この一瞬こそ永遠に!
目覚め前
死ぬほど嬉しい、と誰かが言っていた。死ぬほど?死にたいってこと?と聞いたら、そうではなくてとても、とてもじゃ言い表せないくらいってことだよ、だそうだ。結局私にはわからなかったし、多分これからもないとすっかり忘れてしまっていた。オロニル族で延々と末弟として甘んじて生きるより他にない、エスゲンというおじさんには平穏無事な日々こそが全てで丁度良い。浮き立つような心はつい未来を期待させてしまうし、決して手に入らないという現実を突きつけられて叩き落されることが落ちだ。死に物狂いで手に入れようという気概は燃立つ前に自ら水を差して鎮めた。燻っていなかったと嘘はつけないが、自分を誤魔化す術はすっかり染み付いてしまっている。
だから私にとって喜びは、例えて言うならば小さな花を見つけた時のような細やかなものだろう。少しでも悲しむことがないように、吹き付ける風を笑っていなしている。慣れれば少しも辛くない。辛くないとも。辛いと思ってしまったら、もう戻れなくなってしまう。叩き落されてもなお立ち上がるにはこの体はあまりにも脆く、この心はあまりにも頼りない。もし一人でなければーーそんな可能性は考えすらしなかったのだ。
「エスゲンさんと、ずっと一緒にいたいな。エスゲンさんのこれからを、俺に全部くれる?」
ポツンと静かな暗闇に佇んでいた私に、いきなり与えられた陽の光は余りにも眩しい。返事をしない私を、その光の源であるマウシ君がおろおろと見つめてくる。ああ、言ってしまって良いだろうか?こんなにも嬉しいという気持ちになれた私は別の望みを持ってしまったと。変わらないままの世界で十分だった、だからこそ私は願うことがあるのだと言ったら、君はどれほど驚くだろうか。
嬉しい。だから、この気持ちが変わることのないように今この瞬間死んでしまいたい。
私は今、死ぬほど嬉しい。
私のため息のような掠れ声の先に、うっとりするほどの未来が横たわったかはただマウシ君だけが知っている。
〆.