どう飲んだって、きっと美味しい
コーヒーをどうぞ
夕方、食後のお茶を楽しむ時間になると一つの儀式がある。ナワーブ・サベダーかクリーチャー・ピアソンのどちらかが相手にコーヒーはいるかと聞くのだ。ミルクと砂糖はいくつ、と。当たり障りのない日常風景なのだが、二人にとってはとてつもなく大きな意味がある。少なくとも、クリーチャーにとっては。今日も夕食が終わり、自分のためにコーヒーを用意しがてら、クリーチャーは満腹で気持ちが悪くなりそうとゲラゲラ笑うウィリアム・エリスとナワーブに声をかけた。
「ウィリアム君、ナワーブ君。食後のコーヒーはどうだい?」
「ありがと、ピアソンさん。うーん、俺はこのまま寝るからよしとくわ」
「俺はもらおうかな」
「そうか。ナワーブ君、砂糖とミルクも持ってこようか」
ちら、とこちらを見るナワーブの目に何がよぎるのかをクリーチャーは知らない。コーヒーよりも濃い色の瞳に吸い込まれてしまいそうになるのを耐えるので必死なのだ。向こうはそんなことなど少しも思っていないだろう。
「今日はミルクの気分……いや、何も入れないで良いよ。ありがとう、ピアソンさん」
「わかった」
その返答で、どれほどクリーチャーが落胆するかも、きっと彼は知らない。タネを明かせば、クリーチャーとナワーブはちょっとしたお遊びの肉体関係を持っていて、夕食後のやり取りはお誘いのための符丁なのだった。ミルクは添い寝、砂糖はセックスまで。ストレートということは、誰もそばにいらないということでお断りのしるしである。厨房に入り、用意していたコーヒーをマグカップに注ぐ。燻るような香りはどこかクリーチャーの気持ちに似ていた。遊びは遊びなので、それ以上は踏み込まない。ナワーブも同じだ。だが、クリーチャーはこのところ少し考えているーー踏み込まないのではなく、結局踏み込めないだけではないのか、と。
「おやすみ、二人とも。ウィリアムは明日ゲームが一緒だったな。よろしく頼むよ」
「任せとけって」
「……おやすみ、ピアソンさん」
マグカップを受け取るナワーブが何を考えているかは不明だが、口元に浮かんだ笑みはクリーチャーの心を和らげた。自室に戻り、窓を開けて夜風に当たる。だんだんと生ぬるくなってきた風は季節が夏へ向かおうとしていることを示していた。多分、自分には荘園での二度目の夏だが、もしかしたらもっと経っているかもしれない。この荘園には人の時間を狂わせるものがある。ナワーブと出会ってからどれほどの時間が経っているのかも、もう思い出せなかった。
二人の関係が始まったのも、こんな微妙な陽気の頃だった。半端に口を開けたブランデーとラム酒の両方を片付けようと決めたクリーチャーが、コーヒーを使ったカクテルをフレディ・ライリーに教えてもらって作ってみたところ、出来上がりがあまりにも多く、ある程度配り終えても尚余ってしまって途方にくれていた。仕方なしに寝酒には向かないが飲もうと思った時に声をかけてきたのがナワーブである。彼はすでに出来上がっていた。少し風に当たって楽しもうと中庭で小さなピクニックを開く。星空の下でコーヒーピクニックだなんておしゃれじゃないかと笑ったものだ。
最初はホイップクリームも混ぜて、カフェ・グロリアやカフェ・コーディアル、はたまたアイリッシュウイスキーの瓶も開いていたことを思い出して取りに行き、アイリッシュコーヒーとしけこんだ。だんだんとコーヒーよりはアルコールの方が多くなり、最後はラッパ飲みのような乱暴な飲み方で浴びるように体が茹だったことを覚えている。ラム酒がまだ残っているか確認しようとして、シャツに思い切りぶちまけてしまったクリーチャーに、ナワーブが勿体無いと言い始めたことも。
「どうせ脱ぐならさ、しよっか」
「理由がない」
