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まだ、君に夢中。/#5.バナナ、バナナ、バナナ!


 飽きると思っていた。ふと鼻先を過去が過ぎり、クリーチャー・ピアソンはバナナの皮を剥く手を止めた。周辺には黄色が散らばり、むせ返るほどの悩ましい香りで満ちている。わかりやすくも出所は勿論バナナ、何を思ったかモウロが大量発注した南国の果物であった。たどたどしい説明によれば、どうやら一箱あたり何本収められているのか把握していなかったらしい。誰にでもありうる間違いの類ではあったが、いささか豪快な量で、生で食べるにも限界がありやしないかとクリーチャーは首を捻っていた。モウロの相方は大変満足しているようだが、そろそろ一手間加えるべきだろう。なにせもったいない。
 人間の中で飽きずに食べているのはノートンくらいだ。鉱山労働者にとっても、安く栄養豊富で腹持ちのする食事としてバナナは持て囃されていたのである。何より黄色という色が良いね、とノートンは笑って教えてくれた。炭鉱の暗がりで、さんさんと輝く太陽の光を集めたような果実は、色の少ない世界での安らぎであったらしい。そうした意味では、とクリーチャーは唇の端を釣り上げた。自分にも日々の拠り所となるような安らぎがあると言える。剥き切ったバナナたちを一口大に切りわけて、ヨーグルトに牛乳、蜂蜜、それに氷と一緒にブレンダーに放り込む。料理をしながら、食べる相手のことを考えるようになったのは荘園に来てからで、それも毎日継続して頭を絞るようになったのはごく最近の話だった。
 食事は、食事だ。毎日口に何かを入れる。生きるため、食材を無駄にしないため、それこそパンと水だけだって問題はない。一つ意味合いを変えればただの作業だが、余裕を持ったこの荘園の中で、クリーチャーはごく当たり前の繰り返しに対し、初めて夢中になることを知った。開いた窓の向こうから、庭先で開かれたパンケーキパーティの匂いが漂う。最初はクレープを作りたいとウィラの要望を元に始めたのだが、そんな薄いものでは腹に溜まらないと言ってマイクやウィリアムたちがどんどんと生地を分厚くしていった結果である。もちろんトッピングはバナナ、バナナアイス、焦がし砂糖をまぶして焼き上げたバナナ、チョコレートソースに浸したバナナであることは言うまでもない。オーブンの中ではバナナケーキが香ばしく焼き上がりつつある。世界はバナナで満ちていた。
 多分、バナナには飽きるだろう。それ以外のものだってたくさんあるのだし、どんなに工夫しようともバナナの味は一つきりだ。それに比べてナワーブはどうだろう!この年若い青年との恋愛(と呼ぶのはいまだに少々恥ずかしさがあった、大体この言葉では不十分だ)はクリーチャーにとって未知数だった。偶然を積み重ねた関係をただの錯覚と呼ぶのは簡単で、惑乱や熱狂は過ぎ去るものだと言い聞かせる方が余程もっともらしい。にも関わらず、クリーチャーは今でもまだ足りない、もっとここにいたいと恥知らずなことまで願っている。出来上がったバナナシェイクをピッチャーに移動させると、クリーチャーはもやもやと広がる未来を思って緩む頬をぎゅっと引き締めた。飲んだらナワーブはなんと言うだろう?また飲みたいと言ってくれはしないか。

 ああまだ夢中だ、どれほど夢中になっても飽きやしない。まだ君に夢中だ、もっと、もっと、もっと!



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