DREAM NOVEL
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たまにくらいは、馬鹿になりたい


乱痴気騒ぎ



 ふわりと、甘い香りが空中を漂う。今見遣っている庭の花々とは異なる香りで、だんだんと近づいて来るそれに、宗三左文字は眉を顰めた。嫌いではないが、苦手である。だが、避け続けることもできず、仕方がなしに横にぴたりと寄り添った男の頭を撫でてやった。これと言って目を引く所のない中年の男性だが、宗三のような女性的な雰囲気をまとっている。美しさのかけらもないが妙に婀娜っぽく、すりりと宗三の肩口に顔を埋める様は猫のようで実に嵌っていた。男を、という。宗三左文字の主である。

「宗三君、今良い?」
「駄目です」
「ケチ。二時間前も駄目って言ってたじゃない」

はオネエの部類に入るらしい。らしい、というのは宗三が人型を得て以来、まともに交流する人間がしかいないので判断しかねるからだ。ついでに言えば同性愛者で、美青年美少年様々な刀剣男士がよりどりみどりの現状はにとって願っても居ない幸福だろう。が、宗三がこの本丸に来るまでは実に落ち着いていたのだという。性的な匂いは一切なく、こんな風に触れ合うことなど全くない。どちらかと言えば素っ気なく、寂しいと思います、と未だに当たり障りのない距離感をとっている秋田藤四郎が、説明しながらしゅんと落ち込んだ程だ。抱きしめ、頭を撫でたり、手をつないだりということはする。だが、宗三に対する程には情がこもっていない。故に他の男士はあからさまに宗三に対して嫉妬を見せていた。良い迷惑である。この状況は、宗三が望んでいるものでは全くない。

 初めて人型をとって顕現した瞬間のことを宗三は未だによく憶えている。ひどく生真面目だったの顔が一瞬にして真っ赤に染まり、甘い匂いが漂った。事情を飲み込めずにも宗三も狼狽え、叫ぶようには近づかないで欲しいと願い、解らず宗三が近づいて破綻した。ただ肩に触れただけでは喘ぎ声を漏らしてくたんと倒れてしまったのである。それから先はてんやわんやの騒ぎで、当日の近侍だったへし切長谷部がを病院に連れて行ったり、散々詰問され主を害したのではないかと痛くもない腹を探られた。妖を扱う医者曰く、

「発情した?」
「非常に不快だが……お前と主の相性は非常に良いそうだ。お前にその気がないのなら、傍に寄らない事だな」

長谷部は苦りきった表情で、発情とは何か、もし接触があれば何が起きるのか求められているのかについてをこと細かく丁寧に説明してくれた。本来ならばがやるべきなのだろうが、先だってのように宗三に近づくと発情してしまうので代理を立てたのだろう。一頻り説明を受けて理解した後、宗三は何と単純で簡単なことかと呆れた。ただ単に主の欲望を受け入れる、それだけではないか。しかも、医者の見立てに寄れば、交合することでより霊力が増し、戦力の増強にも役立つのだという。これまでのものであった時も、持ち主の欲望を受け入れ続けていたものだから、宗三はすぐさま承諾した。人の身でどうするのかは今ひとつ解らなかったが、承諾した瞬間、長谷部が溜まらなく嫉妬を全面に押し出したことは何よりも愉快だった。

 当初は少しでも近寄ると発情する程だったが、今では大分抑制できるようになっている。一度満足させてやれば、多少は保つ。が、まだ宗三を遠征に出せる程ではなかった。故にこうして宗三は素気なくからの誘いかけを拒んでいるのである。正直な所、との行為は嫌ではない。人間の美醜の概念から言えば相手にしないようなだが、宗三には無関係だし、何よりもこの本丸の誰もがなし得ない特権を自分が享受しているというのが溜まらない心地良い。自分の主を虐げられる等、けして許されるものではないのだ。

「わかったわ。お邪魔してごめんなさいね」
「どこへ行くんです?」
「お買い物。ぶらぶらするくらい良いでしょ」

存外あっさりと引いたに、宗三は眉根を寄せた。何か裏があるような気がする。何より、がまだ発情している証拠に甘ったるい匂いがより強くなっていた。他の男士は気づかないというのだから、本当に宗三はとの相性がいいのだろう。この匂いを嗅いでいると、宗三も身体が落ち着かない。だから自分も多少の我慢はしているのだが、にはわからないらしい。こんな様子で本当に買い物なぞまともにできるのだろうか。名残惜しい様子すらなく歩いてゆくがどこかふらつくのを見届けると、宗三はこっそり後をつけるべきか迷いーーつけることに決めた。