何を、かは聞かなくてもわかっていた。多分クリーチャーもどこかおかしかったのだ。数時間に及ぶどんちゃん騒ぎで、クリーチャーはすっかりナワーブに心を許してしまったし、彼の触れ方は嫌いではなかった。だから、ナワーブがクリーチャーの手をとってちゅ、ちゅ、と手の甲に口付けた時も気持ち悪がらずに受け入れたのだろう。
「理由ならあるよ。俺はピアソンさんが好きだからね。ピアソンさんも俺のこと好き?」
「顔はな」
「ひどいなあ。ま、でもこれで了解ってことで」
乗り気な方が上になったことも自然の流れであるように思われて、クリーチャーはラム酒にコーヒーがぶちまけられるのも、クリームが覆い尽くしていくのも許した。酔っ払いの戯論は気分が良い。口の中はコーヒーと甘ったるい酒でいっぱいだ。ここが中庭で、もしかしたら誰かがくるかもしれないということも頭の中でチカチカと瞬いたけれども陶酔の海に溺れていく。ナワーブは噛みつき方がうまかった。海の中で自在に泳ぎ回るサメと同じで、少しでも油断したならば食いちぎられてしまう。
中庭のベンチとこんなにもお近づきになる日がくるとは思ってもいなかった。ナワーブの背中の向こうには満点の星空が広がっていて、随分豪華なことだと笑う余裕すらあったのだけれども、体の方は熱病にかかったように気だるい。
「いっつも思ってたけどさ」
「あ?」
「あんたの乳首、解読中見えてるんだよね」
「な、見るな、変態……ひぃぁっ」
「察してあげてるだけだよ」
がぶりとシャツの上から乳首に噛み付かれ、クリーチャーは身体中を電流が走ったかのような衝撃を覚えた。ナワーブはラム酒が染み込んでいたシャツを舐めて、吸って、美味しいと言いながら意図せずにいた領域を弄る。男と寝たことはあるが、そんな部分に興味を持たれたことはなかったし、クリーチャー自身役に立つものとも知らなかった。頭がおかしくなりそうなほどに気持ちがいい。びりびりとする感覚は左右をさまよい、開けてしまった扉の向こうへとクリーチャーを連れていく。ナワーブはどこでこんなやり方を知ったのだろう。あまりにも的確な愛撫に少々チリリとしたものを覚えたものの、じゅぱじゅぱと布が立てる水音の恥ずかしさから思考の全てが飛んで行った。
「きーもちよさそうな顔してさあ。なんか、嬉しいな」
「……おじさん相手に盛る君の気がわからん」
「好きだからね」
瞬間、ぶわりとクリーチャーの毛穴という毛穴が開いたように錯覚した。二度目の呪文は効果てきめんで、ナワーブがシャツを無理やりはいで直接手のひらで薄い胸をこねたり、乳首を弄り出した際にはひときわ甲高い声が飛び出た。この感覚をクリーチャーはよく知っている。若い頃、戯れのように暇を埋めるようにして仲間内で不埒な遊びに身を投じた時、かすかに感じた希望の光だ。遊びは遊びでなんの意味も持たなかったのだけれども、クリーチャーは自分が欲しいものを知っている。けして手に入らなかった、入ることのない遠くの灯台の光。ナワーブが眩しくて目を瞑ると、開けて欲しいと瞼に何度も口づけを落とされる。
ナワーブの唾液でぬるついた乳首の先端をきゅっと指でつままれ、クリーチャーはいよいよ自分の下半身が切なくなるのを感じた。アルコールで弛緩していることもあって、どうにも腹の奥底が物足りなさを訴えている。ちらりとナワーブの下半身に目をやれば、アルコールにも負けずに立派に固くなっているらしかった。一方的に喘ぐのも癪だ、という向こうっ気がクリーチャーの脳裏に持ち上がる。胸への刺激にびくびくしながら、クリーチャーはしなやかな腰を浮かせて自分のものとナワーブのものとを布越しにすり合わせた。
「ぁっ、わ、ちょ、ピアソンさん!」
「おっぱいが恋しい赤ちゃんか、お前は?こっちは宝の持ち腐れじゃないだろ」
「……言ったね」
