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暇日愉快


『外を見てください』

たった一言書かれたカードを見て、黒無常は首を傾げた。白無常から切り替わった途端に目の前に置かれていたのだから、白無常が置いたのだろうが意図は不明だ。確か今日は、荘園の主人主催のハンターとサバイバー総出で楽しむクリスマスパーティーが開かれた記憶がある。ならばそれに関連するものだろうか。

 パーティーの前の喧騒を思い出し、黒無常は顎を長く細い指でかいた。バルクが仕掛け小屋を作り、ヴィオレッタが重量過多で落ちてしまって悲鳴を上げたような気がする。続いて、ジョーカーがレオとサンタクロース役を取り合い、最終的にはツリーの頂点にある星をつける役をレオに譲ることでその座を射止めていたことを思い出した。誰もかれもがどこか浮かれているが、一人として天主教に興味がないのだから笑ってしまう。

 黒無常と白無常がまだ范無咎と謝必安と呼ばれていた頃、冬場は春節まで祝い事はなく、無事に年を越せるようにと長い冬の支度で大わらわだった。年が越せば団欒と繁栄を願って丸いものや餃子などを食べたものである。団子状にした餃子の皮を綿棒で伸ばして、くるくると薄い皮を生み出し、手の中で一人前の餃子に作り上げる作業は范無咎も好きだった。

謝必安の母親は夏に作った玫瑰の餡を使ってぱりぱりの酥餅を作ってくれたものである。皮が裂けると、中に詰まった夏が一気に弾けて、その熱が持つ幻想に胸がいっぱいになった。締めくくりはいつでも湯圓で、丸々とした餅の中にごま餡を詰めて桂花蜜に浸しこんだ天壇の味わいである。荘園の主人に頼めば材料くらいはくれるかもしれない。

 さておき、目の前のカードである。想い出から戻ると、黒無常は白無常の見た目に反して力強い字にもう一度首を傾げた。白無常と黒無常は二人で一つ、一つにして二人なので交わるということが決してない。故に二人はやり取りを文章で綴ることとなる。荘園の主人は日記を書くことを条件としていたから、二人はさながら交換日記のごとく交互に書いていた。時には、相手の書いたものに書き込みをすることもある。赤字と黒字で書かれた日記は鮮やかで賑やかだ。

舌がもつれるほどに語ることができない代わりに、二人は指がしびれるほどの文字を書き出す。こんなふうに一言で終わらせてしまうとは珍しい。ようやく重い腰をあげると、黒無常は部屋の窓から外を見やった。巨大なクリスマスツリーに金銀のモール、赤青のリボンにキラキラと光る飾りが釣られて賑やかだ。風で揺れるたびに、うるさいほどの鈴の音が響きわたる。樹の根元に目をやって、黒無常は目を細めた。

「味な真似をする」

雪だるまが二つ。一つは泥炭で黒く染められたもの。もう一つは真っ白なままで、二つの雪だるまは仲良くこうもり傘の下に並んでいた。雪は静かにその上に積もって行く。黒無常は先程置かれていたメッセージカードを裏返すと、手近なペンで一言書いて微笑んだ。今日くらいは日記を休んでもいいだろう。

「また一年が来るぞ、謝必安」

二人はずっと一つだ。


〆.