花の声
チョキン、チョキン、トントン、チョキン。よく砥がれた良いハサミの働きぶりが音から伝わる。クリーチャー・ピアソンは隣で作業をするプロの仕事を眺めていた。エマ・ウッズは庭師だという。工具箱を持っている姿の方が馴染みがあるが、こうして庭先で植物をいじる姿が本来のものなのだ。長い長い枝の高枝バサミ、小さな枝葉をちょん切る剪定バサミ、根から掘り出すシャベルにクワと、植物たちにとってはさぞや恐ろしい蹂躙者だろう。
所詮、庭とは人工的なものだ。いつぞや上流階級の誰かが開いたチャリティガーデンパーティなるものに出かけたが、迷路のようにうねった木々は完全に偽物の領域に入っていた。ああして完成された形にするには相当の労力が必要だろう。大地に好きな植物を植える。雑草とみなされた落第者はふるい落とされ根こそぎ消滅される。美しいとされたものでさえ、美しくあるためには腕をもがれる。いらない腕を、脚を、時には頭でさえ。人間はわがままな生き物だ。
「……もし、植物が話せたら仕事がやりにくいだろうな」
「なんのお話?」
ジョギン、と花束にすべく百合の花を切り取ったエマがこちらを向く。意外にもクリーチャーの独り言を聞いていたらしい。普段あれほど会話の成立が難しい相手にしては珍しいことだった。嬉しさからか落ち着かないまま、クリーチャーは彼女にも分かるように身振り手振りを添えて繰り返してやることにした。
「ほら、こうやって切るたびに『痛い!』とか『やめて!』って言われたら面倒だろう。ウッズさんは嫌じゃないか?」
「……ピアソンさんは不思議なの」
「え?」
笑顔で葉っぱがもがれてゆく。今度はハサミではなく、自らの手で優しく柔らかに。その手つきに見覚えがあるような気がして、クリーチャーは見える片方の目を瞬かせた。
「そうしないといけないなら、仕方がないの」
仕方がないんだ。だって正しいことなんだから。真っ直ぐに目が合った――エマと目がまともにぶつかるなど本当に久しぶりだ――その目は真っ暗で、なんら光を映さないように見えた。言い知れない悪寒で背筋が震える。正しいことだから。頭の中で花が子供に置き換わる。
「それにほら、この方がずっと綺麗なの」
この方がずっと可哀想で可愛い。もしかしたら彼女は自分に何かを言わせたいのだろうか?彼女を見るとどうも昔のことが思い出されてならない。他人には随分喧しく貶されたものだが、彼らは何も知らない。クリーチャーは正しかったし、今だって正しい。
「そうだな」
頭だけになった花が、他の不具のものたちと一緒になって美しい花束が生まれた。今日はこれから誰かの誕生日が始まる。お祝いにはぴったりだよ、とクリーチャーは引きつるようにして笑顔を浮かべた。
〆.