す、と細められたナワーブの瞳に、クリーチャーは虎の尾を踏んだことを知った。だからと言って今更逃げるわけにもいかない。後に引けないのはこちらも同じなのだ。だって、こんなに頭が溶けている。ベルトを乱暴に外され、ズボンと下着を脱がされるのを身を浮かして手伝う。下着が脱がされた瞬間、ずるりと飛び出したクリーチャーの陰茎がにちゃりと音を立て、自分がどれほど興奮しているのかが明らかになったことにさえ興奮する。と、舌なめずりをしたナワーブの顔が近づき、クリーチャーは首を傾げた。真っ赤に茹で上がった青年からはコーヒーとアルコールの香りがする。酔いを固めたような目がまっすぐに自分を見つめていることに耐えきれず、目をそらそうとしたらば思いの外優しい口づけが唇に落とされた。
「え」
ナワーブが唇に口づけしたのはこれが初めてで、てっきり遊びではそこまでをしないのだと思っていたクリーチャーには青天の霹靂だった。ナワーブの眼差しは優しく、まるでクリーチャーを慈しむかのようにさえ見える。ぽかんと開いた口に再度食いつかれ、唾液を啜られる。一緒に飲んだコーヒーとアルコールが濃度を増していくだけの中で、確かめるようにナワーブの分厚い舌が歯列をなぞり、粘膜を震わせていった。そのくせ一つ一つがひどく優しいので、彼に愛される人間は幸せだろうと思う。ナワーブが口づけをしながら下半身を晒し、クリーチャーのものとまとめて擦り上げてくるものだから、頭の中がふわふわして固まらない。ただ、見ることのないその人のことをひどく羨ましいと思った。
「なわあぶ、」
「今日はこれだけで我慢するから」
次も許してよ、というナワーブのセリフでクリーチャーは我に返った。そうだ、これは遊びだ。楽しかったらまた遊ぼう。そういう話なのだ。ちらりと見たナワーブの陰茎は大きく、なるほどこれが入ったらば満足する以前に久々の身にはいささか不安になる。そもそもナワーブがサックを持っているのか怪しいところだ。次のお楽しみというのも悪くない。自分はずっとそうしてきた、向こうも同じであればいいだろう。
硬いマメのある手のひらや、重ね合わされたナワーブの熱の何もかもが気持ちいい。そうだ、コーヒーにしよう。クリーチャーはこの時に遊びの合図を思いつき、ニヤリと笑った。お誘いはコーヒーで、なんて自分達には似合わなくてふざけている。後ろめたいお遊びにはぴったりだ。
そうした満足感は全部、全部ただの魔法だった。セルヴェ・ル・ロイが演じる美しい欺瞞も、ウィラ・ナイエルがかき消す過去も、イソップ・カールが取り出すいつかの自分も、荘園を出れば解けていく。ねずみが御者になる話はなんだったろう?思考は初めて遊んだ日から窓辺に佇む現在に戻り、クリーチャーは深くため息をついた。全部出し切った後、シャワールームでもお楽しみをした翌日はなんとも気分が良かった。思い出すたびに準備しきった身体の奥がきゅんと切なくなる。物足りないのは体だけではない。ナワーブに行為の最中与えられる、好きだという呪文が欲しかった。
添い寝を提案したのはナワーブだった。何もしなくても、側で寝ているとよく眠れる、などと言っていたように思う。クリーチャーも全く同意だったから、注文にはミルクが追加された。だが、ここ数日はずっとお誘いもなければ、返答もストレートばかりである。この遊びは二人でなければ始まらない。ならば答えは明白で、クリーチャーがただ目をそらしたかったから見えなかっただけだ。遊びは終わる。だらだらと続ける遊びは楽しくない。よく知っていた。ただ、もう一度遊びたいという駄々っ子のような気持ちで今しばらくの間、シーソーに一人で座っていたかった、それだけの話だ。