「なんだって僕はこんなことをしてるんでしょうね」
「知らん。第一、それは俺の台詞だ。痴話げんかに俺を巻き込まないでくれないか。不快だ」
「貴方が暇そうだから声をかけてあげただけですよ。ほら、を見失わないように歩かないと」
「チッ」

幸い、自分よりも足が早く、主に対する抜群のセンサーを保つ長谷部を供につれることができた。忌々しい事だが、宗三の能力は長谷部を下回ってしまう。ここで見失ってしまっては本末転倒だ。人界ではなく、幽界の商店街を抜け、はどんどんと慣れた調子で通りを次々と過ぎてゆく。足下はふらついているから、傍目には酔っぱらいにも見えなくはない。場末のような、どことなく薄暗い雰囲気のある場所に近づいて来ると、長谷部がぴたりと歩を止めた。

「おい、宗三。これ以上は行かない方が良い」
「何でです?まだ目的地に着いても居ないみたいですよ」
「……俺は前に来た事がある」

一回追いかけた事があるのだ、と溜め息をつきながら長谷部は説明した。この世には、性行為を奉仕される商売というものがあり、はその店に”お買い物”に出かけているのである。宗三が来るより遥か前から行われていた不品行で、これさえなければと長谷部は常々苛立たしく思っていた。とはいえ、ある意味これだけが主の楽しみであり、耽溺している訳でもない。よって黙認されてきた趣味なのである。相手となる宗三が現れてからはなかったのだが、と言うと長谷部はにやりと嫌な笑みを寄越した。

「ま、そう気落ちするな。お前に満足できなかったくらいで放逐するような主ではないからな。あの方は慈悲深い」
「僕に不満がある、ですって」
「お、おい」

甚だ見過ごせぬ発言に、宗三は単なる揶揄と解っていながらも怒りで頭痛すら覚えた。視界の端で、どうやら馴染みの相手と出会ったらしいがきゃっきゃと騒いでいる。相手の男も慣れた様子での身体を何やらべたべたと触っていて不快極まりない。あの男の方が自分よりも良いというのだろうか?長谷部の制止も聞かず、宗三はただ怒りに身を任せて物陰から躍り出た。




 与えられないものを求めることはつらい。自分に与えられる資格がないのだと、権利もないのだと知るのは尚つらい。努力をしてもどうにもならないものは確かに存在していて、は十分に知っていた。それほどには長く生きている。審神者になってからというもの、何れ程時間が経ったのかはよくわからないし、自分には何の変化も感じていないが、年を取っている、ただそれだけは事実だ。

 だから、宗三左文字に出会ってしまったことは望外の喜びであり苦悩であった。自分にそんな相手が存在し得るというのは想像だにしていない。物語にでも描かれていそうな設定で笑ってしまう。否、自分のようなくたびれた男が相手の話など、お伽噺にすらなりはしない。それでも図々しくすればどうにかなるのではないかと阿呆のようなことを試みて、つれない宗三をどうにかこうにか納めていた。この男が、単に自分を主というだけで従っていることは容易に知れる。行為に心がないのだ。心地は良いものの、は毎度一層空しくなってしまう。は?はと言えば、宗三のことを恋い慕っていると言って良い。本能の全てが彼を求めたように、理性も彼にすっかりとなじんでしまった。黙っていれば風雅この上ないというのに、実は雄々しいところであるとか、辛いものをこよなく愛するであるとか、面倒くさがりながらも自分に構ってくれるであるとか、実に些細なこと全てが愛情の向く先だった。返って来ることのない波をずうっと立てている、疲れた所で誰も責めはしない、そういうものだろう。

 あと一回、あと一回だけ、と自分に言い聞かせて誘いかけたが、もう駄目だと両手を上げた。積極的に嫌われてはいないが、無関心というものもまたひどく堪える。身体が言うことをきかないことが呪わしく、なんとか叱咤して歩いたのは昼下がり、そろそろ店が開く筈だと買い物に出かけたのだ。もう随分とご無沙汰の買い物で、自分はうまく取り繕えるだろうかとは思案して笑った。買い物はもっと気楽にすませる方が良いだろう。サービスを提供され、それに対価を支払う、ただそれだけだ。幸い馴染みの客引きに出会え、は懐かしい顔に挨拶するまでに至った。

