宝探し
宝探しは、昔から得意だった。イースターエッグ、ガレット・デ・ロワに入ったコイン、祖父のとっておきの菓子、クリスマスプレゼントの隠し場所、それに敵軍のキャンプ地、どれもカート・フランクの能力を世に証明するものである。ただ、そこに何かがあるなと思うだけで、実際にどのようなものなのかまではわからない。だが、見つかればいつかは意味も判明するだろう。人生だってそうだ。
だから宝探しができる自分は、もっとワクワクするような冒険譚を得るべきだと思ったのは自然な流れだろう。戦地はもううんざりだった。怒号、死体、血と泥にいつ死ぬか殺すかを考えねばならい状況に神経は尖りっぱなしで休む暇もない。戦役が終わって心の底からほっとしたカートは全てを忘れて自分で作り出した夢物語の中に住みたかった。冷酷で打算的な人間が多い世の中よりも、ドラゴンがいる世界は楽しいに決まっている。何より、自分は冒険家なのだ。
「君は懐中電灯を使うんだね」
「あ、ああ」
遥かなる冒険の先に出くわした荘園で出会ったのは、いつか見たような懐中電灯を扱う男だった。クリーチャー・ピアソンという痩せた奇妙な男はカートの問いかけにあからさまに動揺するも、懐中電灯のスイッチをつけて壁を照らした。最初は白、続いて爆竹の花火のような音がし、最後には虹色のめくるめく色合いへと変化してゆく。荘園の主人が自分に与えたのと同じく、一種の魔法がかかっていることはわかるも、カートの胸を弾ませるには十分だった。幼い頃の最初の冒険で、ドラゴンの巣穴を捜索したことは昨日のことのように覚えている。残念ながらドラゴンの卵は見つからなかったが、ドラゴンが集めていた懐中電灯を見つけ出したのだ。もしかしたら、あれはクリーチャーの手の中にあるものと同じかもしれない。
「あー、カートの本は小さくなれるんだろう?ウッズさんに聞いたことがある。中身が面白いだけじゃないって」
「読んでみたいかい?」
ウッズさん、という単語と共にうっすら浮かんだ喜びにカートは顔をしかめた。なぜだかそれは自分が求めたものではない気がしたのである。いつでも取り出せるようにサイドバッグ(館でくつろぐときにリュックサックは大げさで邪魔だ)から本を取り出すと、カートは表紙を一撫でしてクリーチャーに差し出した。あのドラゴンの革で作ったような、硬質な緑色の革表紙はカートのお気に入りで、毎回違う物語を紡ぎ出すところまで御誂え向きだった。この荘園を出た後も持ち続けられるだろうか?現実に待ち構えている債務のことがちらつく。賞金はそれに当てるとしても、ちょっとしたお土産は携えていきたい。
「いや、正直なところ、本を読むのは得意じゃないんだ」
字が読めないわけじゃないぞ、と添えながら革表紙に目を落とすクリーチャーが物語を欲していることは何よりもカートの胸に響いた。ここに宝物がある。ゲームの最中に掘り当てるように、カートの頭の中にきらりと輝きが放たれた。
「それじゃあ僕が読んであげよう。僕は人に話すのが好きなんだーー自分が経験したことだしね」
「良いのか?」
「もちろんだとも」
ぱっと喜色を浮かべたクリーチャーに、カートはぎゅっと胸をつままれたような心地になった。聴衆、それはまさに冒険譚に必要なものである。聴く者のいない物語など存在しないも同然だ。ソファに移動し、本を広げる。カートも知らない、『実際に経験してきた』冒険譚だ。もしこの荘園で積み重ねる冒険が一冊の本になるとしたら、と一頁目をめくってカートは手を止めた。隣に座る男も登場するに違いない。
「じゃあ、始めるとしよう」
多分、ここにあるんだ、とカートは確信した。今この二人の中に、宝物が埋まっている。それが何かはわからない。けれども、見つけ出せばいつかはわかるのだ。
人生はうまくできている。
〆.