ちくん、と胸に届いた痛みにナワーブ・サベダーは枕から顔を上げた。昨晩も苦悩するうちに寝こけてしまったらしい。全部夢だったらいいのにと手が震えている。クリーチャーが横にいないせいで戦場での悪夢ばかりが頭をよぎり、通信機器の音がまだ鳴り響いている気がしていた。カーテンを開ければまだ朝はようやく夜との縁を切ったばかりで、空は少しだけ未練がましく紫を帯びている。
十日ほど前まで、ナワーブの枕の隣には大概クリーチャーがいた。一種のただれた大人の遊びの結果で、ただただ幸せなふりをして苦いばかりの時間だった。どうして取り返さなかったのだろうと後悔し抜いて、結局ずるずると関係を続けた挙句にようやく振り切ったのが今である。寂しく、胸が張り裂けそうなほどに辛くて仕方がない。ナワーブはーーだって、ずっとクリーチャーのことが好きだったのだから。
コーヒーを入れる彼の手つきが好きだ。笑っているくせに目が笑っていないところも、本気で嬉しい時にはまごつくところも、懐いたならばすがりたいかのように手を開閉させるくせも、一つ一つを丁寧に覚えている。荘園の主人に報告せよと言われたならばただちに日記に観察記録をつけられるほどだ。好きだという気持ちが何倍にも膨れ上がって、中庭で馬鹿話に花を咲かせるうちに盛り上がってしまった時までは良かった。舌打ちをするほどの性急さだったが、クリーチャーはナワーブが仕掛けた行為を”遊び”と認識して面白がってくれたのである。違う、遊びじゃない、俺はあんたのことが本気で好きなんだと心が叫んでいても、ナワーブは遊びを否定することはできなかった。好きだとはかろうじて告げるも、クリーチャーがどう思っているかは知らない。
もし、これが遊びではないと知ったら彼はやめてしまうのではないかと思い始めたら、まぼろしのお遊戯をやめる緒をすっかり見失ってしまったのだ。なにせクリーチャーの体は長らく空白期間はあったらしかったが慣れている。彼の過去には関われなかったのだから、それをどうこう言うつもりはさらさらない。他の人間に比べられないことを願うばかりだ。だんだんと遊びにのめり込むようになったクリーチャーの手腕は見事なもので、口での奉仕はもちろん、足先を使った誘いかけまで上手だった。チェイス中の彼を見た時に、何度思い出したかわからない。あの細く、柔らかい足がナワーブの太ももを撫で上げ、焦らすようにしてから陰茎を甚振るのだ。一度メイド服を購入して着せた時は、スカートが広がる様と相まって実に絶景だったな、とため息が溢れ出る。あの時クリーチャーはナワーブが拝み倒したおかげで女性ものの下着を身につけてまでくれたのだ。誰かにバレたら確実に社会的死が待っている地獄のような絵図である。
「はー、もう無理」
あれやこれや過去をひっくり返していたら十日分の禁欲も相まって抑えが利かなくなってきた。率直に言えば、クリーチャーを抱きたい。それでも嘘をついたまま遊ぶのは苦しくて、なんとか仕切り直しをしたかった。まず、声をかけて、この関係が崩壊するのを見届けてから一歩先へと踏み出そう。思い切ったはずなのに、たった一杯のコーヒーの注文にさえも躊躇ったままでは何も変わらない。
「……なんで君がここにいるんだ」
「えーと」
だが夢のような戯れに溺れた体は正直で、悶々としていたナワーブは気づけばクリーチャーの部屋に潜り込んでいた。合鍵なら持っている。そこまで全て無意識に行った自分を、ナワーブは生まれて初めて恐ろしいと思った。ぽかんと口を開けたクリーチャーの頬にはなぜか涙の跡がついていて、ぐちゃぐちゃの寝起きの顔がたまらなく不細工で愛しい。気持ちのままに、ナワーブは肘当てをつけた時よりも素早くベッドに飛び込んで慕う相手を抱きしめた。中年男性の臭いのなんたるかはここでは不問にしよう。ナワーブにとっては妙に落ち着くので許容範囲なのだ。
「あんたが好きって、言いに来た」
「寝たいなら寝たいって言えよ」
「寝なくたっていいんだ」