「いやあ、もう来てくださらないんじゃないかと心配してましてね。新しい子も入ったんですよ。折角だから、指名してやってください」
「ふふ。ちゃあんと私好みかしら?嘘は駄目よ」
「貴方の好みな訳ないでしょう」

軽口をぴしゃりと閉じられて、は目を丸くした。こんな風に自分を叩き付ける相手を、は他に知らない。宗三の桃色の髪が揺れて、走って来たのか裾がすっかりはだけてしまっている。取り乱した様だというのに色香は絶えず、客引きの男がほうと溜め息をついた。自慢したいような気持ちと悲しさが入り交じり、はどうして来たのか、と感情を殺した声で尋ねた。

「貴方がこんな匂いをさせながら外に出たから、粗相をしないように追いかけただけです。主の世話をすることも役目ですからね」
「良い部下じゃないですか。こりゃさんが来ない訳だ」

軽口を叩く客引きは流石に手慣れており、鬼気迫る表情の宗三になんら物怖じせずに口笛を吹いてみせた。たったそれだけで、宗三の気持ちを逆なでした事が見て取れる。この男は実際、彼の兄と同じように生真面目なのだ。

「大丈夫よ、宗三君。ここまで来れば粗相も何もないわ。ちゃあんと家に帰るから、安心して戻って頂戴」
「好みの男もいないのに、満足なんてできるんですか。できなかったらどうなるのか、よく知っているでしょう」

図星だった。好みの男性がいるかいないかで言えば、いる可能性が高い。とは言え、宗三に敵う程の男が居るだろうか?居る筈はない。今だってふらふらと近寄りたくなってしまう程なのだ。ただ、それは許されていないし、公の場で身もふたもなく相手を求めるような真似もできない。求めて得られれば別だが、得られないことは実証済みだ。返す言葉を思いつけず、は黙って店に入ろうとしーーぐるりと視界が回転した。

「帰りますよ」

傍近くに宗三の顔があることから、器用にも抱きかかえられたことが解った。彼の方から近づいた事は数える程しかない。それこそ無関心というものだ。咄嗟の出来事に対処しきれず、全身が燃え上がるように熱くなる。思考がどんよりと、否とろりと溶け出すようでまともに思いつく事も出来ない。無意識に宗三の胸に顔を擦り寄せると、ふ、と鼻で笑われた。

「まだお買い物が終わってないの。降ろして頂戴」
「帰るんです」

断固とした物言いで客引きを睨め付けると、宗三は実に軽やかな足取りで街中を駆け抜けた。戦場での彼を見た事もあるのだが、これ程に早かっただろうか。遅まきながら、矢張りつけていたのか長谷部が追いつこうとかけてくる。あの長谷部が追いつけない様子からすれば、どうやら火事場の馬鹿力のようなものが発揮されているらしかった。ああいった店に、自分の主が通っているという事実が余程許せないのか、額に青筋を立てている。ただでさえお預けをくらっている身の上だというのに、当面許されることもないに違いない。散々な日だ、とは溜め息をついた。何を希望に生きれば良いというのだろう。二人の縁を神にでも願って切ってもらえれば済むのか、真面目に検討するより他なかった。




 道中一切口をきかず、本丸に帰った後は真っすぐにを連れて自室へと引きこもった。可哀想なのは長谷部で、主を余り虐めないでくれ、と懇願するような叫び声を上げている。宗三の知った事ではない。腕の中ですっかりぐずぐずに蕩けてしまったは、ここが本丸であるのかも解っていないようだった。恐らくはここが道ばたであるとしても抵抗なく受け入れただろう。縁とは恐ろしいものなのだ。流石に宗三はそこまで引きずられている訳ではないものの、今直にでも欲を発散したいという思い出一杯で余裕がない。とは言えここでなし崩し的に行ってしまえば、当然ながら単に欲に流されただけだと捉えられかねない。否、事実そうなのだが、宗三は今後を見据え、この欲を確りと引き止めておく必要があった。

「ほら、しゃんとしてください。起き上がれないならそのまま寝てても良いんですよ」
「ケチ」
「あんまり人をケチケチ言わないでくれませんか。貴方が欲深いだけでしょう。良い迷惑です」
「そうよね」

常ならば駄々をこねるというのに、今日は本当に勝手が違うらしい。熱に浮かされたように懸命にベッドに向かって這って行く主を見て、宗三は情けなさと同時にひどく哀れみの情を抱いた。言い過ぎたとは思う。他の男士から聞いている限り、は人並みに欲があったとは言え欲深いと言われる程ではなかった。自分と同じく運が悪かっただけで、扱いきれないものに悩んでいることも同じである。不意に優しい気持ちがこみ上げ、宗三はベッドに乗り上げることに失敗した主を支えて寝かせてやった。ありがとう、という台詞は到底受け入れられるものではない。

