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さかさま


 格好がつかない所の話ではない。クスクス笑う恋人のクリーチャー・ピアソンを見下ろしながら、ナワーブ・サベダーは己の不手際を呪った。こんな機会、早々ないというのにどうして今日に限って普段ならしないヘマをしたのだろう。笑わないでよと言っても、多分逆の立場であれば自分も笑うようなことだからかえってナワーブもしょげてしまった。ついてない。まったくもってこれに尽きる。

 話は半日ほど前に遡る。アンドルー・クレスとノートン・キャンベル、そしてクリーチャーという地獄の果てまで金を掴みに来る面子に囲まれてのカード試合はまさに泥沼だった。クリベッジを二人組でやるには人が足りないと呼ばれたのはいいものの、ナワーブには賭博への興味がない。ほんの僅かな小金を行ったり来たりさせて白熱する連中が哀れにも思えてくるほどだ。

 だが、恋人に可愛くねだられたらば参加しない手はない。多少の心得はあるのだし、何よりクリーチャーに良いところを見せたかった。首尾はとんとんといったところである。夜も更けて切り上げた方が良いとナワーブが袖を引いても、カードに取り憑かれたクリーチャーがベッドに向かうことはなかった。

「そろそろ寝ようよ、ピアソンさん」
「まだ。あと少しくらい良いだろう?俺たちが勝ち越してるんだ、今が稼ぎどきなんだよ」

なあ、と腕をなぞる手口は何処で覚えたのか。甘やかしすぎだという外野の声を無視し、ナワーブはそのままずるずると空が白むまで付き合った。昼前に試合があることを思い出したのは、ほとほとに疲れて眠りについた頃である。傭兵時代に培った習性から、起きられないということはない。この程度の睡眠不足だって余裕だ。が、やはりどこか緩んでいたらしい。

 思えば束の間の眠りから目が覚め、支度をしながら違和感を抱いてはいたのだ。何かがおかしい。昨日は疲れさせてごめんな、とクリーチャーが申し訳なさそうに頬を撫でてくるも上の空だった。いつもであればそのまま甘やかされるところが、さらりと動くこともない。クリーチャーが首を傾げたのも当然だろう。

ゲームに出ればチェイスも普段通り、無意識にそのまま当たり前の日常をこなしていたのだが、寝違えたような気持ちの悪さは拭えない。流石に昼寝をしようかと、ナワーブはこの不調を寝て切り替えることも検討し始めた。あるいはシャワーを浴びるとか。昼からシャワーとは贅沢でなかなか良い響きだ。そうしようと思えば気分も上がる。が、シャワー室に入る手前で蠱惑的な手が行手を阻んだ。

「なあ、サベダー君。昨日は無理をさせたろう、その……少しお礼をさせてくれないか」
「喜んで」

クリーチャーのセリフが甘く鼓膜に響く。するりと絡みつく器用な手はナワーブが好きな部位の一つだった。ごくりと自分の喉が鳴った音は相手に聞こえただろうか。シャワー室に引っ張り込まれ、壁に押し付けられた時には睡眠不足からだけでなく頭がくらくらした。クリーチャーから積極的に誘いかけてくるなど滅多にない。昨晩の頑張りは無駄ではなかったのだ。ズボン越しに股間を撫でられ、首筋に何度も口付けられる。クリーチャーの顔はそのままだんだんと下に下がってゆき、ズボンが寛げられてさあいよいよといったところで――冒頭に戻る。

「き、君はそのまま半日も過ごしてたのか?」
「……そうだよ」

クリーチャーの行手を阻んだのは一枚の布、それも前後があべこべになったナワーブのパンツだった。道理で!道理で何かおかしいと気になって仕方がなかったわけだ。小用を足すこともあったはずだというのに、気づかなかったのはかえって器用ですらある。決まりの悪い思いをしたナワーブができたのは、クスクス笑うクリーチャーの頭を撫でてやるくらいだった。雰囲気は台無しだし、こんな調子ではお礼も仕切り直ししてもらった方が良いだろう。何しろナワーブのナワーブもすっかり意気消沈してしまっている。また夜にでも、今度はキリリと格好をつけて再戦といこう。クリーチャーが気に入っていた寄生の衣装なんてどうだろう?きっと夢中になってくれるはずだ。

「ピアソンさん、後でにしよう」
「別に良いじゃないか」
「へ?」

まるで慰めるかのようにクリーチャーの手が怪しく蠢く。だからどこでそんな手管を覚えたのか――以前に問いただした際には、「君からだ」なんて可愛いことを言ってはぐらかしたが本当のところは謎に包まれたままだ。すり、とクリーチャーの鼻先が内腿をなぞる。

「布越し、っていうのも試してみたら楽しいかもな」

嗚呼神様。なんて魅力的!ナワーブはため息を溢すと、壁に背を預けて悪魔の誘いを受け入れた。


〆.