吐き捨てるようなクリーチャーの顔はひどく歪んでいた。遊び慣れた男に踏み込むならば、今この時しかないと断言できる。本当かよ、とクリーチャーが硬くなったナワーブのものを布越しにすり合わせてくるのは非常に強力な誘惑だったが、遊びは終わったのだ。
「あんたが好きだから、俺は遊びにしたくない。あんたが俺を好きじゃないなら、好きって言ってくれるまでその……我慢する」
「待て。いつか私と寝る前提なのはおかしいんじゃないか?だいたい君が我慢できるとは信じられんね」
「信じてよ。今、俺がどれだけ我慢してるのか知ったらピアソンさん気絶しちゃうよ」
「……そのようだな」
「ぅっ」
は、と乾いた笑い声をあげてクリーチャーが直接掌でナワーブの太ももを撫でさする。この蛇が絡むような手をどこで覚えてきたのだろう。これから先は誰にするというのか?考えるだけで反吐が出そうだ。ぺろりと舌なめずりをしたクリーチャーが、大きく口を開けてナワーブの肩口に噛み付く。鈍い痛みまでが全て甘い。自分だってクリーチャーにしたいというのに、とんだ拷問だった。
「ピアソンさん、」
「返品しようとしても遅いからな」
好きだと言ってくれ、とクリーチャーが耳元で囁く。なんて可愛い人!クリーチャーの腰を掴み、ナワーブは真正面から彼の瞳を覗き込んだ。しっかりとこちらを見つめる瞳の熱は見間違えやしない。
「好きだよ、最初からずっとピアソンさんのことが好きだ」
「もっと」
「ピアソンさん、大好き。足りないならもっと言う、毎日だってどこでだって言うよ。ねえ、あんたは俺のこと、んむ」
「内緒」
意を決して放った問いかけは、クリーチャーの羽のような口づけにかき消された。ずるいなあと思うも、恥じらうクリーチャーの様子は素直に好ましく、ナワーブは黙って言葉の代わりに口づけで返す。指先を絡めあって、クリーチャーに誘われるままにベッドに彼を押し倒した時にはもう天にも昇るような心地だった。クリーチャーのガウンパジャマの裾が翻って現れた脚のすね毛までもが祝福されたように見える。お許しを得てガウンの下に手を潜らせ、久方ぶりの肌を探検するナワーブは、いつまでたっても悠々と進む様にはたと動きを止めた。
「なんで下着履いてないの」
「んー?どっかの誰かさんが来ないもんだから寂しくてなあ」
両脚をナワーブの背に絡め、泥棒はおよそお上品とは言えないはしたなさで裾をめくった。ナワーブが大好きで痕をつける内腿も、臨戦状態に入った細めの陰部も、腰を浮かせているせいでそのさらに奥の奥、一時期は毎晩のように訪れていた尻の穴までが白日のもとに晒される。叫ばず、鼻血も出さずにこらえた自分に、ナワーブは一生の中で最大の賛辞を送った。クリーチャーの指先が彼の尻穴に向かって這わされ、なんのてらいもなくナワーブに中を見せつけてきた時にはさらなる努力を必要とした。クリーチャーの体の柔らかさは重々承知していたものの、これはとんでもない破廉恥である。絶対に誰にも知られてはならない。イライ・クラークには当面顔を合わせない方が良いだろう。一般的な人間にはおぞましいものであるとしても、この痴態はナワーブの宝物なのだ。
「今日のコーヒーにはミルクと砂糖をお持ちしますか、ナワーブ君?」
「毎日両方ください」
うひひ、と笑うクリーチャーをたしなめるべく、ナワーブは性急にパジャマのズボンを下ろして自身を確かめた。口づけとちょっとした見世物だけで完全に勃起しているのは経験の浅さからではなく好きな相手の痴態に興奮しないほど不感症ではないからだと言い聞かせておく。慎重に指をクリーチャーの穴に入れると、柔らかな熱さに我知らず感動すら覚えた。ずっとこの中にいたい。ぬぷぬぷと指を増やすと、淫蕩な恋人が焦らすなと両脚を暴れさせるものだから困ってしまう。焦らしすぎても考えものだ。愛想を尽かされる前にと柔らかさを確かめ終えると、ナワーブは自身をクリーチャーの穴に宛がった。