「別に、ここで怪我をされでもしたら困りますからね。それだけですよ」
「……貴方には迷惑しかかけてないわね」
「いいえ」
「近づかないで」

はっきりとした拒絶の声を宗三は鼻で笑った。馬鹿な人だとつくづく思う。こんなにも自分を求めているくせに、得られないと悲しんでいる姿は正直な所愛しい。そう、初めて宗三はに対して慈しみというか、愛しさを覚えた。いやだと泣きそうになっているの上に伸し掛かり、柔らかく口付ける。なんという甘露か!甘い匂いは一層宗三を誘い、貪ってくれないのかと誘いかけていた。腕力では負けると知っているためか、はいつもであれば素直に宗三を絡めとりにかかる手でシーツをきつく握る程度の抵抗を見せてくる。羽虫がもがくような無意味で、其の癖実に苛立たしい素振りだった。

 鼻で笑ってやると、宗三は丁寧にの服を脱がせにかかった。洋装は手間が多くて面倒だ。紐を解けば脱げるような、そんな簡単な服を着るようになってくれないだろうか、という不穏な考えが頭をよぎる。いっそのこと裸の方が楽なのだが、一応は人目に触れるものだから、まともな格好をするにこしたことはない。先日乱藤四郎が騒いでいた、ワンピースドレスというものならば脱ぎ着はしやすい。には今の男性のような装いの方が似合うという事実に目を瞑ると、宗三は次回の買い物リストにメモをしておいた。はだけた場所から順々に痕をつけていけば、ふにゃふにゃとシーツを掴む指先から力が抜けて行く事がわかる。

「貴方がそうやって、僕の思いのままになるのは好きですよ」
「ん」

他の誰でもこれはできない。ただ宗三にだけ許された権利なのだ。宗三が育てて来たためか、ほんの僅かに膨らんだの胸を柔らかく揉み、寄せるようにして摘む。ちらと顔を上げると、物欲しげな双眸にぶつかって宗三は唇を舐めた。良い傾向だ。胸を弄りながら、今度はより深い口付けを重ねる。これという抵抗はなく、寧ろ欲に負けたようにの腕が宗三の背に回った。

「気持ち良いですか?」
「きもち、いい、いいよぉ」
「良かった。僕も気持ち良いですよ」
「ほんと?」
「本当です」

幼い物言いに愛しさを覚えると、宗三は自分の台詞に驚きながらもごりりと下腹をのそれにぶつけた。硬くなった剛直を感じたのだろう、が真っ赤になりながらも目を輝かせる。この輝きは自分にだけ向けられている、だからこそ許せるのだ。満足しきれないのだとしても他人に許すなど、言語道断である。それに、同じ事を宗三が他人にするというのも論外だった。何しろ面倒だし、ここまで心地良いかは想像もできない。面倒事は嫌いだ、だからーーみとめたくはなかったが、確かには自分にとって”丁度いい”のだろう。

 互いに急くようにして残りの服も脱がし合い、宗三は初めて直接の下腹部に触れた。すっかりよく濡れている上に、滑らせてみた先の孔は実に物欲しそうな様子を見せている。指の腹で甚振ってやると、宗三はだらだらと唇の端から涎を垂らすに薄く笑った。到底見れるような代物ではない。だが、宗三にはたまらない愉悦を齎すのだ。指先を離すと、ああ、ともうう、とも言えない溜め息が聞こえる。宥めるように口付けると、宗三は剥き出しになったの左肩の辺、丁度自分の入れ墨がある辺を撫でた。

「貴方が他所に行かないように、ここに僕のものだという刻印を刻みましょう。天下人の刀であった僕のものと解れば、おいそれと手を出す輩もでないでしょうからね」
「はは、そんなひとなんか、いないわ」

買い物をするならば別だけれども、と妙に理性を孕んだ声音ではさえずった。相変わらず、余計なところばかり気が回っている。こんなにも自明なことに気づかないとは、と宗三は自身を棚に上げて舌打ちした。

「僕が、そうしたいんです。僕は貴方が欲しい」
「え」
「……そんな風に執着するのが、嫌だったんですけどね。欲しいんだから仕方がないでしょう」

執着をすれば、失った時の喪失感は拭い去りようがない。同時に、この生き物に執着したということは宗三のこれまで築き上げて来た挟持を踏みにじるような行いだった。だが、引き止めることを躊躇すれば、行き場のない怒りと焦りばかりが産まれてしまう。いっそこの生き物を全て納めてどこからも見えないように隔離してしまう方が余程効率的だった。

