行楽日和
ルナパークを作りたい。荘園の主人からの依頼がバルクの元に舞い込んだのは、荘園に復帰してすぐのことだった。正確には以前作りかけのまま放置したものを完成させて欲しいという依頼である。バルクは遊具を、飾りつけはジャックとジョゼフが手伝い、安全性はヴィオレッタと美智子で確認するらしい。他のハンターにはすこし別の役割を頼む予定だ。図面はとうにできている。
記憶を遡りながらルナパークに辿り着くと、いかにも祭りが開かれそうなテント小屋とジェットコースターが待ち伏せていた。それと、壊れて動かないまま放置されたカルーセルが遊ぶ者のいない玩具の寂しさを訴えている。もう一つ作って、一つだけ動くするようにしてほしいというのは荘園の主人からの数少ない指示の一つだった。どこか不気味な雰囲気を作ることでゲームに適度な緊張感をもたらすとでも考えているのだろう。バルクにはこの手の美意識はないのでただ引き受けるのみだった。
「ここは君が作ったんだってね。なかなか趣味がいい」
「……子供の頃に遊んだ場所が懐かしくてな」
ジェットコースターの調子を確認していると、見世物小屋の飾りつけを終えたジョゼフが興味深そうな目で手元を覗いてきた。顔に斜めがけで東洋風の仮面をかぶっている。柔和なようで不気味な仮面は何かと尋ねれば、美智子のお国元で作られるものとのことだった。見た目の不気味さに反して、なんと縁起物であるらしい。
「楽しいのに怖いだなんてうってつけだからね」
ジョゼフのようにか、と軽口を叩きかけてバルクは音を発せずやめた。今はこの祭り気分を続けたい。問題なく作動することを確認すると、バルクは立ち上がってうやうやしく頭を下げた。
「ならば、テストに付き合ってもらおう。こいつは楽しいぞ」
「……危なくないだろうね」
「何してるんです?」
ジョゼフの疑心暗鬼といった様子を遮るようにして細長いシルエットが音も立てずに現れる。後から来るようにと伝えてあった白黒無常だ。ちょうどいいとばかりに近くに呼ぶと、バルクは問答無用にジョゼフを一番前の席に乗せ、白黒無常をその後ろに乗せた。他の面々はまだ来ていないらしいが、二人もいれば十分だろう。空を飛んで高さを確認していた美智子に手を振って観察を頼むと、バルクは安全バーを確かめながらガッチリとジョゼフにはめてやった。飛び出してしまっては危険極まりない。
「おい!聞いているのかバルク!まさか君はまた」
「冥土の土産はいらんぞ、ジョゼフ。白黒無常から前にもらったからな」
「お気に召したようで何よりです。また今度お持ちしますね」
「バルク!」
「楽しむといい」
同時に恐怖も。白黒無常が親指を立てるのに手を振り返し、バルクは容赦なくリモコン操作でジェットコースターを発進させた。ガタガタという初動の鈍さが嘘のように早くなり、ぐるりと一回転、ついで二回転を決める。ジョゼフのセリフが長くたなびき、頭にかぶっていた仮面が風圧で飛んでいった。美智子がぶつかりそうになるところをすんでで扇で払いのけ、縁起物は悲しくも地面に落ちて行く。ジェットコースターはまだまだ止まらない。回転は一つにし、途中駅を作った方が遊びがあって良さそうだ。終着点近くに仮置きした暗号機に瞬間移動すると、バルクはどの程度の時間がかかったのかをメモした。
「乗り心地はどうだ?遠くからは楽しそうに見えたぞ」
「なかなか……冥土に近くて……その、良かったです」
「ジョゼフの感想も聞かせてもらおうかの」
どこか楽しそうな白黒無常とは反対に、安全バーを外してもぐったりとしたジョゼフは顔がボロボロにひび割れて青息吐息だった。スピードは更に緩める必要あり、とメモをすると、バルクは次回もまたよろしく頼むと頭を下げてジェットコースターを後にした。
次は垂直型のジェットコースターも良いかもしれない。遊ぶ者のいないルナパークが、悲鳴と歓喜でいっぱいになる有様を想像し、バルクは長々とため息をついた。あの日はとても楽しかった。きっと誰もが楽しむだろう。
〆.