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俺も私も、君もあんたも。


猫遊び


 レース、フリル、リボンに羽飾り、ブローチネックレス輝くティアラ、げに飾りとは枚挙にいとまがない。どれほど飾り立てたって足りないのだ。元の素材よりも盛り上げることで始末をつけようという向きさえある。仕上げにはもちろん化粧を。時には一日がかり、下準備を加えたらば何ヶ月も要するこの非生産的な行いを、ナワーブ・サベダーは苦行と見ていた。こんなものが楽しい嬉しいと喜ぶ連中の気が知れない。

ナワーブとて、多少の格好つけくらいはする。が、大事なのは素材や振る舞いであって、見た目の賑やかさではないと声を大にして言いたい。もちろん、やりたい人間はいくらでもやれば良い。だが自分はごめんだ。全世界が参加しようとも、自分だけは放っておいて欲しい。

「断る」
「ダメよ、もう決まってるんだもの」
「往生際が悪いわよ、ナワーブ」
「君だって返事をしただろう」

広間の一角、よりにもよってナワーブの面前に、ずらりと並ぶは左からウィラ・ナイエル、マーサ・べハムフィール、そしてパトリシア・ドーヴァル。一対三とは分が悪いにも程がある。実は他にも二人おり、別働隊として動き回っているので完全に劣勢だ。元傭兵のグルカ魂が唸ったところでなんの効力もない。手に手に飾り物を携えた女神たちを前にして、ナワーブは面倒ごとに生返事をした過去の自分をひどく呪った。

「さ、行きましょ。フィオナが待ってるわ」

ふんだんに金モールが縫い止められた服を目の前に突きつけられる。これを自分が?目玉が腐ったって想像もできなかった世界だ。頭に銃弾を受けても幻覚すらチラつかない。軽く睨んでみたが、既にこちらを知り尽くした女性たちに叶うはずもなかった。否、これは彼女たちと言うより――

「荘園の主人からの指名ですからね。あきらめましょう」
「お前にだけは言われたくないな」

そう、強制力のある不可抗力の神託なのだった。呪詛の言葉を吐いたイライ・クラークは小さく肩を竦めて見せる。目隠しの下ではうっすら微笑んでいるらしいことくらいは天眼がなくても易々と想像できた。自分も逆の立場であれば、同じく高みの見物を楽しんだことだろう。とは言え理解はできても、許容できるかは話が別だった。舌打ちすると、ナワーブは渋々ながら椅子から立ち上がった。誰にでも、受け入れがたい運命というものがあるらしい。

「で?次は一体何がお題なのさ」

先日、休日の普段着というお題にもかかわらず、時代錯誤な短い丈のズボンを履くはめになったことを思い出してナワーブは顔をしかめた。ウィラたちの持ち物からしてきっと普段の自分よりもグッとふわふわとして『可愛い』のだろう。反吐が出る。今度はもう少し布面積が多くあって欲しい。幾度となく苦境に立たされた経験から、ナワーブは荘園の主人がどうも自分を愛らしい少年か何かのように扱おうとしていることにうすうす気がつき始めていた。面と向かって現れないだけまだマシか。

 いずれにせよ、ルールは絶対で、守らなければ恐ろしい目が待っている。一度この手のイベントごとから逃げ出したクリーチャー・ピアソンが、哀れにも炎上して文字通り一度死んだことは記憶に新しい。あれはゾッとする経験だった。本当に今、生きて動いているクリーチャーが本物なのかどうか、未だに誰も確信を持ちきれずにいるのもむりからぬことだろう。生きていて欲しい。同時に、あんな目にもあってもこの箱舟の中に住み暮らすことは生き地獄ではないかとも思う。死は――時に救済の一手なのだ。