「貴方だって、僕が欲しいでしょう」
「欲しいわ」

二重の意味も込めて、今や歓喜に満ちた瞳でが宗三の背に両脚を絡ませた。こんなにも淫蕩な様を見せるくせに、自分が来るまでは貞淑であったなどとは信じられない。お買い物、ではさぞや乱れたのだろうと想像を巡らせ、宗三は顔をひどくしかめた。もどかしい声をあげるを制しながら孔を広げて、穿つ。この身体の中に何れ程注ぎ込んでも注ぎ足りないと思っていることを、は気づいているだろうか?恐らくはその反対で、いくら注がれても足りないと考えていそうだった。

「貴方の我が儘を聞けるのは僕だけですよ。解りましたね」
「ありがとう」

だから、自分の我が儘を聞くのはの義務なのだ。子供のような台詞は飲み込むと、宗三は今度こそ欲望のままに動いた。




 皮膚が引きつれるようで随分と痛い。怪我をしにくくなった身体に無理矢理つけた傷を見遣ると、は半ば喜びの混じった溜め息をついた。随分と揉めたのだが、結局宗三が押し切る形で、の肩に彼の紋様を入れ墨として入れることにしたのだ。正確には入れ墨では駄目であるとかで、何やら小難しいことを色々と施されている。解っているのは、慣れるまでもとに戻ろうとする力とのせめぎ合いから痛みを感じるということだった。

 ではあれから二人の肉体的な関係はどうなったのか、というと、些か穏やかにはなったように思う。前程に宗三に戯れて強請るようなことはないし、数日程度の遠征ならば我慢できるようにもなった。ただ、反面宗三の方は前向きになったらしく、廊下を歩いている際に引き込まれたり、遠征から帰るなりに攫われる等の強引な所業が見られる。当初は長谷部が散々に詰り、責め、風紀を乱すと宗三を矯正しようとしていたが、今ではすっかり諦めてしまっていた。何しろ抑制してしまうと、その分だけに全て跳ね返ってしまうのである。いくら身体が丈夫で霊力が高まるだのなんだのと言っても、疲れるものは疲れてしまうし、一歩も動けずとろんとした主の様は卑猥で宜しくないのだ、と長谷部は顔を真っ赤に染めて悲しんでいた。

「俺の力が至らないばかりに主に負担をかけるようになってしまい、申し訳ございません」
「ううん、長谷部君が悪いんじゃないのよ。元々私がその……だらしないものだから。悪いものを見せてしまってごめんなさいね」
「俺が相手であれば、もう少しは」

加減をできる筈だ、という台詞は鼻先にひたりと当てられた切っ先とともに止まった。いつの間にか宗三が来ていたらしい。が片手を上げて止すように示すと、剣呑な表情を浮かべたものの、刀を納めての横に座った。当たり前のように腰に手が回って来るのは、甘えというよりは長谷部に対する当てつけだろう。現に、長谷部が憤死しそうな程に怒りをためていることがわかる。実に哀れな忠義だった。

 確かに、この男はこの男で楽しかったろうな、とも思わなくはない。何より宗三はひねくれ者で直に拗ねてしまうものだから、何かと手を焼くのだ。最も、そのお陰で楽しめてはいるものの、とよそ事を考え始めると同時に肩がひどく痛んで悲鳴が上がる。肩に入れられた紋様が焼けるように熱い。

「よからぬことを考えると、お仕置きしますよ」
「焼き餅焼きね。どんなお仕置きかしら」
「主!」

長谷部が悲痛な声を上げる。こんな馬鹿なことをするようになる等、は一度も考えた事がなかった。今となってはこの馬鹿なやり取り全てが愛しく、心を奥底まで満たしてくれている。宗三が服の上から紋様を撫で、たまらなく甘い香りが漂う。もう、とっくのとうに狂っているのだ。今更何を心配しよう。

「宗三君、今良い?」
「仕方ないですね」

騒いだ方が吉なのだ。


〆.

あとがき>>
 久々にものを書かなければと叱咤しながら書いていたらコメディ系エロです。ビッチ受というのも自分は結構好きなのかもしれない……あと宗三は何かとツンツンしていたら却って愛らしくなりそうだと思いながら書きました。一周回って審神者の掌の上で転がされていそうな、そんな関係性も好きです。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!