がある。日の本の帝が信頼する、審神者が座する鎮守の森、というのがこの神域の位置づけであった。審神者について、何をする者なのか、という事を知る民は少ない。そもそもその名を耳にした事があるという事も滅多にないだろう。知っているものが居たとしても、それは遥か昔の夢物語にも等しい存在だと鼻で笑うような、そういう話なのだった。

「師匠、それはちょっと……なんというか、無茶ぶりというか体のいい押しつけですよねえ」
「仕方ないじゃろ。お前さん以外に手頃な輩がおらんのだから」

だが、そんな清き美しき神域では、中高年の男性が二人、邸の中で刺々しい会話を交わしていた。一人は、いかにも神域に相応しい、仙人のような風体の男である。だが、よくよく見れば筋骨隆々で実に逞しい。恐らく、若い頃は確実に武闘派であっただろう。もう一方は不可思議で、丁度十八世紀頃の英国紳士を絵に描いたような形をした中年男性であった。要するに、二人ともこの高度に科学も発達し、幾世紀も経て文化も洗練された現代に相応しい様子ではなかった。

「師匠、師匠はいつも私を便利に使ってばかりじゃないですか。他にできる人も居るでしょうに、なんだってそんな物騒な仕事を私に持って来るんです?人の子のする事じゃないわ」

愚痴愚痴と言い募る中年男性の声はどこか掠れて高く、物言いは女らしい――オネエと呼ばれるに相応しいものである。だが、見た目は完璧に紳士であり、そのオールバックにした髪といい、サイドをツーブロックに綺麗に刈っているところといい、実に男性らしいところが不可思議だった。

「ええい、だまらっしゃい!神さんを降ろせる、過去までもついていける、そんな技能もあって家族もおらん、そういう奴が俺の下におらんのだから諦めろ!良いか、事は一国を、否世界を揺るがす一大事なのだ。辛い任務であろうが、どの一門も一人は出さねばならん。よって、お前は行くしかないな」
「無責任!無責任よおおおおお」

この珍妙なやり取りにより、ある一大事がオネエな紳士の背にのしかかったのだが、まずは説明に移ろう。この仙人こそは、日の本きっての審神者の一人、大場華山(おおば かざん)その人である。元は伊勢神宮で衛士として名を馳せていた武闘派で、その才を見いだされて宮中に招かれたという曰く付きの人物であった。彼により降ろされた神は、常に雄々しく世を牽引した事でも高名であった。尚、長らくパートナーを組んでいた巫女・篤子との大恋愛も有名で、二人揃って恐ろしいと呼ばれる夫婦である。

 そんな華山が先日、国内に住まうありとあらゆる審神者と巫女の元締め達共々宮中に緊急召集されたのであった。正確には国外の者も呼び出されたのだが、如何せん急を要するということで、彼らはテレビカンファレンスでの参加を許されたのであった。正に文明様々である。ならば、国内の自分達も物理的に赴く必要は無いのでは、と思ったのだが宮中の権威というものもあるので却下されたのだった。
  
さて、かくも重々しく招集された審神者達に告げられたのは、如何にも一昔前のSF小説に書き連ねられていそうな椿事であった。曰く、世の歴史を乱す事を目的とする不届きな輩が現れ、少しずつ歴史を改竄しているという。そんな馬鹿な話があるものか、とも思うも、斎宮が厳かに告げるだけでなく、他宗教の代表までもが現れて事態の深刻さを謳うものだから、すわ一大事と瞬く間に理解されたのであった。ローマ法王がテレビカンファレンスに映った瞬間の熱気と言えばこれまでに見た事の無いものであった。

 実際のところ、今はまだスエズ運河の位置が5m程ずれている、という程度しか確認されていないのだが、地図を塗り替える程なのだから恐ろしいし、今後どうなってしまうかは杳として知れない。おまけにこの椿事を解するのは各国の審神者・神事の従事者の類いだけなのであった。こうして緊急に審神者達による同盟が組まれ、最低一門から一人の能力者を出し、過去に現れる的を探って叩くという、世紀のモグラたたきが始まったのである。