「確か、今回は『不思議の国のアリス』だな。フランクさんがアリスをやると聞いたよ」

衣装部屋の扉を開きながら、パトリシアは一際目立つ青いひらひらを身に付けたカート・フランクを指差して見せた。確かいつぞや耳にした話では、アリスとは少女のことではなかったろうか。夢の世界に紛れ込んで冒険をするのは確かにお誂え向きだが、自分が彼の立場でなくて良かったとナワーブは安堵した。自分がアリスに選ばれたらば、カートよりも恐ろしい目に会うような予感がある。

 では自分は?差し出されたのは先ほどの金モールが大量に取り付けられたゴテゴテした軍服の上着で、ブローチのような勲章が瞬いている。この格好で走り回れと?鼻で笑って受け取ると、まだまだこれでは終わらないとばかりに美しいレースをあしらったドレスシャツ、テンの毛皮をあしらったケープにサッシュ、サスペンダーと肌触りの良いぴったりとしたズボンが積み上げられた。今回は布面積が広い代わりに、体の線がはっきりするというふざけた話だ。おまけに猫のような耳や手までが添えられている。最後に黒光するブーツ(これも猫足がついていた、芸が細かい)を渡して、マーサはお話の中身を開陳した。

「えーっと……あなたの服は『チェシャ猫』ね。すばしっこくて逃げ足が早いだなんてあなた向きよ」
「へえ。じゃあ、マーサにあげようか」
「残念。私の出番は次回なの」

それに、その服はあなたによく似合うと思うわ、とマーサの目は悪戯げに光っていた。どうせ彼女は、ここのところ口癖のような評価をするつもりだろう。敢えて口に出さないことに感謝をすべきか迷って飲み込むと、ナワーブは大人しく試着室へと収まった。




 世の不思議、とでも言うべきように思われる。赤ん坊、マカロン、撫子の花、リボンにバール、そしてネズミ。これらの共通点は?クリーチャー・ピアソンには答えられない。しかし世の女性たちは皆押し並べてこう曰う。

「可愛い!」

何か認識にまやかしをかける魔法にでもあったのかと耳を疑う話だが、事実である。荘園の一角にある衣装部屋で、新しい衣装を纏ったクリーチャーは口を尖らせて女性たちの獲物を眺めていた。まるで妖精のお祭りに連れ込まれたようにして、女性たちの中でナワーブが突き回されている。困惑と苛立ち。ぎゅっと力強く寄せられた眉間のしわは、少し離れたこちらからでもよく見えた。

  どうせなら楽しめばいいのだ。例えばカヴィン・アユソであれば喜んでその立場を甘んじて受け入れただろうし、ロビーだったらば無邪気に喜ぶ。ターコイズブルーに光るネコの衣装を纏ったナワーブはそのどちらでもない。尻尾が舌打ちするように床を叩き、クリーチャーはその動きのしなやかさに目を奪われた。肩口でフワフワ揺れるケープは、きっと一足走るごとに翻って人を誘うだろう。ふわふわとした毛並みは間違いない喜びを手に伝えてくれるはずだ。

 こんなふうに形容すれば愛らしい美少年を想像しそうなものだが、ナワーブはやや小柄な印象を受けるもののがっしりとした体つきの青年である。にも関わらず『可愛い』服が似合ってしまう――否、大概何をしても彼に付き纏うのは『可愛い』だ――のだから世界にはまだまだ不思議が満ち溢れている。あんな風に弄ばれたり突かれたり、チヤホヤされたいとは口が曲がっても言いたくない。だがどことなく面白くもなく、羨ましさがうっすら滲み出てしまうのがクリーチャーの悲しさである。

猫。自分の頭の上をするりと撫で、クリーチャーは飾り物の猫耳を掴んだ。そう、今回はどういうわけだかクリーチャーにも猫の衣装が割り振られたのである。他にも猫が、それも上物の猫がいる折に与えるとは荘園の主人は一体どういうつもりだろうか?ちらりと壁にかけられた大鏡の方を見れば、薄汚れた野良猫がこちらを見返してくる。くすんだ黒の毛皮が腕に、足に生えて所在なさげだ。尻尾も何をするでもなしにぶらついていて、クリーチャーの気持ちをよく表していた。

