私は君に食べられたかった/7.SWEET
口が閉じる。用意した料理を全て平らげたナワーブ・サベダーを、クリーチャー・ピアソンは感嘆の面持ちで眺めた。一番遅い時間帯のゲームが長引き、なんとかたった一人ハッチから這いずって逃げてきたというナワーブはぼろぼろの状態だった。そのくせ開口一等クリーチャーにせがんだのが、治療でも休息でもなしに食事なのだからたくましい。
とっくのとうに夕食の時間は過ぎていて、残されたものをそのまま与えるのはいささか不憫だった。結局、支度をしている間に治療を受けるようナワーブに命じ、その間クリーチャーが夜食を作るに至ったのである。
余ったバターフィッシュをほぐし、ポトフに残された野菜たちを救出して刻む。やや硬くなったパンをスライスしてオーブン用の鍋の底に敷き、バターフィッシュと野菜を丹念に混ぜ合わせてパンに降り注ぐ。まんべんなく伸ばしたらチーズの塊を刻んで載せ、もう一度パン、そしてチーズの順に積んでいく。あとはオーブンに任せておけば、栄養豊富で手軽なキャセロールの出来上がりだ。
缶入りのスープを使ったやり方をいつぞやカヴィン・アユソが教えてくれた料理で、いくつか工夫をこらしてクリーチャーなりの形というものになじませていった逸品である。ナワーブの好みの味であり、量も満足するものだというのはもちろんのことだ。
「いただきます!」
「ゆっくり食べてくれ」
ちら、と何かを期待するようにこちらを見やるナワーブに苦笑すると、クリーチャーは見ているからと正面の椅子に腰掛けた。仕上がりを見るのは作り手の特権と言って良いだろう。作っている最中から既に想像上のナワーブが料理を口にし、喜ぶ様子で頭はいっぱいだった。歓喜で目をキラキラと輝かせたナワーブの頬はまだ汚れが残っていて、後ほど風呂で洗ってやろうとクリーチャーはそれすらワクワクする。こうして実際に愛されて、愛してみて、会得すれば驚くほどに簡単であることにクリーチャーは意外な思いだった。同時に、相手がナワーブだからだともよくよく承知している。多分、他の誰かに愛されてもこんな風には感じない。こんな風には愛せない。
さんさんと降り注ぐ愛に対し、今もクリーチャーの答えはぎこちない。食べたり食べられたりする方がよほど簡単だ。ただし、食べることには終わりがある。
終わりは――可能であるならば永劫遠ざかって欲しいものだった。
小さな会話を挟みながら、ナワーブの口の中にどんどんとキャセロールが取り込まれていく。あの口の味はよく知っている。ぞくぞくとしながらクリーチャーはやっぱり食べられたい、と心の中で呟いた。皿が空になったのを見届けて、クリーチャーはゆっくりとくちびるを開く。
「デザートはどうだい?」
「食べたいな」
ナワーブの目がまっすぐにこちらを向いた。味が濃いものを食べた後だ、デザートにさっぱりとした林檎はどうだろう。あるいは酒を添えてドライフルーツをかじるだとか。けれども今のクリーチャーは何よりも美味しいねと言って欲しかった。喉が鳴り、続きゆく晩餐を知らせる。
「それじゃあ、食べてくれ」
失われることのない許容を、歓喜を、肯定と幸福と満足の全てを盛り付けた食卓が始まる。
吸い寄せられるように手と手を絡めて、クリーチャーはひそりとデザートの内容を告げた。
〆.
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