「……その場に居る全員で必死に探ったら、敵の親玉とかまるっと解りそうなものじゃありません?」
「それが解らなかったから、ひとまず対処するという事に落ち着いたんだよ。こっちだって、別に資源を無駄遣いしたい訳じゃないさ。だから、各一門の長は全員敵の親玉の索敵に当たる」

だから自分は行けないのだ、と華山は話の腰を折った弟子を睨んだ。この中年紳士のオネエこそは華山の五番目か六番目かに当たる弟子、である。細かい事は余り覚えない性質なので、華山には正確なところは解らないが、年期が長い事と、一応今回の任務を与えるに相応しい条件を備えている事は把握していた。

 審神者に出来る事は、神を降ろす事である。それも巫女と共に行うのが通常で、大概は自分自身に降ろして神意を解するというのが専らの仕事だった。しかし今回は、武器やら兵器やらに体を与えて過去に大量に送り込む必要がある――ばかばかしいが、他に手だてがないと判断されたのだ――ため、少々求められる条件が異なっていた。
 
兵器やら武器やらに人のような体を与えられる事は勿論、彼らを時空を超えて送り届ける事、時によりては自分自身も時を遡る事、というのはなかなかなし得る能力ではない。出来ない事はないが、万が一を思えば尻込みしてしまうのは人の常だ。そうした意味では、家庭を持つ人間には酷な任務と言えるだろう。

 そうした意味では、こそが最適な人物なのであった。モノに形を与える事はお得意で、先頃も八千草皇女に王冠より産まれた侍女を献上したばかりである。ついで、オネエである事から察せられるように同性愛者であり、出会いの少ない業界に居座る事もあって未だパートナーは不在であった。普段の仕事であっても、巫女との折り合いが悪いため、殆ど全てを一人で行っている程である。

どんなにが文句を言おうとも、長年の恩義と師としての権威を以てして華山が命ずれば従うよりほかない。世の一大事は、このオネエな紳士の運命を変えたのだった。




 面、とは文字通りおもてに見えるものである。このモノはこういう性質のものでござい、ここを見て居ればまあ外れはない、語るならばこちらを見りゃれ、もそと、もそと、もそと。故に、顔とは大事なものであり、顔さえあればひとまずは安心できる。顔のないものは不可思議で得体が知れなく不安だ。
 
 だが、顔があっても恐ろしいものがある。それは美醜を極めたものだ。作り物じみた美しさも、見るもおぞましい醜さも、どちらも中々目の当たりにする事は無いので違和感を抱くのは致し方ないだろう。ましてや、さして多くの人間とかかわり合いになった事のない者ならば尚更だ。
 
「憂鬱だわあ」

現に今、すっと三センチばかり開いた障子をそっと閉めたが良い例である。は至って平凡な容姿の男で、紳士めいた格好を抜いてしまえばなんの特徴もなかった。鼻筋が割合に通っている、歯並びが美しいという事くらいは褒めても良いだろう。昨今には珍しく、純粋な日本人であった。

この、のものとして下げ渡された邸には今、彼の部下となりこれより過去へと送り込む大任を果たさねばならぬモノが置かれている。何でも古より伝わる刀剣で、数々の名将の傍に侍り、戦場をかいくぐって来た彼らならば、優に戦ってゆけるだろうという判断だった。しかも、ケチケチした師匠の華山は一本のみ下げ渡そうとしていたのを、が必死に強請って五本に変えてもらったのである。一体どういう刀なのか、ということは面倒なので聞いていない。

「ほれ、はよ行け。時間が惜しいし、俺も索敵に行かないといけないんだ。篤子を置いてく俺の身にもなってくれ」
「……そういう押しつけが嫌なんですって。はいはい、やれば良いんでしょうやれば」