「ドブネズミも猫になれるものなんだな。野良猫がお似合いだよ」
「これはこれは弁護士先生。ま、前歯がいつもよりも光っているな」

嫌味の応酬に現実に戻れば、今回のイベント衣装を身につけたフレディ・ライリーが神経質そうに懐中時計を弄っていた。ぴょこぴょこと揺れるのは長い獣の耳、常になく目立つ前歯と合わせて、彼こそが不思議の国の白兎だと知らしめてくれる。十分貶すつもりでかけた言葉は褒め言葉として受け取られたらしく、自慢げに胸をそらされた。全く面白くない。真っ白なフリルが前歯と同じく眩しいのも癪に障る。

毛皮を羽織った影響で、すっかりけむくじゃらになった腕を持て余しながら、クリーチャーは自分の普段とさして変わらない安物の上着を引っ張った。今回ばかりはフレディも『可愛い』と言われるだろう。可愛いだなんて。自分にはついぞ縁のない言葉だ、ともう一度ナワーブの方を見たらば、人を殺しそうな目に射抜かれて背筋が続々と震えた。

「ピアソンさん!」
「おっと」

目と目がかち合った途端、視線よりももっと確かに体が飛び込んできて弾ける。可愛く呪われた世界をクリーチャーの目から追い出そうとするかのように、ぎゅうぎゅうと抱きついてきたナワーブで視界がいっぱいになり、呼気は全て柔らかな布に受け止められた。生き物の熱で苦しい。ケープの生地だろう、シルクのスルスルとした肌触りは心地よく、クリーチャーは仮初に与えられる身分さえ自分と天と地ほども差があることに改めて胸を湿らせた。

「新しい服を着たら、一番最初に俺に見せてっていつも言ってるでしょ。どうなってるの、これ?」
「痛っ、いだ、痛い!」

猫がネズミを弄ぶような手つきで、剥き出しになった腕の毛が引っ張られる。痛みを通り越して熱さでまぶたの裏がバチバチと光り、クリーチャーは反射的にナワーブの腹を殴った。やりすぎたと思うような理性はどこにもない。どうにか自由になった腕を見れば、地肌が赤くうっすら腫れていた。毛がむしられたらしい。もしかしたら血が滲んでいるかもしれないと思うとゾッとする。

「身体に張り付いてるんだよ!あんまり引っ張るな」
「あー、俺の服みたいなもんか。ごめんね」
「少し考えればわかりそうなものじゃないか?反省しているようには見えんな」

フレディの指摘通り、犯人はまるで心が痛まない様子だった。むしろ嬉しそうでさえある。紛れもなく変態だ。こういう時はろくなことにならないと、クリーチャーは身を以て知っていた。珍しくフレディが自分を気遣ってくれた奇跡も虚しく、状況はますます悪化するばかりである。赤くなった腕にナワーブの顔が近づき、ざりりと舐めあげられてクリーチャーはピン、と足先を伸ばした。居た堪れ無さそうな目をしたフレディがいそいそと立ち去ってゆく。つくづく気の廻るウサギだった。

 始末に追えないチェシャ猫の喉元を撫でると、ゴロゴロと喉が鳴らされる。そんなところまで獣に落ちたらしい。自分はどうだろうか。腕に触れる熱が上がってくるのを感じながら、クリーチャーは『可愛い』恋人というものを冷静に見聞した。彼はどんな気分だろう?同じ場所にいる人間から知り合いへ、そして仲間から友人をすっ飛ばして恋人になった現在でも尚、ナワーブはちょっとした火薬庫のようなものなのだ。未だに本当に世間一般で言うところの恋人なのか疑わしくもなるが、そこも含めて繊細な扱いが必要であることは確かだった。