「今日はね、ピアソンさん」
「なんだ、早くいれてくれよ」
「一番奥まで入れるね」
「へ」
クリーチャーの顔中に浮かんだ疑問を無視し、一挙に突き入れると面白いようにクリーチャーの体が跳ねた。柔らかい体を切り拓いていってどんどんと奥まで、自分の全てをくれてやるようにナワーブは突き進む。緊張したのか、きつすぎる締まり具合には口づけと他の部分への愛撫で宥めた。久方ぶりに目にして思うが、クリーチャーの乳首は当初より随分大きく、かつ敏感になったようで実に愛らしい。このところシャツのボタンを上まで閉めるようになった理由は、誰にも見せられないと本人が思っているからだろうかと考えるだけで唇の端が上がってしまう。柔らかく解けてきた体の奥でぶつかる壁に、辛抱強く何度も揺すって先を開けておくれと強請る。多分、クリーチャーは怖いだろう。この先にはまだ入ったことがない。目を白黒させるクリーチャーの額に口付けると、緩く解けた瞳がナワーブをせせら笑った。
言葉を交わさずとも、彼が何を望むかはわかる。二人はずっと遊んできた。そのくせ肝心なことを伝えずに、ようやく答え合わせができたのだ。クリーチャーの内奥の果てにナワーブが到達した時、ぐぷりというあり得ない音と共に全身が包み込まれるような陶酔感がナワーブを襲う。がくがくと震えるクリーチャーの浮いた肩を押さえて前後に揺すると、ナワーブはちゅう、と口づけを送ってやった。
「おかわりはいくらでも受け付けるからね」
「ぁ、らめ、いってる、っひぇるぅ、ああああっ」
「うん、俺も最高に気持ちいいよ」
大概、おかわりを強請るのはクリーチャーなのだ。十日分の寂しさくらい、倍にして埋めてやるのが紳士というものだろう。クリーチャーの陰茎からとろとろとだらしなく精液が漏れ出るのを見ながら、ナワーブは果たしてこれからミルクを注文する際に別のことを思い出しやしないかと訝しく思った。まあ良い。いずれまたわかるだろう。自分が気をつけるのは鼻血を出さないようにすること、それだけだ。あとは好きだと伝えること。どうやら見た目以上に甘えたな恋人は、ナワーブに言われるのが嬉しくてたまらないらしい。こんなことなら、もっと早くに気づいていればよかった!
「好き、大好き、好きって言ってよ」
それに対して細切れに返される言葉ににんまりと笑みを浮かべると、ナワーブは快哉と共に全力をクリーチャーに注いだ。
「ね、ピアソンさん。コーヒーでも飲まない?」
「よしとくよ。誰かさんのせいでこっちは寝不足なんだ」
何度目かの夕食後、クリーチャーはぴよぴよとヒヨコのようにまとわりついてくるナワーブに手を振った。カヴィン・アユソ仕込みのカウボーイ式荒野のローストコーヒーの香りが漂ってくる。なんともそそるのだが、ここでうんと頷くことはできない。目下、腰に漂う気だるさが喜びを越えているのだ。明日のゲームで窓枠越えができるかすら怪しい。その辺りのことはナワーブもわかっているようで、ちぇ、と口を尖らせるものの諦めの気配を目に漂わせている。
「……だから、ホットミルクをもらうとしよう」
ぱっと顔を輝かせるナワーブに胸が熱くなるのは魔法のせいではない。ちらと周りを確認すると、クリーチャーはそっと口づけを盗み取った。
〆.
あとがき>>
ツイッターで軽率にRTタグに手を出したらばの結果です。前回が重めの話だったので、軽くてもうちょいエロを重視したものにしてみました。年上の一枚上手感が好きなんだなあ。たまにはこんな甘え上手のクリーチャーがあっても良いと思います。周囲にはモロバレの符丁だというのに、全然気づかない二人であってほしい。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!