すっと障子を開き、綺麗に並べられた刀剣の前に、は美しい所作で正座した。そのまま、深々と一礼し、華山が背後から差し出した琵琶を手にした。音を確かめ、胡座を組んで抱える。撥を持つと、は静かに奏で始めた。ついで、僅かに口を開いて祝詞を紡ぐ。本来ならば和琴を用いて行う儀礼であったが、要するに音を出すものであれば良いとされるがため、現代では様式が崩されていた。の兄弟子の遠見某に至っては、ウクレレで召喚する程である。海外ではテルミンで召喚する者も現れたと言い、世は常に移ろうのであった。

 十数分程経ったであろうか、の額に汗が浮き始める頃、ようやっと刀剣を取り巻く空気が朧に歪み――うっすらと人の形を生してゆく。まるで霧を集めてモノを造り出すような、そんな動きであった。更に十数分が立つ頃には完全に人の形を生し、5人の青年が姿を現したところでようやっとは手を止めた。疲労感から琵琶を脇にどけると荒い息を吐く。よくやった、と背後から羅山が肩を叩いた。

「疲れたわあ。やっぱり、一気に五体はきついわね……しかも何でこんなにイケメンぞろいなのよ」
「おや、褒めてくれるとは嬉しいね」

ずいと近寄って来たのは、風雅な様相をした紫色の髪をした青年であった。如何にも文人らしい声音をしている。急な接近に対処できず、はぐうと喉を詰まらせた。見た目は42歳のの方が上だが、悠々とした様は正に年上である。確か、歌仙兼定という風流な名の刀剣であった。

「君が主だね。うん、洋装ではあるが、趣味は良いようだ。僕と気が合いそうだね」
「そ、そりゃあどうも」
「良かったなあ、よ。お前好みの男子ばかりじゃないか。一人でも十分やっていけそうだな」
「全然安心できないわよ!い、イケメンなんて、イケメン……無理ですよう、師匠。私、綺麗な人が苦手っていっつも言っているじゃないですか!こんな、こんな」
「……綺麗だとか、言わないで欲しいな」
「変に拗らせてる子も居るし!」

よくわからないが、布切れを頭に被っている端麗な顔の青年は何かを拗らせているようであった。面倒くさい気配しかしないこの青年は、確か山姥切国広というのであった。その横で、イケメンだなんて主は解っている、と頬を染めている気持ち悪いのが加州清光である。朗らかでまともそうなのが陸奥守吉行だろう。揃いも揃って、よりも遥かに若い煌びやかな青年ばかりである。口々に主、主殿、と傍に寄る様は、まるでひな鳥が産まれて一番初めに見た生き物を親と見做すかのようであった。流石元はモノ、所有物という意識が抜けきれないのだろう。

「仕方ないだろう。お前さんの夢のような世界だぞ?第一、こいつらを生み出したのはお前さんなんだ、責任を持たんとな」
「解ってますけど……」
「だったら主君らしくしゃんとせい。ほれ、向こうを向け」
「はい」

嘆息すると、は掌の汗をそっと拭って青年達に正面から向き直った。彼らは、これよりのせいで戦地に行かねばならないのだ。こんなにも平和な時まで長らえたのに、と思えば思う程胸が痛む。

「……私は、って呼んでくれて良いわよ。精一杯、貴方達の主に相応しいよう努めるから、その、これからどうぞ宜しくお願いするわね」

かくて、刀剣男子とオネエな紳士・の奇妙な同居が始まったのであった。




 何かを変えるには、課題を解決するためには、その根源を突き止める事に意義がある。一つ一つの症状に手を変え品を変え対処したところで、再発するだけで、時間の無駄となってしまうからだ。少し考えれば誰にでも解る事で、は悶々としながら巨大スクリーンに向かっていた。
 
『今のところ、動きがあるのは中国の中原で、諸葛孔明が誘拐されかけたらしいわね。楊陽明が対処したと聞いたわ。ま、敵さんも頭が悪い訳じゃないみたい』

スクリーンに映るのは、と負けず劣らずのオネエである。こちらは化粧も確りしており、どこか艶めかしく、女性らしさに磨きがかかっている。門派は違えど、の同期にして腐れ縁のオネエ、唐梨勇夫(からなし いさお)42歳だった。見た目は可愛らしい方であるが、名前の雄々しさを気にする審神者である。