 ちなみにクリーチャーは、二人の関係に名前があろうともなかろうとも別に良かった。名前をつけたらば壊れる気もするし、そもそもこんな関係に陥ったことも手に入れたこともないものだから手に余る。どうして自分に執着して、愛しているなどと囀ることができるかを知ったところで益体もない。代わりに、後々嫌になるくらい与えられるものを食らい尽くしておこうという気持ちだけはあった。クリーチャーが知る限り、愛とはいつだって無上に惜しみなく与えられるものを無情に惜しみなく奪い尽くすものである。あとでどんなに強請ったところで、落ちた太陽は救い上げられない。

「本当に凝った服だな、君のは」
「飾りが多くてさ。結構重いんだ」

あんたも言うの、と金色の瞳が問うてくる。『可愛い』?そうとも。素直に口にするには癪で、クリーチャーは黙って自分の尻尾を相手の尻尾に絡ませてやった。びっくりしたように瞳孔が開く様が面白い。初めて口を開いて笑うと、クリーチャーはちょんちょんとナワーブのつむじから後ろを測るように突いた。震えるたびに体が消えたり現れたりと忙しい。

「なあ、サベダー君」
「う、うん」
「せっかく新しい服を着たんだ、見せてくれないか?」

不思議の世界の扉が開いた。




 誰にも懐かない野良猫が、自分にだけすり寄って甘えてくれる。優越感に満たされて天井を突き抜けそうだ。クリーチャーに触れられ、求められる時、ナワーブは自分が思う以上に小さな自分を感じて深く満足する。青々とした芝生を踏んでゆく黒い後ろ足を眺めながら、いい加減なところでゴワゴワとした尻尾を引っ張って止めてやった。

「ヒァッ」
「もういいでしょ。夜になるまで走るつもり?」

可愛い可愛いと手を伸ばしてくる人間たちを跳ね除けて、二人揃って野原の向こうにまで出かけたのは、着ている衣装に意識が引きずられているからだろうか。引っ張った際に痛くなったのか、尻尾の付け根を撫でるクリーチャーの所作は猫にも似ていた。帽子の下から飛び出た耳と尻尾、ついでに猫らしい手足。それを除けばいつもの薄らぼけた服装と同じだった。普段から野良猫のようだと思っていたナワーブの妄想を汲み取ったかのような姿に、荘園の主人に対する親近感と憎悪の両方がわき起こる。野良猫の可愛さなぞ、世界にただ一人、自分だけがわかっていれば良いのだ。もしそうであれば、どんなに安心できることか。

 尻尾を巻き取るようにして辿り、痛がる尻尾の付け根を軽く撫でれば、今更のように目を見開かれる。自分が見当違いなことをしているような目をしないでほしい。わかっていたはずだと詰りたくなってしまう。意思を込めてクリーチャーの薄い尻肉を掴むと、ナワーブの獣の手は人間の時とは違った刺激でちくちくした。稜線をなぞって肉のありかを確かめながらこちらを向かせる。うっすら赤く染まった頬に、欲が滲んで心臓が波打った。

「可愛いなあ」
「そ、れは」

君のことじゃないか、と言いかけて噤んでしまうクリーチャーが、ナワーブは世界の誰よりも好きだった。いじっぱりで、そして自分が求めていることを理解している。可愛い?そんな言葉でも良いが、聞きたいのはもっと力強い切望だ。人の時よりも太い指先で尻の間を開き、トントンと尻尾の根元を突くとふわりとほぐれた尻尾が腕に絡みつく。

「ピアソンさんの体、どこまで猫になってるのかな」
「君こそ」

しなやかなクリーチャーの手が顎の下をくすぐり、ナワーブは心地よさからゴロゴロと喉を鳴らした。後は言葉にするまでもなく、顔を近づければあちらも寄り添う。ざりざりとした舌触りが心地良い。人間の時よりも舌が長いのか、クリーチャーの舌が口内を動き回るとナワーブの胸は否応なしに高まった。きっとここが、館の外、それも誰か追いかけてきたらばすぐさま目に入るような場所であることは頭から消し飛んでるに違いない。口を吸い、頬を舐め上げ、喉を噛む。少し痛いくらいに強く噛んでやれば甘い声がまろび出て、ナワーブはうっそりと微笑んだ。どうも、クリーチャーは被虐の喜びを感じられるらしい。

