あーもう勘弁してください!
許してよ
本当はやりたくなかったし、やるつもりでもなかったし、もちろん悪いってことはよくわかってるんだ、けれどもやってしまったという経験、誰にだってあるだろう?神様だって日曜日には疲れて休んだものだし、不可抗力というものは誰だってある。ああ素晴らしき休みよ、けれどもまあ、予定外だったんだ。いややめよう、こういう時はそう、
「ごめんなさい」
「理由は?」
あくまでも冷静な声に、クリーチャー・ピアソンは早くも建て直しの困難さを感じ取った。伊達に他人と折衝することの多い人生を送っていたわけではない。ただ、まだやりようはある。目下静かに淡々と怒っているナワーブ・サベダーは、なんと言ってもクリーチャーを慕っているのだ。それにあぐらをかくわけではないが、あの目の見えないヘレナ・アダムスでさえも二人の仲の良さ、もといナワーブのなつき様を指摘するのだからあながち外れてはいないだろう。
「俺、ピアソンさんがくると思ってずっと待ってたんだけど」
「……先週約束したからな」
「他の約束を作った上にそっちを優先したんだよね」
弁解したい気持ちをぐっと堪えると、クリーチャーは必死に頭を動かした。ナワーブとチェイス練習の約束をしたのは、確か先週の水曜日だったと今ならば思いだせる。だが、木曜金曜土日月曜日とどんどんバタバタ時間がクリーチャーを追い越していくうちに脳味噌から溢れてしまったのだ。それもこれも荘園の主人が気まぐれにヨーヨー集めなどという催事を企画したことが悪い。あまり乗り気でなかったナワーブに反し、クリーチャーは俄然奮起する理由があったのだ。今を逃せば二度とチャンスは訪れない。荘園の主人は気まぐれなのだ。同じく譲れない理由があるという面々と協力してなんとか目標は達成できたものの、結果は大事な相手を悲しませる結果となってしまった。
そう、クリーチャーはよくわかっている。ナワーブは怒っているというよりもただ悲しんでいるのだ。見捨てられた子供がねじくれひねた姿を重ねて、クリーチャーは益々心苦しくなった。口先だけでやり過ごすには余りにもしのびない。おもねるわけではないが、クリーチャーは手札という手札を全て曝け出すことにした。
「あー、弁解じゃないが理由を説明させてくれ」
「……いいよ」
一応耳を傾けようとするナワーブのいじましさに胸打たれ、クリーチャーはひどく体が痛んだ。ナワーブを誘って、自分の部屋へと連れてゆく。怪訝そうながらも大人しくついてきた青年に、クリーチャーは許しを乞うようにして机の上の大きな箱を手渡した。
「開けてくれないか」
「ご機嫌とりのつもり?」
「半分はそうだが、半分は理由だよ」
声に潜む落胆に気づかないではないが、クリーチャーはどうしてもナワーブに贈りたかった。そうでなければどうして面倒な催事に熱中するだろう?丁寧に包装紙を剥ぐと、ナワーブが恐る恐る箱を開ける。じわじわと驚きが、喜びがナワーブの顔から悲しみを追いやっていった。
「ピアソンさん、こ、これ」
「君の衣装だ。特別なものだと聞いたから、」
「俺のために頑張ってくれたの」
「君のためだからな」
そうでなければ頑張らなかったし、約束を忘れるほど没頭しなかったんだ、と洗いざらい話しながら、クリーチャーはこれでは自分の方がナワーブに熱を上げているようだと苦笑した。確かに間違ってはいるまい。いくら慈善家の看板を背負っているとはいえ、好いたらしい相手でなければ、とっくのとうに邪険に追いやっている。感動の面持ちのナワーブは、新しい衣装を身に当てると似合うかと尋ねてきた。
「よく似合っているよ。荘園の主人は趣味が良いな」
「ピアソンさんは本当にずるいな」
もう怒れないよ、とナワーブが抱きついてくる。頭を撫でてやると、クリーチャーはほっと胸を撫で下ろしてばくつく心臓を抑えた。
「もう破らないでね」
「善処する」
「そこは確約してよ」
「……人生万が一ということもあるからな。あー、わかったわかった!次破ったら、君の願いをなんでも一つ叶えてやる。これなら良いだろう?私も破らないようになりそうだしな」
「なんでも良いんだね」
「私にできることならばな」
言いながら、クリーチャーは自分がとんでもない間違いをしでかしたような気分になって不安に襲われた。いや、そんなことなどあるはずもない。上機嫌な青年に着替えるように言って、クリーチャーはようやく訪れた晴れ間に深く感謝した。
〆.