「そりゃ、歴史を変えるとかいう訳の分からない事をするなら、最小限の手でどうにかしたいものねえ。解るわあ。私だったら、クレオパトラからカエサルを奪っちゃいたいものね」
『……あんた、本気で言ってるなら大分自信過剰よ。ま、私も楊貴妃から玄宗皇帝奪っちゃうわね』
「自分の顔見てから言いなさいよ。このブス!自称可愛い系ゲイ!」
『お黙り!可愛くないからって嫉妬するのは性格ブスよ!可愛くないのに性格もブスは最悪よ!ブス!』

勇夫も彼の一門から代表として選出され、主に諜報・調略を担当している。故に、彼の取り扱う付喪神は公安やら陸軍中の学校だのが使った伝説の道具から歴史に名を馳せるハッカー達が利用して来たPC、そして数々の軍略書から成り立っている。幾つかは渡来ものであるため、彼の傍には洋人が混じっているのが特徴だった。尚、影のように印象は薄いが、どれもが美形ぞろいという点ではと同じである。

「……やめましょう。こんな事言ってもどうにもならないわ。で、どうしたのよ。そろそろ私の出番って訳かしら?」
『ううん、違うわね。うちの子達からは今のところ、特段の報告は入ってないもの。ただ、うちの子が諜報活動中に拾いものしたから、あんたに送ってあげようかと思って。もうちょっとで届くと思うから、楽しみにしてて頂戴』
「拾いもの?」
『ええ。きっと和風なイケメンよ』
「……あんた、私がイケメン苦手だって知ってるでしょ。ただでさえうちの子達は――」
様、来てくださいよ!なんか届け物が来ましたよ」
『ほら来たみたいよ。行ってらっしゃいな。感想を後で聞かせて頂戴ね』
「いさおおおおおおおお!」

呪うように叫ぶも、相手は既に通信を切った後であった。仕方なしに振り向けば、加州が自分の思う一番可愛い角度で小首を傾げている。面倒くさ気に一瞥すると、は椅子から降りてリビングに向かった。

元々、この家は神事に相応しく、という訳の解らない配慮により、完全な伝統的和式だったのだが、ままごとに付き合うよりも実を取った方が遥かに良いとが提唱し、全て近代化されている。また、普段自分しか居ないのだから、というの意見により、書斎だけは趣味の18世紀英国貴族のような装飾になっていた。

 農作業から帰って来たのだろう、最近はコンバインの操作も完璧にこなす陸奥守が、作業着のままで長い包みを抱えていた。どうやら長櫃のようなものであるらしい。は近寄ると、彼の頬に点いていた土をそっと指で擦り取った。

「な、あ、主殿、何ばすっと」
「ん?舐めた方が良かったかしら?土だから、ちょっといやねぇ」

そういえば、元は刀身の彼らの肌とはどんな感触がするのだろう。舐めてみたくはある、とが考え込み始めていると、陸奥守が溜め息を漏らした。

「そういう問題やないさき……いや、その方がええのう」
「……用件を言え、陸奥守。主が困っているだろう」

何事か続けようとした陸奥守を、冷え冷えとした声で山姥切が遮る。見れば、刺すような目でこちらを見ていた。ひょっとすると、陸奥守を慕うが故に自分を厭うているのやもしれない。彼らの関係は今ひとつ解していなかったものだから、は何用か、と陸奥守に尋ねた。