 もこもことした獣の手は扱いにくく、ボタンを外せないとはもどかしい。引っ掻くようにシャツの上から撫でてやると、獣になりきれていないクリーチャーが自らボタンを外し始めた。あのクリーチャーが!願い出てもなかなか叶えてもらえない事態に、ナワーブは脳天を殴られたのかと思うほど痺れた。尻を弄ってズボンも下させ、青草の上にごろりと横たえる。昼日中からこんな乱れた姿の彼をくっきりと見られるだなんて、新衣装様様だ。荘園の主人にはやはり感謝しなくてはならないだろう。

感嘆を漏らして眺めていると、クリーチャーはスンスンと鼻を鳴らしてパンツまで脱ぎ始めた。衣類が片足だけに引っかかっている姿は妙に艶めかしい。真っ黒なボソボソとした毛はクリーチャーの髪にも似た質感で、内腿のあたりばかりが人間の名残をなしている。生白い皮膚と毛皮との境目をなぞると、ぶるぶるとクリーチャーの中心が震えた。ここも人間のままだ。

「ここまで毛が生えてるんだね」
「ぁ、もっとちゃんと、んんっ……さわってえ、」
「うん」

冷静になろうとすればするほど言葉は短くなる。そうでもなければ理性が転げ落ちそうだ。腹に手を滑らせ、乱れたシャツをきれいに開けば、ナワーブがこれまで丹精込めて育て上げた果実が甘く誘う。

「うわ絶景」
「な、な、」

それもたくさん。やはり生白い肌の上にある乳首の数は、獣と同じ数だった。今しか味わえないお楽しみは大事に扱わねばなるまい。かぱりと大きく口を開くと、ナワーブは丁寧に可愛がり始めた。

「いーち」
「ぁんっ」

まずは舐めて。艶やかといえども少し乾いているあたり、これから丁寧に扱って欲しいとわがままを言うようでナワーブのお気に入りだった。第一、自分以外の誰が暴こうと思うだろう?

「ふたーつ」
「や、」

吸い上げて。合間に頼りない様子のクリーチャー自身をもふもふとした手で慰めるのも忘れない。濡れた感触でべたべたし始めるあたり、十分相手を喜ばせられているようだ。噛んで、焦らして、突いて摘む。隠微な数え上げは八つまで続き、全部をいっぺんに可愛がれないことをナワーブは心の底から残念に思った。とは言え、下の乳首で遊んでいる間に、クリーチャーが自分で上のものを弄っているのは最高の眺めだった。へそまで舐めてもまだ足りない。

「こんなにたくさんあるんだから、赤ちゃんいっぱいできても大丈夫だね。俺にも残しておいてくれるよね?……聞こえてないか」

服を全部脱がしてしまったら魔法が解けるだろうけれども、余すところなく見たくて仕方がなかった。下半身がぱんぱんに張ってしまってきつい。自分のズボンも脱ぎにくいとはどうしようもない衣装だ。だがここまで来たならば、獣のままで最後まで進みたい。ナワーブが体を離しても、自分の快楽を追いかけることに夢中のクリーチャーに微笑み、ナワーブは愛しい人の顔の上にまたがった。自分の眼前にはクリーチャーのびくびくと怯える陰茎が揺れている。所謂シックスナインという体勢だ。股間を相手の顔に押し付けてやれば流石にわかったようで、自慰に夢中になっていたクリーチャーが正気にかえる。

