まだ、君に夢中。/#0.ライムジュース
飽きると思っていた。ナワーブ・サベダーは我ながら気持ちが継続していること驚いて、落ち着くためにライムジュースを飲んだ。ゴクリと喉を通っていく爽やかさは夏の名残を思わせる。
クリーチャー・ピアソン謹製のこの飲み物も、もう少しすれば期限切れでしばらく顔を拝めない。彼の手が丁寧にライムを切り出し、皮を剥いてタネを取ってミキサーにかけていたその瞬間はありありと思い出せる。壊れやすいものを取り扱うような仕草は実に器用で無駄がなく、美しくさえあった。
さて、そんなクリーチャーだ。ナワーブは目下このおじさんとお付き合いをしている。心も体も通じ合った恋人で、夢でも幻でもない。おじさんはおじさんだし、クリーチャーが情緒不安定さと胡散臭さによって、周囲の人間から距離を置かれていたことも紛れもない事実だ。
一方で、クリーチャーはその料理の腕前や洗濯・掃除などへの惜しみのない助力によってある一定の立場を得てはいたのだけれども、始まりが始まりだけに完全に印象を変えるには至っていない。そんなものだろうとナワーブ自身もこの評価に対しては納得の結果である。
例えば、こんなふうに考える人間がいても不思議ではない。ナワーブが荘園という閉鎖空間で娯楽を見出すためにクリーチャーに近づき、暇つぶしをしているのだ、と。あるいは恋をしていてもそれは目くらましのような一時の熱狂に過ぎないと。どちらも大いに当てはまりうるのだが驚いたことに、いまだにナワーブはクリーチャーに夢中であり飽きることを知らない。むしろまだ足りないのではないかとさえ思う。
最初に立ちもどろう。始まりとはいつだって些細で簡単なものだ。もう一口ライムジュースを飲んで、ナワーブはしばし過去へと想いを馳せた。
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