「おお、そうじゃった!唐梨殿から届け物じゃ」
「宅配の方が言うには、刀剣だそうだよ。ま、俺のように美しくはないだろうけれどもね」
「ふうん、そう」

大体は話に聞いた通りであったので、は蜂須賀虎徹の鬱陶しい台詞を流し、陸奥守から箱を受け取った。随分と重いが、刀工も兼ねて居るは十分に抱える事が出来る。『貴方の得意分野だから送っとくわ、きっとイケメンよ!』という勇夫手書きのメモに、はげんなりとした。刀剣は三振りあるらしく、降ろすのにまた体力を使いそうである。仕方ない、と腹を括ると、は刀剣達に、仲間を増やして来るから、と短く告げて神事を行う部屋へと奥深く奥深く潜って行った。

自動ドアの前で、の瞳が調べられ、正しい資格保持者である事を認証される。神域に入る事が出来るのは審神者と巫女のみだ。以前、加州がどうしても、と縋って来たのだが、機械にではなく、が張った結界に弾かれ軽傷を負った。以来、主の後をついて来る者は居ない。審神者とは本来孤独で切り離された存在なのだ。部屋に入り、刀を並べて清める。一呼吸し、は神を喚んだ。




「またイケメンなのね……食傷気味だわ」
「俺では不満ですか、主」
「ヒッ」

へし切長谷部はびくつく人間を笑うと、新しい主の手を取って恭しく口付けを落とした。なんというか、この主にはそうした振る舞いが相応しいように思えたのだ。途端、ぼん、と音がするように中年男性の顔が赤らむ。これまで、様々な主を見て来たが、こんな様子を見るのは初めてであったから、長谷部は改めて興趣を覚えた。

 初めてといえば、人の形を得るのはこれが初めてである。何でも、目の前の中年男性――が言うには、彼の審神者としての能力を以てして成ったのだそうだ。横に並ぶ、他の二人の男性も同じであるらしい。眼帯をしている男が燭台切光忠、黒い長髪が艶やかな男は和泉守兼定、とそれぞれ名を名乗り、主を認めた旨を告げる。何がいけないのか、は終止びくついては居たが、自分が何故この場に彼らを降ろしたのかを詫びつつ説明した。

「――と、まあ御都合主義で申し訳ないのだけど、良かったら貴方達の力を貸して頂戴。嫌だったら、私の伝手だけど、神様の下で働けるように就職先を斡旋してあげるわ」
「そんなつれない事言いなさんなって。オレはアンタを主と認めたんだ、火の中水の中、一緒に居ようぜ。あ、オレに惚れて良いんだぜ?」
「感動したい台詞なのに、最後で首捻っちゃうわね、和泉守君。あ、あと長谷部君は手を離してもらえると助かるんだけど」
「主命とあれば」

わざとらしく告げると、長谷部はもう一度口付けての手を離した。主とこんな風に会話を交わす事の出来る日が来るとは何と言う事だろう!織田信長も、豊臣秀吉も、黒田官兵衛だってそんな技は持ち得なかった。おまけになんというか――至って男性らしい容姿をしていると言うのに、女言葉を使うは興味深い。生きながらえればこんな風に面白いものに当たることもあるのだ。僥倖と言えよう。

「かっこよさは僕も負けていないからね。それに、元々性別はあってないようなものだから――君は僕に惚れても良いし、それこそ夜伽だって申し付けていいんだよ」
「よ、余計なお世話よ!彼氏が居ないからって馬鹿にしないで頂戴」

興が乗ったのか、燭台切まで茶々を入れるが、どうやら主が男色を嗜むというのは確定らしい。これまでの主でもあった事故に、長谷部はなんら不思議に思わなかった。勿論その場に居合わせた事はそうないので、人には色々な交わりがあるのだ、という知識の一貫に過ぎない。とりたてて忠を失うようなものではなかった。

「ちょっと、皆して揶揄わないでよね。これだからイケメンは……はあ、良いわ。さっき少し説明したけど、他に5人来てるから、仲良くしてやって頂戴ね。戦はいつ起こるか解らないけど、貴方達には、少しでも良い生活を送って欲しいと思ってるの。何でも私に相談してね」
「はい、質問」
「なあに、光忠君」
には近侍が居るかな?もし居なければ、僕が買って出たいところなんだけど」