「え?」
「脱がせて。俺の手じゃ脱ぎにくいんだ….ほら、俺の体がどうなってるか見たいでしょ?それにこのままじゃお互い辛いよ」
「わかった」

きっと菓子より甘い顔をしているのだろう。すぐさま面倒な雑種が解かれるのを感じ、ナワーブは開放感にうずうずしながらクリーチャーの陰茎をパクリと咥えた。甘い悲鳴が耳に心地良い。何度舐めても美味しいものではないけれども、今日は少し美味しいような気がする。これも魔法だろうか?だらだらとヨダレを流してさらに先、自分を迎え入れてくれる穴に指を這わせ、ナワーブはむうと唇を歪めた。入らない。張り詰め始めたクリーチャーの睾丸を突いて遊び、ナワーブは自分の分厚い毛皮に覆われた手を眺めた。これを入れるならば、無理やり挿入するのとそう変わりはない。

 流血沙汰を避けなければ、今度こそ全行為がエミリー・ダイアーの監督下に置かれてしまう。既に散々叱られ、衛生とは何かを講義された辛い時間が頭を過ぎる。あれは二度と繰り返したくない。そもそもクリーチャーは恥ずかしがり屋で、ややもすると逃げ出すような性質なのだ。あやふやなままやり過ごそうとする相手の首根っこを捕まえたのは、一度や二度のことではない。

「うわっ」

ぬろ、とねっとりとしたものに自分の陰茎を弄られ、ナワーブは慌てて思考を取り戻した。どうやら焦れたクリーチャーが仕返しを思いついたらしい。吸って、舐められるたびにざらりとした舌の感触が欲を煽ってゆく。一体どんな顔でしてくれているのか、なんとしても期待に応えねばとナワーブは奥歯を噛み締めた。自分が教え込んだ口技が、本格的に陥落させてくるのは時間の問題である。

 少し考え、ナワーブが捕まえたのは、これまた自分を誘ってやまないクリーチャーの尻尾だった。ナワーブのそれよりも細く、人間の指よりも少し太いくらいの棒と言っても良いだろう。愛しげに撫でると、ナワーブは迷わず先端を舐め上げた。毛皮が口の中を踊って気持ちが悪い。愛しい人の匂いで頭がいっぱいになって心が満たされるものの、ぬらぬらと濡れた尻尾を吐き出すと思い切り毛玉を吐いた。クリーチャーが何か疑問の声を上げているが構いはしない。クリーチャーの脚を押さえると、ナワーブは迷わず尻尾の先を穴へと連れ込んだ。

「ぁ、やあ、なに、なに、」
「大丈夫、安心して。ちゃんと解さないと痛いからね」

未知の感覚に困惑する隙をついて、ナワーブはすかさず体勢を元の形になるように――クリーチャーに今の状態がよく見えるようにしてやった。尻尾を奥に入れて、出して。信じられないという顔をした恋人が蕩けるにはそうかからない。クリーチャーの手を掴んで、穴の方へと誘うと、ナワーブはゆっくりと中へ沈めてやった。尻尾を動かしてやれば、急かされるようにして戸惑う指先も上下する。じゅぷじゅぷと響く音は汚く卑猥で、ナワーブは自分の青い毛に覆われた陰茎が硬くそそりたつのを確かめて満足した。あとで思い出して物足りなくなるかもしれない。次は自分の尻尾を入れてやろうか。

「気持ちいいんだね、ピアソンさん。自分の尻尾でイっちゃうかな?」
「ちが……!これはぁ、き、君が、ぁんっ」
「俺のせいにしちゃだめだよ」

尻尾を動かすのをやめてもなお、指を出し入れする手は止まらない。それどころか、クリーチャーの尻尾は意思を持って主人の体を穿ち始めていた。

「ピアソンさん、気持ちいいのが好きだもんね」

ここ、外だよ。教えてやりながら優しく尻尾と手とを追い出す。呆然とするクリーチャーの表情がたまらない。羞恥と怒りと――何よりも、深い快楽で歪んでいる。細い両足を抱え上げ、ナワーブは今度こそ中へと自身を突き入れた。散々いじって柔らかくなった中身は、自分を全て受け入れようとするように貪欲で情熱的で優しい。キュウキュウと締め付ける切なさに、ナワーブの心臓もぎゅっと掴まれる。世界で一番自分を求めて、必要として、自分が必要とするのは彼だけだ。

