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インタールード


「四個。まあ、及第点ですかねえ」
「……一個だ。くそっ」
「おやまあ可哀想に。六個」
「我の勝ちだな。今日は二人で十六個だ」
「そこは半分にするべきではないかな?あ、そうなると三で割るのか、君たちの場合。僕はお休みしていたから今日の勝負には無関係だよ。実に残念だねえ」

ハンターたちの夜毎のお楽しみは、その日に手に入れた可愛い可愛いサバイバーたちのボタンの数を幾つ手に入れたのかを競うことだ。毎日手を替え品を替え、健気に逃げようとするサバイバーたちに時に出し抜かれ時に征服し尽くす喜びもあるのだが、マンネリ化は避けがたい。

 そんなわけで何日かに一回、こうしてじゃらじゃらとボタンをテーブルに転がして遊ぶのだ。プチプチと意外にも器用な手さばきでボタンを外して握りしめているのはリッパー、弁護士に翻弄されて片目を抉るのに精一杯のレオ、優雅に笑っているのは美智子で、得意顔なのはハスターだ。ハスターのどの辺りが得意顔なのかと問われると少々困るのだが、雰囲気で判断するより他にない。今日は外野気分で楽しむジョゼフに、ハスターと組んでいた白無常は肩をすくめてバルクに返事をするよう促した。どうもこの飲んだくれはテンポが遅い。肉体年齢のせいなのかもしれない。

「わしか?わからん。ヴィオレッタ嬢ちゃんに任せたからの。わしは興味がない」
「六個だよおじいちゃん!今日の子達はみんな足が早かったからね」

天井に吊り下がっていたヴィオレッタが歌うようにロープを垂らしてブラブラと揺れる。手からこぼれるのは色とりどりのボタンだ。こぼれた先のベインが黙って頭から払いおとす。彼もジョゼフ同様に休みだったはずだ。

 さてもさても、嗚呼可哀想なサバイバーたち!彼らは荘園に戻された後に懸命に縫い付けるのだろうーーそうでなければ何食わぬ顔で何度もゲームに参加するとは思われない。

サバイバーと交流を図ったことはないが、白無常にしてみれば自分たちハンターよりもサバイバーたちの方がよほど不気味だ。ゲームのルール上、首級の代わりにこうしてボタンをむしり取るくらいしかしていないのだが、あれは人間なのか?白無常の目には人形芝居の登場人物たちにしか見えなかった。この荘園が主人の開催する劇場ではないかとジョーカーが話していたが、そんなものかもしれない。全ては茶番だ。特に問題はない。

「しかし、こんなに集めてあの人は何をしたいのでしょうかね。私なら、素敵な部分だけ集めて最高のお人形さんを作りだすところですが」
「なにかの物語にしてはまだ話の筋が見えないものね」

かつて様々な人間を(いいえ選んでいます!選り抜きの美女たちですとも!とリッパーは抗議していた)解体したリッパーらしい、悪趣味な発言だ。黒無常なら舌打ちくらいしたろう。彼は白無常以外にこだわらないとはいえ、道徳観念は白無常よりも持ち合わせている。そういうことになっているのだ。

 ジョゼフはもし君が完璧な人形を作ったのならば永遠に残せるように撮影してあげるよ、と組んだ脚を揺らしている。永遠。もし、自分の姿を撮影してもらって、黒無常と交代すれば二人は出会えるのではないかと思いたち、白無常はゆるりと首を振った。手品のタネを暴いてはいけない。大切なものとは暴かれないからこそ神の御手に委ねられている。

 リッパーと美智子が暇に飽かせて色分けしたボタンでチェッカーが出来ないか試行錯誤し始める。荘園の主人からの連絡は今日もない。窓の向こうでは激しい雨が降っていて、バルクがヴィオレッタに急かされて雨漏りの修理に重い腰を上げた。実に傘の似合う日だ。ゆらりと椅子から立ち上がると、白無常は吸い付くような傘の柄を握りしめた。

「散歩に行ってくる」
「いってらっしゃい」

声をかけたのは誰だろうか、何か余計なことも言われた気がしたが白無常は無視をした。ばさりと大きな黒傘を開くと、風でビュルビュルと端がめくれかけるのをそっと指先で押さえる。

「大丈夫だ。君はここにいる。だから私もいる」

肌の色が変わり、合わせるようにして服の色までも変わっていく。意識が切り替わり、世界の全ては入れ替わった。白無常は消え失せ、世に黒無常だけが顕現する。

「ずっと一緒だとも」

降りしきる雨は二人を分けたものの再来だ。もはや二人は雨が降ろうと槍が降ろうと引き離されることはない。大きな傘の下二人、紛れもなく存在している。そういうことになっているのだ。この荘園の舞台の幕が開けるまで、おとぎ話は続いて行く。偽物の雨が去り、月夜の向こうには海まで見えようともそれが本物かは意味をなさない。

 大きな木の前にたどり着くと、黒無常はポケットから取り出したボタンをじゃらじゃらと大きなウロに入れた。少しでもこの茶番を引き延ばすために出来ることといったらこれくらいだったのである。荘園の主人が何を考えているかは謎だ、だが自分は最大限に利用するまでだ。自分たちは。

リッパーの歌が聞こえる。幕間にはお誂え向けの余興だった。

〆.