ずいと出た燭台切は、非常に朗らかな様子だが、目は爛々とした獣のようだ。どういうつもりかは知らないが、この主をそうした意味で籠絡したいらしい。そうした意味での欲はまだ芽生えていないものだから、長谷部は純粋に不思議に思えた。

「近侍だなんて、大層なものはないわよ。貴方達は任務以外は私の事なんて無視して良いんだから。傍に居たければ居ればいいし、嫌ならば離れていけば良いのよ。私もこんな年だもの、自分の事は自分で出来るわ」

困ったように主君は笑ったが、長谷部は逆に、から距離を置かれているのだ、と強く感じ取った。なんというか、彼は必要以上に近くにある事を恐れているらしかった。何故だろう?主は主だ。主こそが正しい。主こそが真実だ、事実だ、真理だ、それで良い。だが何故か、この主には表層ではなく真意を探りたいように思わせた。何より、今の自分には口がある、手もある、足もある。知ろうとすれば知る事はできなくはない。

「それじゃ、話は決まりだ。前に居る奴らとも話さにゃならんが、アンタの近侍は暫く、オレ達が輪番で行う」
「は?なんでよ」
「俺達は貴方を主と認めた。主を守りたいと思うのは、当然の事だとは思われませんか?」

和泉守の台詞に被せるように言いながら、長谷部はそうだ、と再びの手を取った。主の緊張が手に取るように伝わる。いくら審神者といえども万能ではない。今この場に居る三人が本気でかかればひとたまりもないだろう。何をしようとも思わないし、方法も解らないのだが、獰猛な想いを長谷部は気に入った。こんな気持ちを自分に沸き起こさせる主は矢張り知らねばならない。

「さ、主殿。俺達に命じてください」

貴方が思うままに。そして自分もまた貴方に思うままに接しよう、と心の中で呟くと、長谷部は他の刀剣達と目配せし合った。恐らく、彼らも似通った事を考えているのだ。

 この主は罪作りだ。使命とは言え自分達に人型を与えた事で、興趣を、好奇心を沸き起こさせてしまった。これまではどう頑張ったところで使われる道具に過ぎなかったのに、叶えられる肉体を与えた。それが何を意味するのか、互いにまだ何も知らぬ状態ではあるが、きっと面白いだろう。
 
「……とりあえず、部屋に行きましょ。あの子達が心配してるわ」
「へいへい。じゃ、早いとこ行こうぜ」

言うなり、ひょいと和泉守がを抱きかかえる。流石刀剣から産まれただけあって、力は強く、中年男性等軽々と抱き上げてしまう。流石の主もこれは予想していなかったらしく、長谷部から手を離すと、ばたばたと暴れ始めた。

「あっ、ちょ、やめ、降ろしなさい!降ろしなさいってば!」
「暴れると危ないぜ?」
「……服に皺着けたら許さないから」
「皺くらい、僕がとってあげるよ」

光忠の声は蕩けそうな程に甘い。こういう接し方でが呼吸困難に陥りそうになっている。次はああしてみようか、こうしてみようかと思わせる主は本当に楽しい。出来うる事ならば、戦場等に行かず、彼の傍で世界を見聞したい程だ。さぞや楽しいに違いない。

そのためにも、杳として知れぬこの使命を果たそう、と決めると、長谷部は部屋の前に並ぶ刀剣達に頭を下げた。


〆.

あとがき>>
やってしまった……やってしまいましたよ……これだけ書いてるの平行してちんたらしてるのに、刀剣愛しさにやってしまった。設定が余り発表されてないので、フリウォ同様に自分の思うところをがつがつ詰めてますが、許してください。。。

付喪神として人の形を得るのが初めてならば、何を見るのも楽しそうだな、というのと、折角2000年も遥かに過ぎた現代(という設定)に居るのであれば、最先端の技術の組み合わせでさぞやおもしろかろう、という二つから書いてます。刀剣男子は神であると同時に、神に成るためには審神者が必要だったという意味で、親とも言える審神者を慕って主と見做すのであれば良いなあと思います。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!