「一緒に気持ち良くなろうね」

好きだよ、だなんて使い古された言葉を何度言ったろう。何度言っても足りなくて、何度言われてもまだ欲しい。可愛くて可哀想で二人とない人。熱の全てを思うがままにぶつけて、ナワーブは痛みから逃げ出そうとするクリーチャーの喉元を本能的にがぶりと噛んだ。どうやら自分の陰茎もまた、獣めいた物騒なものに変わっていたらしい。後ろに引こうとすると、トゲトゲしたものが引っかかって背筋がぞくぞくする。こぼれた涙を舐めとると、ナワーブはクリーチャーの下腹部が真っ白に汚れているのを見て喉を鳴らした。

「ずっと一緒だよ」

飾り立てずとも可愛い人を抱きしめて、ナワーブはさらに深くへと扉を潜った。




 身体の内外が熱くて痛い。微睡に取り残されたい気持ちと、起きた方が良いと言う理性の呼び声とに揺さぶられ、クリーチャーはようよう起き上がった。途端ぶるりと震えて素早く元の位置に戻る。毛布の中は暖かで、おまけにすうすうと寝息を立てるナワーブの姿があった。これならばしばらく寒さを感じずに済むだろう。そのまま寝ようと試みて、クリーチャーはちらりと視界の端に映った赤に気を取られた。赤?

「は、」

裸の体一面を飾るのは形も大きさも異なる赤だ。ぞっとして指でなぞればまざまざと記憶が蘇る。今となってはすっかり人間そのものの(彼もまた裸であることにようやく頭が追いついてきた)ナワーブが、どんな風に舐め、吸い、噛んで時には食べられるのではないかと思うほどに体中を暴かれたのか。魔法が解けて人になっても、残された情交の痕は消えないらしい。ヒリヒリとジワジワと熱を持って、頭がじんと痺れる。ナワーブの肩口に顔を埋めると、浮ついた熱でのぼせそうだった。

「んー、どうしたの、ピアソンさん」

まだ頭がはっきりとしないのだろう、ナワーブがぼんやりと開いた瞳は焦点が合っていない。金色にぎらついた獣の名残は失せている。やんわりと押し倒し、クリーチャーはナワーブの股間をしげしげと眺めた。人間だった。と、するとあの痛みは大丈夫だろうか?腰を浮かせて、自分の股の間を探る。すべすべとした、緩んだ皮膚の向こうに広がる様子は、ぷっくりとして行為を経たことを思わせるものの傷ひとつない。良かった。挿入時のあの痛みは魔法の一部ということだろう。魔法が解けた相方に目を向けて、クリーチャーはかちんと固まった。

「……なんで勃ってるんだ、サベダー君」
「そりゃ朝だし」

チェシャ猫がするりと這い寄る。まったく油断も隙もない。がっしりとした元傭兵の腕に掴まれて、クリーチャーはごくりと喉を鳴らした。

「人間のあんたも確かめたいなって思ってさ」
「奇遇だな」

自分もそのつもりだった、となけなしの意地を張ればどんと重みが飛んでくる。目一杯に広がる肌は日光に愛された色合いだ。これを飾りで覆い尽くすなどどうかしている。こんなにも美味しそうなのに。

自分だけが知る『可愛い』生き物に喉を鳴らすと、クリーチャーは両手を広げて待ち受けた。


〆.


あとがき>>
 早割万歳!腐っかさん早割入稿チャレンジ成功のお祝い作品です。おめでとうううう!!今までにないRものをとのことなので、色々な初めてを盛りました……不思議の国の猫には色々あると思います。なんでも可能にしてくれる力が!すばらしい。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!